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専属魔女は王子と共に  作者: ちゃろっこ
漸く働くらしい
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とりあえず火を起こしておくかとシルフィーは薪を取り出し火打ち石で火を着ける。

魔術であれば一瞬だがなるべく温存しておきたい。

そしてまだ魔素が潤沢にある内にやる事は済ませておくべきだ。

でなければいつまで楽に動けるのか分からないのだから。


この為にずっと魔封じの腕輪を付けられキャンプ生活をさせられていたのかと漸く気付く。

説明しろよと思わんでもないが面倒臭がって聞かなかったのは自分である。

自業自得の4文字が脳裏に過ぎるがどうしようもあるまい。


焚き火の用意を済ませシルフィーはまた木箱に座って目を閉じた。

風の魔素の声に耳を傾けその時を待つしかない。

異変は既に伝わっていた。

後は待つしかないのだから。


「シルフィーさん?

起きてますか?」


目を開けるともう寝てるのかと若干呆れた様なミリアの顔が目の前にあった。

振り上げられているその手は何のつもりだったのか聞いてみたい所である。


「…起きてますよ」


「あっ良かったです。

教会からスナップを効かせた平手を教わったのですが開始早々に使う事になるとは思いたくなくて…。

あっそうそう儀式が始まりましたのでそれをお伝えに参りました」


「あー…ありがとうございます」


知っているとは言わずシルフィーはまた目を閉じた。

魔素が酷く五月蝿い。


「もうシルフィーさんてば…。

魔獣が来たらどうするんですか…。

…まあ確かに来そうな雰囲気はありませんけれど」


鳥の囀りだけが聞こえる深い森を眺めミリアが呟く。

穏やかな初夏の風が通り抜け青々と茂った葉を揺らす何とも穏やかな光景である。

シルフィーは目を閉じたまま小さく口だけを動かした。


「来ますよ」


「……え?」


「最初は西の方角から。

恐らく1時間以内には」


「西…。

ガウル様の方角です!!

お伝えしなくては…」


「ミリア様は剣術は?」


「でっ出来ません」


「なら塔の中に入り鍵を掛けておいて下さい。

外の轟音が止むまでは」


「えっと…まずガウル様にお伝えしてすぐに…!!

しっシルフィーさんは大丈夫ですか?」


慌てて立ち去ろうとしたミリアが不安げに瞳を揺らす。


「大丈夫っすよ」


目を閉じたまま答えるシルフィーに気を付けて下さいねと告げ、ミリアが今度こそ走り出した。

シルフィーはゆっくりと息を吐く。

その頬を冷や汗が流れ落ちていくが拭う余裕がない。


魔族は魔素の量が全て。

それは魔術師も同様である。

せまり来る魔獣の群れは一体一体は違えど集まった魔素のそれはシルフィーを大きく凌駕していた。


正直魔防の理論は分かっていたが本質的には理解しきれていなかったのだろう。

何故自分より魔素が多い物に魔獣が寄り付かなくなるのか。

シルフィーは今初めて自分より明らかに魔素の量が勝っている者が近付いている時の感覚を知った。


体の芯から凍り付きそうな程の恐怖である。


強者に絶対服従という魔族の理とはこういう事なのかと、シルフィーは震える掌を握り締め苦笑を浮かべた。

何が大丈夫な物か。

何一つ大丈夫な事などない癖に。


ただ唯一の救いは専属契約を結んでいる為、魔素で負けていても膝を折るような事態にはならない事だろうか。

まあ専属契約のせいでレイモンドには膝を折らねばならないのだから、デメリットが大き過ぎる様な気もするが。


魔素の悲鳴が殆ど警報の様に鳴り響く。

逃げろと言っているのか。

死ぬぞとでも言っているのか。


「…分かってるから黙って」


シルフィーは額にかかった汗に濡れた前髪をかき揚げ立ち上がる。

サーベルを構え森の奥を真っ直ぐに見据え大きく息を吐いた。

そして震えの収まった足で地面を蹴り弾丸の様に森へ滑り込んだ。


真っ赤に揺れる鋭い光へとサーベルを真っ直ぐに伸ばす。


「ギャイン!!!!!!!!!!」


額を一直線に切り裂かれた魔獣が横倒しに倒れた。

血飛沫が上がりシルフィーの身体を汚す。


まだピクピクと辛うじて動いている魔獣からサーベルを抜き刃先に付いた血肉をぶんっと振り払った。


目を動かせば何十、いや何百の赤い魔獣の瞳が森の闇の中で光を放っている。


シルフィーはサーベルを構え直し小さく笑う。


ほんと死ぬかもと呟きシルフィーはまた地面を蹴り走り出した。


長い1日は始まったばかりである。

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