17
ポツポツと盛り上がらない会話をしながら夕食を終えると就寝の時間になる。
さて満腹だし寝るかと欠伸をし立ち上がったシルフィーをキースが睨んだ。
「…おいシルフィー嬢。
どこへ行く気だ」
「えっ寝ようかと」
「貴様は戦闘職だろうが。
見張りに立つ順を決めるから居残りだ馬鹿者」
「なんすかそれ」
「フィー。
まあ座って。
ミリア嬢とアナベル嬢は先に休んでてね」
「あの、私も見張りをしましょうか…?」
「…戦えない人間が起きてても意味ねーだろ」
ガウルがボソリと呟く。
馬車を降りてから初めて喋った上に中々に毒舌である。
ミリアがビクッと肩を竦ませた。
「気にしないでミリア嬢。
おやすみ」
「はっはい…おやすみなさいませ」
「…失礼致しますわ」
2人が連れ立ってテントへと戻っていく。
シルフィーも一緒に着いて行きたい。
この心底居心地の悪い空間から早く逃げたい。
「なぜ私まで…」
「神官の役目は治癒。
聖女の役目は封印の祈り。
だから彼女達は非戦闘職なんだよ。
魔術師は勿論戦闘職」
「くそぅ…」
「文句を言うな。
全く魔術師はどいつもこいつも自由人しかおらんのか」
仕方ない奴らだと言いながらキースが細い枝を4本集め2本を短く折る。
それを握り高さを合わせるとずいっと差し出した。
「1本ずつ引け。
短い方が先に3時間。
長い方が後に3時間だ」
キースに促され3人は各々枝を引く。
シルフィーは短く、ちらりと見るとレイモンドは長かった。
レイモンドが良い訳ではないが知らない他人より知人の方がまだましだと言えるがそうはいかなかったらしい。
「ガウルとシルフィー嬢が先か。
では3時間後に起こせ。
我々は寝る」
「はいよ」
「うっす」
「頑張ってねフィー。
おやすみ」
「うっす」
2人の足音が遠ざかる。
その途端焚き火の薪が弾ける音しかしない空間が広がった。
思った通りの気まずい空気である。
しかも寝てはいけないというまさに罰ゲームだ。
このまま無言で3時間寝るなとは拷問と大差無い。
シルフィーは小さく溜息をついて立ち上がると馬車へと向かい積まれた木箱の中のシルフィーと書いてある箱を漁った。
中からエールの入った酒瓶を取り出すと焚き火の前へと戻る。
酒でも飲まないとやってられない。
鞄からジャーキーを取り出し鉄串に刺して火で炙る。
酒瓶を傾けマグにエールを注げば晩酌会場の出来上がりだ。
生ぬるいエールが喉を滑り落ちる感覚がまだ昼間の熱が残る空気を幾分和らげてくれる。
「…15歳以下は飲酒禁止だぞ」
「18っす」
「…………」
いきなり睨み付けながら話かけて来たかと思えばまさかの年齢確認であった。
失礼にも程がある。
また無言になるが彼はじっとこちらを見詰めたままだ。
いや、こちらではなくエールの注がれたマグを穴が空くほど見ている。
少し怖い。
「……いります?」
「………」
「…あっ15歳以下でしたか?」
「…17だ」
「なら…どうぞ…」
別のマグにエールを注ぎ差し出すと無言のままガウルは受け取った。
いるんかいと心の中で突っ込むが口には出さない。
ジャーキーも差し出すとそれも受け取る様子から見て酒好きなのは間違いなさそうだ。
ごくごくもぐもぐごくごくもぐもぐ。
無言で行われる酒の席など聞いた事が無かったが世界は広い。
今まさにそれを実体験出来ているのだから。
「…悪いな」
「んへっ?!」
「…俺自身割り切らなきゃとは思ってるんだけどさ。
どうしても割り切れないんだ」
「はっはあ…?」
唐突に語り出したと思ったら何の話かさっぱり分からない。
顔を見るとヘーゼル色の瞳は潤み頬は少々赤らんでいた。
…こいつ下戸だ。
「個人的な理由で魔術師に恨みがあってさ。
そのせいでその血を引いてるあんたらも嫌いだ。
理不尽だとは分かってるけど」
「いやまあ好き嫌いは仕方ないっすよ。
気にしてないんで大丈夫です」
「そうか?」
「えぇほんとに」
「良かった。
さすがに態度悪いよなってこれでも一応気にしてたんだよな。
なんかスッキリだわ。
あっおかわりくれよ」
「気にしてる人間の態度ではないっすね。
まああげますけど」
「いやだって周りお貴族様ばっかだぜ?
