22
翌朝。
宿の食堂に集まった6人の間に流れる空気は最悪であった。
困った様に眉を八の字にしているミリアはかなりマシとして、ミリアの横には明らかに泣き腫らしたのであろう目のアナベル。
ムスッとした顔でテーブルに載せた地図を見ながらレイモンドとブツブツ言い争いをしているキース。
いや彼は元々ムスッとしていたか。
そして何故かしょぼくれているガウル。
こいつが1番謎である。
お前大人の階段をスキップで昇りに行ったはずだろうに。
「…おはよーございます」
「……おう」
「…隣座って良いっすか?」
「……おう」
まだ一番害がなさそうなガウルの横に腰掛け朝ご飯に手を付ける。
昨夜もだが確かにここの親父の料理は美味い。
焼きたてのパンはふかふかで甘みがあり魚介の出汁が染み出たスープと良く合った。
裏で飼っているという二角鶏から採れた卵も味が濃くて美味い。
素晴らしい腕である。
カリカリのベーコンを咀嚼していると横から大きな溜め息が聞こえた。
何故かこれみよがしにチラチラと視線まで送られている。
…少々邪魔だ。
「…なんかあったんすか?」
「……聞いてくれるか?」
「…高貴な女性陣もいるんで小声でお願いします」
「分かってるっての。
…俺さぁ、昨日大人になりに行くっつってたじゃん?
だからわざわざちょっと高い服買ってさ、髪もビシッと整えてさ。
なんか粋なプレゼントもした方が良いって聞いたから薔薇の花束も抱えて行ってたのよ」
「薔薇…。
ばっ…薔薇…」
シルフィーの腹筋と口元が痙攣しそうになる。
笑ってはいけない。
お前それ一番恥ずかしいプロポーズやる時の格好やんけなんて言ってはいけない。
「…ふっ、服…高い服って一体どんな…?」
「あっ?
そりゃお前燕尾服だよ。
服屋のおっちゃんにバシッと決めるならこれしかねえって言われたしよ」
「ふひっ…」
「あん?」
「いっいえ…な…何でも…。
それでどうしたんです?」
「そんでさあ、胸を踊らせながら天国への扉開けたわけ。
そしたら…そしたらよ。
たまたま目があった姉ちゃんが『えっプロポーズ?教会と場所間違えてね?』って…」
「ぶふっ…ふひっ…ひっ…」
「俺いたたまれなくなって店を飛び出したんだよ…。
ちくしょう…。
田舎者だと思って馬鹿にしやがって…」
「あひゅっ…ひぅ…ひふ…」
「…お前めちゃくちゃ変な呼吸してるけど大丈夫か?」
「だっ大丈夫ぶふぁふぁ!!!!」
もう無理であった。
あひゃひゃひゃひゃと机をバンバン叩きながら爆笑してしまう。
なんと愉快な奴がいたもんだろうか。
こいつは良い玩具にピッタリである。
「風俗にっ燕尾服で薔薇…ばっ薔薇…!!
薔薇…あひゃっひゃっひゃっひゃ!!」
「…てめぇ」
「いや…ごめ…あひゃっ…薔薇…!!」
「てめぇ笑ってんじゃねえか!!
人の苦しみを何だと思ってやがる!!」
「いや…薔薇…薔薇!!!!」
「どんだけ薔薇にツボってんだよ!!
あーちくしょう!!
てめぇに話すんじゃなかった!!」
「あー…あひゃっ…すいま…あひゃ。
ちょっと待って下さいね…ぶふっ。
そっそれは…災難でしたね…。
あー笑い過ぎて涙でたっすわ」
「さすが魔術師。
血も情けもねえ」
「こんな笑える話に情けをどうかけるんすか。
情けも笑いますわ」
「…くそっ」
「あっカリカリベーコン盗むとか何処の蛮族っすか」
「うるせえ馬鹿!!」
「まあ笑わせて貰ったんで礼にあげますよ。
いやあしかし薔薇…薔薇ねえ…。
末代までの語り草っすよ」
「…やっぱお前嫌いだ!!」
そう罵声を浴びせガウルはプイッと前を向き食事に手を付け始める。
今のは笑える様な話をしたこいつが悪いだろう。
難しいお年頃だなと思いつつ漸く痙攣の収まった腹筋をふぅと摩りシルフィーもパンを手に取った。
と顔を上げると目の前に座るレイモンドが目を見開いてこちらを見ていた。
まるで珍獣を見付けた様な顔である。
「…なんすか」
「……フィーって笑えたんだね」
「そりゃ面白かったら笑いますよ」
「…待って。
それって普段私といても」
「無駄話をせずにさっさと食え。
食べたら即ここを達つ」
えぇ…と言う顔をしたレイモンド以外が皆急いで食事を進め始める。
シルフィーも勿体無いとは思いつつ紅茶で最後の一口を流し込んだ。
「次はどこ行くんすか?」
「貴様聞いてなかったのか…?
最初の封印の儀だ。
自由にしていた分きっちり働かせるからな」
「…うっす」




