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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
壊滅した都市
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「…人間が焼ける臭いだと?」


「はいこの臭いはそれしか思い当たらないっすね」


掠れた声を絞り出したキースにシルフィーはこくりと頷いた。

レイモンドもシルフィーを真っ直ぐに見詰めた。


「フィー、それは間違いないかい?」


「私嗅覚には自信しかないです」


「そう、分かった」


レイモンドはシルフィーを下ろすと窓から身を乗り出し鋭い瞳で周囲をぐるりと見渡した。

だがどこまでも続く草原にそれらしき煙は見当たらない。


「…火事が起きてる様には見えないね。

煙が上がっている様子はないよ」


「そうなんすよね。

だからまあ余計に不味いかなと」


「どういう事?」


「煙さえ目視できない程に現場とは距離が離れているのに臭うって、そうとう被害が甚大なんじゃないかと」


シルフィーの言葉にレイモンドは小さくなるほどと呟いた。

キースは鞄から慌てて地図を取り出すと羽根ペンを走らせ始める。


「…レイモンド、現在地は?」


「イシュラン領中腹のガンディア平原。

目的地のイシュラン領最大都市クライディスまでは25km程かと」


「近隣に他の都市や村は合わせて…四箇所か」


「えぇ。

ですが他の都市は1番近い場所で3km。

遠い所でも12kmです。

平坦な土地で見通しが良く風がない、天気も良い今ならば煙の目視は可能かと」


「では何か起きているとすればクライディスか?」


「その可能性は高いと思います」


キースは舌打ちをすると振り返り御者台に座るガウルへと指示を飛ばした。


「ガウル、クライディスまで飛ばせるか?!」


「うおっ?!

えっと、そんな整備された道じゃないんで揺れても良いなら」


「大丈夫だ。

飛ばしてくれ」


「了解しましたよっと!!」


ガウルが馬に鞭を振るうバチンと言う音が響くと同時に馬車がガタンと大きく揺れた。


「うぎゃっ」


「あっ」


今度こそ座席から投げ出されたシルフィーは正面に座っていたキースに向かって飛んだ。

そのまま頭を鳩尾にめり込ませる。

キースの横に座っていたミリアも慌てて飛び退いた。


「ぐふっ!!!!!!!!!!!!」


「きゃあ!!!!!!」


「びっくりした…」


「キース殿下?!」


「あちゃあ…」


馬車の床に転がったシルフィーに早く戻って来いと、片手で額を抑えたままレイモンドがシルフィーを掴み座席へと戻す。


「本当にちゃんとどこかに捕まってて。

周りが被害を受けるから」


「いや急発進だったんで」


「貴様っ…!!!!

他人の鳩尾に何か恨みでもあるのかっ…!!!!!!」


「いや特に。

すいませんでした」


「謝罪が軽過ぎるぞ貴様!!!!

レイモンドもそいつをちゃんと抑えておけ!!!!!!」


「あぁ…はい。

フィー私の服にでも掴まってて」


「うい」


キースは暫く鳩尾を摩り息を整えるとまた地図に向き直った。

中々に仕事熱心である。

将来的に過労で倒れるタイプに違いない。


「しかしクライディスとは…。

大規模火災でも起きているのか?