話し方も分かんねえし、唯一平民で気にしなさそうなあんたは魔術師じゃん?
同じ平民でも神官はなんかちょっと高貴臭いし?
もう俺終わったと思った。
てかやっぱ酒いるわ。
次の街で俺も買お」
「ご自由に…」
「あんた飲んでねえじゃん。
ちゃんと飲めよほら」
こいつ下戸な上に絡み酒だ。
タチが悪いやつだ。
「つかさ、俺はいきなり騎士役命じられたけどあんたも?」
「まあそっすね」
「ビビるよな。
メンバー聞いたら半分貴族のトップ連中だぜ。
俺泣きそうだったし」
「ガウル様は自分で志願した訳じゃないんすか?」
「するかよ面倒くせえ。
俺は英雄になるより騎士団で細々と生活してる方が気楽で良い」
「あっ分かりますそれは」
「だろ?
なのに何で選ばれちまったんだろうなあ…。
あれか。
賞金目当てで騎士総当たり戦で頑張り過ぎて優勝なんかしちまったからか」
「間違いなくそれですね。」
「ちくしょう。
でも優勝者は金貨50枚って言われたら張り切るだろ…。
全力出すだろ…。
あんたは?
魔術師の枠はずっと埋まらなくてギリギリ直前で埋まったとは聞いてるけどさ」
「師匠に売られました」
「…そりゃまた難儀だったな」
「えぇほんとに」
「魔術師ってその辺鬼畜なんだな。
やっぱ嫌いだわ。
情もなんもねえ」
「否定はしません。
あいつだけはもう一度会ったら殴りたいですから」
そりゃ殴りたくなるとガウルは大きく頷きグイッとエールを飲み干し自ら手酌で注いだ。
「でも売られたって…一緒に暮らしてたんだろ?
仲良くなかったのか?」
「どうなんすかね。
3歳から育てて貰いましたが、働くのダルいから代わりになりそうな人間を引き取っただけと言われてましたし…。
仲が良いとか悪いとか考えた事がないっす」
「家族愛とかそんなんねえの?
離れて寂しいとか会いたいとか」
「…多分なかったっすね。
もう一度会ったら殴りたいとは思いますが、帰りたいとか会いたいとかは思いません。
寂しいという感情になった事がないので良く分かんないですけど」
「…なんか悲しいなそれ」
「悲しいんすか?」
「悲しいだろ。
…お前悲しくなった事ねえの?」
「…分かんないっす」
「分かんないって?」
「自分の感情をあまり意識した事がないと言うか…。
今悲しいんだと考えた事がないっす」
シルフィーの返答にガウルは呆れた様な目を向ける。
「悲しいなんて意識するもんじゃねえだろ。
勝手に湧き上がるもんだし、湧き上がった時に今自分は悲しいんだとか考えたりしねえ。
でも悲しいんだよ」
「余計意味分かんないっすね」
「俺も感情について説明する日がくるとは思わなかったわ」
「お手数お掛けしまして」
「いや。
魔術師ってやっぱ変な奴だって事が分かったから良いぞ」
「…どういたしまして?」
「いや礼を言ってねえし」
「何て返答すれば良いのか分かんなかったんで」
やっぱお前変な奴とガウルはまたエールを流し込んだ。




