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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
狗のお仕事とは
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3

新築の木の匂いが漂う平屋建てのログハウス。

その家の玄関を開けてすぐに広がるリビングと思わしき部屋の真ん中でシルフィーは死んだ目で手を動かしていた。


一晩水に浸しておいたククルの実の硬い皮を小刀で剥き、新しい水を入れた木桶へと投げ込む。

剥いた皮は別の木桶へ。

ククルの実の数は約350個である。

目が死ぬのも無理はなかった。


どれもこれも皆馬鹿師匠と雇い主のせいである。

シルフィーの口から呪詛がずっと漏れているのも2人のせいである。


背後の玄関扉がノックされるがシルフィーは呪詛を呟きながら小刀の動かし続けた。

気が付いていない訳ではない。

迎えたくないだけである。


どうせ雇い主ならばいくらシルフィーが玄関扉が開かない様魔術を施した所で無駄なのだから、シルフィーに出来る抵抗といえば無視だけなのである。


どれもこれも忌々しい専属契約のせいだ。

シルフィーは皮の剥けたククルの実を舌打ちをしながら木桶に投げ入れる。

力が入り過ぎて木桶から跳ねて床に転がってしまったククルの実を来客者が拾い上げた。


「おはようフィー。

ポーションの進みはどう?」


「…………」


「フィー?」


「…今やってます」


「そう、ありがとう」


来客者レイモンドは今日もキラキラとした輝く笑顔で現れ、無視を続けるシルフィーを気にする事無く話を続ける。

中々にメンタルの強い王子である。


「いつ頃出来上がりそう?」


「…明日の夕方には」


「さすが早いね。

助かるよ。

あっ朝食を持って来たから一緒に食べないかい?」


「…………」


「フィー?」


「…………」


「ほら早く座ろ。

食事は取らなきゃダメだよ」


シルフィーは促されるままに諦めと死相が混じった目をしながらリビングにあるソファーに腰掛けた。

愛称で呼ぶなと何度言っても無駄だった様にレイモンドを無視しても最終的にはシルフィーが折れる羽目になるのだ。

部下の宿命である。


レイモンドはシルフィーが座ると腕に抱えていた籠からサンドイッチを取り出し机に並べた。

そしてキッチンへと向かいポットと小鍋を取り出すと火にかける。

手馴れた物である。


まあこの家を用意したのはレイモンドの為、下手をすれば住人であるシルフィーよりも彼の方がこの家にある物に詳しい可能性が高いのだ。

それさえもシルフィーにとっては腹立たしいのではあるが。

仮にも人の家なのに我が物顔で使いやがってという心境である。

小心者故に口には出せないが。


紅茶と温め直したスープを手にしたレイモンドはそれらをテーブルに並べると、シルフィーの向かい側のソファーに腰掛ける。

そして祈りを済ませるとサンドイッチを手に取って綺麗な所作で口に含んだ。

外見が美しい人間が食べると何の変哲もないサンドイッチでさえ崇高な食べ物に見えるのは一体何故なのだろうか。


「フィーも食べなよ?」


「…うっす」


レイモンドのサンドイッチを睨み付けていたシルフィーを不審に思ったのかレイモンドはシルフィーにも食べる様に促した。

シルフィーはサンドイッチを口に放り込む。

パリッとしたレタスが瑞々しくて中々に美味い。

昨日のサンドイッチは酷かった。

胡椒と塩が効きすぎて食べられた物じゃなかったが料理人が変わったのだろうか。


「どう?」


「…美味いっす」


「そう良かった。

私が作ってみたんだけど口に合ったみたいで安心したよ」


「…仮にも王子様が何やってんすか」


「第三王子なんてそれ程価値はないから大丈夫だよ」


事も無げにサラッと言うが第三だろうと王子がサンドイッチ作りはダメだろうとシルフィーは半目でレイモンドを見た。

そう彼レイモンドはシルフィーと専属契約を交わした後名乗ったのだ。

「ジュゼット国第三王子レイモンド・ジュゼットだ」と。

これが専属契約の他にシルフィーが彼に逆らえない理由の1つである。

流石に王族に逆らう程命知らずではない。


「昨日フィーがサンドイッチを吐きそうな顔をしながら食べていたからね。

私は慣れていたけど確かに好んで食べたい物ではないしと思って自分で作ったんだよ。

ほら、今って香辛料ブームだからさ。

料理人も香辛料を如何に使うかにプライド賭けてる節があるから香辛料を抜いてとも言い辛くて」


「…なるほど。

嫌なブームですね」


「まあそのうち収まるだろうから気長に待ってるよ。

でもさすがに何回も調理場に出入りすると勘付かれるから夜はここのキッチン使わせてね」


「…うっす」


ここで嫌ですと言える様な人間であればそもそも師匠に売り飛ばされたりしないだろう。

何が何でも師匠に契約を結び直させる程の胆力をシルフィーは持ち合わせていなかったのである。

非常に悔しい話だ。


レイモンドは先に朝食を食べ終えると流しで皿を洗い棚に仕舞う。

そして玄関扉を開けるとふわりと笑みを浮かべて振り返った。


「じゃあまた夜にねフィー。

昼食はキッチンに置いてあるからちゃんと食べるんだよ」


「………」


入り浸るんじゃねえと言う事は今日も叶いそうにない。


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