報告にあった魔獣被害とは関係あるのか?」


「国境から距離があるのに魔獣が出たんすか?」


「あぁ…それで向かっていたんだが貴様また聞いて無かったな」


「でも不思議ですよね。

近隣地域からは魔獣被害の報告はないのにクライディスだけとは」


「まあ何かしら理由があるんだろうとは思うがな。

実際目にしない事には何とも言えん。

おいシルフィー嬢、臭いは強くなっていたりするのか?」


「はい。

徐々にですけど」


「ではやはりクライディスで間違いないのか…。

イシュラン領は言わば国の食料庫だ。

そこの最大都市であるクライディスが堕ちたら国中にどれだけの被害があるか…。

なんとか被害を最小限に抑えねばならん」


「フィーの好きなエールも殆どがイシュラン領産だから飲めなくなるかもね」


「えっヤバいじゃないすか」


「そうだよとてもヤバい。

頑張ろうねフィー」


「うっす」


エールの為にとキリッとした顔で頷くシルフィーに、キースは虚無の目を向けた後小さく溜息をついた。

味方があまりにもダメな奴だった時の諦めと疲れからである。


「魔獣退治ならお前らは放っておけば良いんだが、もし人命救助となると役に立たなくなるな…」


「えっ何故ですか?」


ボソリと呟いたキースにミリアが目を見開いて尋ねる。

ミリアからしてみれば浮遊などが使えるシルフィーは、怪我人の運搬などで非常に役に立つ様に思えたのだ。

キョトンとした顔で首を傾げるミリアにちらりと視線を向けてから、キースはレイモンドとシルフィーに目線を戻した。


「…貴様ら瓦礫の下に人間がいたとしてその存在に気が付けるか?」


「…一般的な人間の3倍の時間はかかりますかね」


「助けてって声を張り上げてくれたら多少は」


「…声が出ない場合は?」


「恐らく服や髪も土や煤で瓦礫と同化してるでしょうしお手上げっすね」


「な?

分かったかミリア嬢」


「なるほど…」


普段髪や服と言った見分け易い物で見分けている分それらが汚れ、物と同色化してしまうと、それが人間かどうかすら分からなくなってしまうのだ。

救助活動には絶対的に不向きである。


「ミリア嬢とアナベル嬢では逆に怪我人を見付けても非力故に救助が出来んだろうな…。

魔術師とそうじゃない者2人でペアを組んでおけ」


「あっ私ミリア様が良いっす。

ミリア様、私と人間助けましょう」


「えっ私ですか?」


「私絶対にミリア様じゃないと見失う自信しかないっす」


「なるほど…。

それではレイモンド様とアナベル様のペアでよろしいですか?」


「…分かったわ」


「ん、了解」


困った様に尋ねたミリアに2人は了承を告げる。

だが正面からは見えない様に、良かった助かったと胸を撫で下ろすシルフィーにレイモンドはジトリとした目線を向けた。


「…ほんとズルいよねフィー」


「何がっすか」


「どう考えてもアナベル嬢と組む方が難易度高いでしょ。

土地勘もなく他の人間達も緊急時で慌しい時に見失わない訳がない」


「でしょうね」


「…これで見失ったら私今度こそ憎まれそうなんだけど」


「大丈夫ですって。

もう愛憎入り交じってますし、多少憎しみが増えた所であんま変わんないっすよ」


「じゃあフィーがアナベル嬢と組んでよ」


「嫌です」


「………私一応雇用主なんだけど」


「嫌です」


「……」


「嫌です」


じとりと睨み付けてくるレイモンドを放置し、シルフィーは鞄からスピリタスチョコを取り出した。

チョコレートボンボンの様にチョコレートの中にアルコールが入っているが、そのアルコール度数が98%と言う喉が燃える体験が出来ると言うチョコである。

あむっと頬張ったチョコから燃えるように熱い液体が零れ喉を滑り落ちる。

これは痛楽しい。


ケホケホと喉を抑えて咳き込みながらチョコを食べるシルフィーに、レイモンドが何やってんだこいつという目を向けているが無視である。


「というか今思ったんすけど」


「ん?」


「我々って戦闘以外に役立つ事少ないんすね」


「…今頃気が付いたのかい?」


「ええまあ」


「魔術師がどんな人生歩んだら気が付かないなんて事が起こり得るんだい…?

今まで自分って出来ない事が多いなって思わなかったの…?」


「はい」


「凄いねフィー。

私、今本気で尊敬したかもしれない」


「ありがとうございます」


「決して褒めてないからね」


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