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むぅ…と口を尖らせ考え込むかの様に俯いていたミリアがパッと顔を上げた。
「あっでは例えばですが魔術師同士であるシルフィー様とレイモンド様なら恋が芽生えたりするのでは??」
「有り得んな。
ミリア嬢、我が国は近年漸く恋愛結婚も増えてきたが元々は庶民に至るまで政略結婚が主だった。
理由は分かるか?
魔術師は好きにさせたら婚姻などしないからだ」
「そんな…」
「シルフィー嬢も初恋はまだだと言っていた様に恋愛感情を持てるのかどうかも不明だ。
レイモンドも婚約者候補を父上が立ててはいたが誰でも良いと言うから、結局父上と宰相が決定する手筈になっていたんだぞ。
まあアナベル嬢が辞退した時に理由を聞いて他家も難色を示し、話は立ち消えたがな」
「……」
ミリアの目がこれでは無理だと悟りを開いていた。
最早虚無である。
「この顔立ちで王族という地位でありながら婚約者の1人もいない時点で、レイモンドに色恋云々が起こる等天地がひっくり返ってもありえん」
「私も同意致しますわ」
「へーその顔でモテないってすごいっすね」
「いや、モテるぞ。
人当たりが良い上にこの顔立ちだからな。
ここ数年貴族のご令嬢方の初恋はほぼほぼレイモンドだ」
「デビュタントでレイモンド様と初めてお会いしてそのまま恋にという被害者は年々増加しておりますのよ。
こちらでも親しい間柄ですと注意はするのですけれども、恋に狂った状態ですと嫉妬だと思われるだけで聞いて頂けませんの。
ですから無惨に散るのを待つしか無いというのが昨今の貴族間の常識になっているのです。
刃物沙汰になっていないのが不思議でなりませんわ」
「その内本当に刺されそうですね。
怖い怖い」
「…フィーに言われると何か腹立たしいのは何でだろう?」
「腹立たしいのは度々慰め役をさせられるこちらだ。
貴様に振られ泣き崩れるご令嬢を今まで何人慰めたと思ってる」
「最近じゃ無愛想にして会話をしない様にしてても、勝手に惚れられて泣かれるのにどうしろと…」
「振らずに付き合えば良いんじゃないすか?」
「多分私の噂を知ってる令嬢の家人が本気で怒鳴り込んでくると思う」
「まあどう見ても弄ばれるとしか思えんからな」
八方塞がりじゃないかとレイモンドはガックリ肩を落とす。
大変だなあとは思うがシルフィーに出来る事など何も無い。
例え出来たとしてする気もないが。
「ですからミリア様。
レイモンド様だけはおやめ下さいね。
わざわざ地雷源に突進する必要はございませんから」
「わっ私は神にお仕えしておりますし王族の方々なんて恐れ多くてとてもとても!!」
「多分レイモンドに関しては平民だろうが許可はされると思うがな。
確か条件は愛情を求めたりせず別居可だったか?
金は出すし不倫も構わないが居場所を探さないで欲しいらしい」
「仮面夫婦が大前提は嫌です…」
「…今は違いますよ。
幼い頃の話です。
今は募集してません」
「幼いお前が候補を探す時にそんな希望を出して父上が激怒したからな」
「それは叱られますよ…」
恐らく心根が優しいのであろうミリアにまで非難されレイモンドが俯く。
唯一レイモンドの心理が理解出来るのはシルフィーだが彼女は負け戦に参戦するつもりがない。
完全なるアウェイだ。
シルフィーは飛び火を避ける為、会話から抜けようと鞄を漁る。
微量の痺れ薬入っており雷に撃たれた様な衝撃が味わえると、お菓子屋の店長に勧められたチョコを取り出し口に放り込んだ。
なるほどこれは衝撃だ。
全身の毛が逆立つ様である。
飴もそうだがこのチョコも当たりだ。
あのお菓子屋はリピートせねばなるまい。
もぐもぐとチョコを頬張り楽しんでいるシルフィーにレイモンドが恨めしげな目を向けた。
「…フィーだけは味方になってくれても良いと思うんだけど」
「嫌です。
私勝ち馬に乗りたい派なんで」
「だろうね」
「分かってるなら絡むの止めて下さい。
私まで巻き込まれるじゃないすか。
なんすか。
チョコ欲しいんですか?」
「いや別に…。
美味しいの?」
「楽しい」
「…気になるから1個ちょうだい」
「仕方ないですね」
チョコを口に含んだレイモンドは目を見開いた後、確かに楽しい…と呟いたのだった。




