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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
漸く働くらしい
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苔むした岩場を飛び越えサーベルを振り下ろす。

ガンッ!!と音を立てて魔獣の鋭い爪にサーベルの刃が押さえられた。


目の前で火花が散り魔獣が反対側の手で切り裂かんと振り上げるのが見える。


咄嗟に身体を捻りシルフィーのお下げ髪が爪先を掠めた。

その身体の勢いのまま腰の短剣を抜きギョロリと見開かれている瞳に振り下ろした。


咆哮と共に猛烈な勢いでサーベルが振り払われ、魔獣が目を抑えようとした瞬間に脳天にサーベルを差し込む。


顔にまで返り血が着くが拭おうとする手も血塗れの為、シルフィーは肩を落としサーベルを引き抜いた。


今は何体目だろうか。

数えられたのは10を越すまでであったか。


これでは埒が明かないとシルフィーは踵を返し塔の方角へと足を進める。


足場も視界も悪く、その上広い場所で耐久戦等無茶にも程がある。

大体にして籠城戦などの場合、侵入出来る経路を定めておく事で迎え打つ事が出来る物ではないのか。


こんなだだっ広い森の何処から出てくるかも分からない場所で大軍を迎え打つ等愚行にも程があるのだ。


シルフィーは塔へと戻り木箱の上からキースが置いていった配置図を取り出す。

配置図に血が付くが構っていられない。


地面に落ちていた木の枝を拾い上げ、塔から10m程離れた辺りに塔の周りを囲む様にズリズリと線を引き始めた。

子供の陣取り合戦の様に。


配置図を見つつ端だろうと思われる場所に出ると偶然キースが森から出て来た所であった。

人の事は言えないが返り血と肉片により酷い姿である。

茶色味がかった金髪は今やどす黒く染まっていた。

ゾンビの方がまだ綺麗かもしれないと言える。


キースはシルフィーに気が付くと目を細め、その手に持つ木の枝を見て眉間に皺を寄せた。


「…貴様こんな時まで自由か。

誰が陣取りゲームをやれと言った」


「さすがにそんなゲームしないっすよ。

ただか弱い乙女としてはこのやり方だと死ぬなと思いまして」


「突っ込んでやらんからな」


「スルーって大事ですよね。

分かります」


シルフィーは線を引き終わるとその線に沿って魔素を広げて行く。

身体の力が抜けていく感覚が何とも気持ち悪い。


「…貴様初日から魔術を使うのか?」


「とりあえず本命だけ残しておけば良いかと思いまして」


「は?

本命?」


シルフィーは答えず指をパチンと鳴らした。

線に沿って地面から15m程の火柱が次々と吹き上がる。

それはまるで炎で出来た城壁の様に。


「私と1番相性が悪い火の魔素から犠牲にしようかなと」


「………化け物か」


「褒め言葉として受け取っておきます」


「…あぁ…褒めてるさ」


シルフィーは軽く頭を下げて答えると唯一わざと線を途切れさせていた場所に立つ。

籠城戦はこうでなくてはなるまい。


唯一通れる場所に立ち塞がっているシルフィーににじり寄ってくる魔獣を見据え、シルフィーはまたサーベルを構えた。


この線の内側には何人足りとも通してはならない。

この場所だけは死守せねばならない。



「大体にこういう事した奴って仁王立ちしたまま死ぬんだよね…。

いや死に様としては糞カッコ良いけども」


死にたくないなあと独り言を呟く。

まだ巫山戯る余裕があるだけ平気だろうか。

巫山戯るしかない状況に笑うべきか。


息を吸っては吐き目の前に対峙している魔獣達と呼吸を合わせる。

サーベルでの戦闘は付け焼刃だが森に住んでいた為、魔獣の屠り方は分かっていた。


最初に遭遇した時を思い出す。

同じ様に群れに囲まれたあの光景は瞼の裏に焼き付いて離れない。

まだ上手く魔術も使えず震える幼いシルフィーにアルフォンスは短剣を手渡し言ったのだ。


脅えを見せるな。

前を向き目を開け。

決してその剣は手放すな。

魔獣と呼吸を合わせろ。

そして一斉に飛びかかって来たその瞬間。


纏めて屠るのだ、と。


左足を踏み込みサーベルを横向きに奮う。

目の前の魔獣の首が宙を舞い、怒り狂った魔獣達がこちらに突進して来る。


こちらが強者だ。


そう魂に刻み込むのだと彼は言っていた。


サーベルを持った片腕で爪を受け止め背後から飛びかかってきた魔獣に足を奮う。

レイモンドの教えもたまには役に立つ。


屠り方にルールなど確かに必要あるまい。

汚くとも良い。

酷くとも良い。


命を断ち切れたのならそれが正義だ。


背後に気を取られ突進して来た魔獣に地面に押し倒される。

シルフィーは舌打ちをし、切れ味の鈍ったサーベルを自分の胸を抑える魔獣の右前脚に差し込んだ。

痛みに咆哮を上げたその喉元をもぎ取った鋭利な爪で掻っ捌く。


絶命したその体を蹴り落とし、シルフィーはサーベルの刃を自身のローブで拭った。

口の中に入った肉片をペッと地面に吐き捨てまた魔獣の群れと対峙する。


その数はまだまだ膨大であった。


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