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「ふぃー満腹です」
「そりゃあれだけ食べて呑めばね」
店を出て膨らんだお腹を摩るシルフィーにレイモンドが苦笑混じりに答えた。
少々美味すぎて食べ過ぎてしまったらしい。
「さて、腹ごなしに買い出しの続きしてくるんで私はこれで」
「何を買うんだい?」
「おやつです。
王都のおやつ屋の支店があるって聞いてるんで」
「あーあの変わったお菓子の販売店か…。
一緒に行って良い?」
「えー」
「気になるんだよ。
あのヘンテコなお菓子が売ってる店」
「仕方ないですね…。
こっちです」
「ありがとう」
結局1人にはなれなかったが仕方ない。
諦めて街を2人で歩く。
最初は邪魔だと思っていたが、一緒に変わった品を見付けてあーでもないこーでもないと話すのは中々に悪くなかった。
恐らく気になる物が似ていたというのもあるかもしれないが。
「このハンマー付き杖かっこ良いっすね。
しかも見てください。
鎖鎌も付いてます」
「これを使う人がいるのかが気になるね」
「売ってるって事はいるんじゃないすか?」
「物理も魔力も飛び道具も使える人だよ?
いたら凄いけど」
「武芸全部マスター系ですか。
余計にかっこ良いっすね。
レイ様使えます?」
「いや無理だね」
「かっこ悪いっすね」
「かっこ良くなれるハードル高くないかい…?」
「あっじゃああっちはどうっすか?
ロケットソード。
ボタン押したら刃先が飛ぶらしいです」
「奇襲には向いてそうだけどナイフで良くないかい?」
「分かってませんね。
飛ぶはずがない物が飛ぶから良いんです。
例えば授業中に地球儀がくるくる回ってても何とも思わないけど、葬式中に棺桶がくるくる回ってたら笑うでしょ?」
「…確かに想像したら不謹慎だけど笑うと思う」
「そう言う事です」
「うん、分からない」
「理解力が足りんのですよ」
「フィーの説明が悪いと思う」
変わり種の武器屋を冷やかしながら騒いでいると肩をポンと叩かれた。
振り返るとミリアが紙袋を抱えて微笑んでいる。
彼女も買い出しらしい。
「あっミリア様」
「シルフィーさん達もお買い物されてたのですね」
「えぇ。
ミリア様もですか?」
「はい。
私は刺繍糸が欲しくて。
アナベル様も本が欲しいと仰るので御一緒させて頂きました」
「アナベル様…、ああこんにちは」
ミリアの隣に目をやるとアナベルも立っている事に漸く気が付いた。
街は人が多くていけない。
気が付きにくい。
気が付いてなかったと分かったのかアナベルの顔が強ばるがこればかりはどうしようもない。
「良い物買えました?」
「えぇ。
王都には無い色も多くて迷ってしまいました。
シルフィー様達は?」
「今からおやつの買い出しです。
1人の予定だったんですけどたまたまお会いしたんで」
「あんな変な服見てたらそりゃ声かけるでしょ」
「変な服ですか?」
「なんか派手な針鼠みたいな変なローブを買おうとしてたんだよ」
「あれかっこ良かったじゃないすか」
「確かに攻撃的な服ではあったけど」
「…たまたま見付けたのですか?」
「あぁうん。
買い出し中に偶然…」
そこまで言ってレイモンドは口を閉じた。
問いかけて来たアナベルが唇を噛み締めていたから。
その瞳に薄らと涙が浮かんでいたから。
アナベルはキッとレイモンドを睨むと踵を返し走り去ってしまった。
その姿はあっと言う間に人混みの中へと消えてしまう。
「あっえっ?
アナベル様?」
「…行っちゃいましたよ」
「行っちゃったね」
「こう言う時は追いかけるって本に書いてありましたよ」
「追いかけた所で無理でしょ。
…ミリア嬢、申し訳ないけど追いかけてあげてくれるかい?」
「えっでもレイモンド様が行かれた方が…」
「私では見付けられないから。
申し訳ないけどお願い」
「…分かりました。
失礼致しますね」
「ごめんね。
お願い」
大丈夫ですと困った様に笑ってミリアも走って行く。
修羅場というのはいつ襲いかかるか分からない。
まさに地雷だとシルフィーは1つ賢くなった。
「…また傷付けてしまったね」
「間違いなく」
「容赦ないね」
「見てたら分かりますよさすがに」
「私フラれた側のはずなんだけどなあ」
「より戻したら良いんじゃないすか?」
「何でそうなるのさ。
フィーも想像してみなよ。
夜会みたいな人間が馬鹿みたいにいる中でパートナーを絶対間違えちゃいけないって緊張感」
「目と神経がおかしくなりそうっすね」
「それをやり切る精神力は私にはないよ。
出来なかったら泣かれると思うとよりは戻しちゃダメでしょ。
私もそれを繰り返せる程忍耐力もないし、恐らくいつか逆ギレするよ」
「まあ確かに」
「彼女は今隣国の王子と婚約の話も出てるらしいしそれで良いんだよ」
「レイ様よりは確実に幸せになれそうっすね」
「…やっぱり何か腹立つね」
レイモンドは眉間に皺を寄せシルフィーの頬を指先でブニッと摘み引っ張る。
地味に痛い。
「いひゃいっす」
「痛くしてるからね」
「ひゃーかひゃーか。
ひょうらいてっへんひゃけろひゃーか」
「…何て言ったの?」
「ばーかばーか。
将来てっぺん禿げろばーかです」
「………」
「いひゃっ。
ほんろいひゃいっ」
力が込められ痛いと訴えると漸く解放された。
頬が伸びたらどうしてくれる。
「これちょっと楽しいね」
「あんただけっすよ」
「そりゃそうだね。
フィーが楽しいとは思ってないし」
「そっすか。
あっお菓子屋そろそろ行きません?
売り切れると困るんで」
「…兄上じゃないけどフィーって本当に自由だね」
「そうですか?
あっ後私も馬車内での暇潰しの何か仕入れたいっす」
「暇潰し…?
本屋でも見てみる?」
「そっすね。
行きましょう」
「…フィーはそのままでいてね」
「成長期なんで無理っす」
「いやそっちじゃないけどさ」
彼が言いたい事は何となく分かるが分からないフリをしてシルフィーは歩き出した。
きっと彼自身も辛かったのだろう。
決して本質的には理解して貰えないのに努力し続けなければならない状況が。
周りは当たり前に出来ている事が出来ないプレッシャーが。
まあ分かった所でシルフィーには関係ない話なのである。




