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「そんでさあ、騎士団って男社会じゃん?
俺がこの役に選ばれた時に、先輩にお貴族様が一緒だから絶対綺麗な姉ちゃんがわんさか着いてくるって言われてさ、期待してたわけよ。
健全な17歳としてさ」
「アナベル様とかミリア様とか美人じゃないすか」
「ばっか。
そっちみたいに手を出したらこっちが死ぬ奴じゃないっての。
こうあれだめくるめく世界に導いてくれるプロ姉ちゃんってやつだ」
「あーなるほど。
まあ女性率半分ですしやっぱダメじゃね?下品じゃね?ってなったんじゃないすか?」
「騙されたよなまじで。
ドキドキウキウキしてた純情を返せっての」
「純情…?
あっでも私のおやつ代も経費で落として良いって言ってましたし、生理的欲求な訳ですから街に着いたら許可出そうですよね」
「えっまじで?!」
「聞いてみる価値はあるんじゃないすか?」
「どうしよ緊張するわ…」
「てかミリア様かアナベル様と付き合えば旅の間安泰になりません?」
「お前、それで拗れた時やべえだろうが。
しかもうちのパーティメンバーの構成考えてみろ。
王族2人だぞ?
超級のTheイケメン王子とタイプの違うイケメン王子が揃ってるわけだ。
それに俺が勝てるとでも?」
「順当に行けば無理っすね」
「だろうが。
諦めるなとか以前にやはり人間無謀って事もあると知っておくべきだ」
「はえー。
哲学っすね」
「褒めんなよ」
「プラス思考なのは良いと思いますよ」
「まあ唯一の取り柄だからな」
「…楽しそうだな貴様ら」
地を揺らす様な低い声に2人は顔を上げる。
眉間に皺をこれでもかと寄せたキースが仁王立ちし、その横でレイモンドが苦笑していた。
空は薄ら白み始めている。
「私は3時間後に起こせと言わなかったか…?」
「すいません」
「あっ…」
「まあまあ。
お陰でゆっくり寝れたわけだしさ。
交代するから1時間半位だけど寝ておいで。
…空き瓶はしまってからね」
「貴様がそうやって甘やかすから!!」
「あー…低血圧だからお手柔らかに頼むよ」
そう言ってレイモンドがキースを宥めながら片手でさっさと行けと合図してくる。
2人は慌てて酒瓶を集めるとそそくさと退散した。
後でレイモンドに礼を言えば良かろう。
「んじゃまた1時間半後な。
おやすみ~」
「うっす」
結局シルフィーは寝られなかった。
隣のテントから地響きの様な鼾が聞こえとても寝られる様な状況ではなかったのである。
今日の夜はテントに防音を施させて貰おう。
公害にも程がある。
1時間半後テントの撤収をしながら欠伸をしつつ多少スッキリした顔のガウルとげっそりした顔のシルフィーという対比が出来上がっていたのはそう言う訳であった。
「…すいません。
馬車内だと寝そうなんで御者台代わって貰っても良いすか?」
「え、嫌だ。
お貴族様に囲まれて移動する位なら俺は外って決めて御者役もぎ取ったんだぞ。
悪いが絶対譲らねえ。
御者台は俺の場所だ」
「くそ…心が狭い…」
「自他ともに認める心の容量お猪口だからな」
「自慢になってないっての」
「良いんだよ。
ほらさっさと乗れ。
他の奴待ってんだろ」
ガウルに手であしらわれこいつの責任が半分以上なのにと思いながらも馬車に乗り込む。
ガタゴトという揺れと窓から入る風がどうしようもなく眠気を誘ってきた。
…これはヤバい。
本気で寝そうだ。
「…すいません。
魔防かけとくんで寝ていいっすか?」
「貴様自由か」
「あらまあ…。
…今日だけね?」
「お前の専属だろうが!!
ペットの躾も出来んのか!!」
「…明日は気を付けますんで」
指を振り魔素を馬車に纏わせる。
外でガウルの「なっ何だ?!」という悲鳴が聞こえたが無視だ。
これ位は嫌がらせしても許されるはずである。
「シルフィーさん、魔防とは一体…?」
「…魔族は強さが全てであると同じ様に魔獣もその傾向があるんです。
自分より強い者には絶対服従です。
んで強さの指標は纏ってる魔素の量なんですよ。
だから私の魔素を纏わせておけば馬車自体が魔獣だと錯覚させられるんです。
私より纏う魔素が少ない、所謂雑魚魔獣は近付いて来なくなるって事です」
「へー!!
凄いです!!」
「ありがとうございます。
寝ます」
レイモンドに詰めてくれと言うと彼は苦笑いしながら反対側の窓のギリギリ近くに移動する。
キースに自由かとまた言われたが気にしている余裕がない。
馬車の椅子にゴロンと横たわる。
それでもレイモンドの太ももまでは数センチの隙間があった。
コンパクトサイズに生まれて良かったと思える数少ない瞬間である。
「おやすみ」
「…おやすみなさい」
「レイモンド、お前本当に少しは厳しくしろ。
規律が乱れる」
「分かってますよ。
だけどもう一番厳しい部分は叩き込んでありますし、危険のない地帯なんですからそんなにカリカリしなくても…」
「カリカリなどしておらん!!
貴様らが緩すぎるのだ!!
大体お前はいつもだな」
キースの罵倒を子守歌にシルフィーの意識はゆらゆらと深い闇に吸い込まれていく。
頭に温かな手が置かれたのが分かっても既に体が動かないままシルフィーは寝息を立て始めたのだった。




