表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/77

diary38 真相は闇のまま

お墓参りの帰り。

あたしは哲也さんの車に乗せられ、叔母ちゃん達と一緒に帰宅することになった。

結局、話の続きは教えてもらえないまま、追求できる雰囲気でもなく、その場は引き下がるしかなかった。


感情的になっているサト叔母ちゃんは、「とにかく、卒業するまで待ってちょうだい」の一点張りで、その後は口を閉ざした。

どちらかと言うと、あたしが叔母ちゃんを待ってあげなくちゃいけないみたいだ。


行きがけと車は違うけれど、帰りも同じように、窓の外をぼんやりと見た。

そして思う。(あたしの知らない何かが、凌お兄ちゃんとお父さんの間にあるんだ……)


何一つ過去のことを知らないあたし。いくら考えたところで、答えの出ない現実を彷徨うだけ。ただ懊悩とすることしかできない。


こうやって、いつもあたしだけが何も知らないままなのだ。今も、そしてこれからも?

心がざわざわして、不安にかられる。

こんなことなら、中途半端に耳になどしたくなかった。


後部座席でケンゴにメールをした。

着信に気付かなかったことを謝りたかったのはもちろん、すごく心細かったから。

すぐにでもケンゴのところへ、飛んで行きたかったから。


《今日はゴメンね。電話全然気付かなくて、かけなおすタイミングも逃しちゃった。あたしはまだ出先からなんだけど、ケンゴは河原ですか? もしそうだったら七時ごろまで待っててくれるかな。少し遅いけど、顔を見たいので会いに行きます――》


今日ケンゴが河原にいたとして、でもあたしが到着できる頃にはもう、帰ってしまっている時間だ。

このメールを見て、少し延長して待っててくれるといいのだけど。



ケンゴと待ち合わせがあるからと、哲也さんにお願いして、河原近くに下ろしてもらった。

少しお腹が空いていたのでコンビニに立ち寄り、小腹を満たせそうなものと、ケンゴ用にドリンクと牛乳を買った。

そして小走りに河原へと急ぐ。


時計を見ると、七時前十分だった。

遊歩道から、見渡せる範囲で河原に目を配りながら先を急いだ。見なれた風景の中に、お馴染みの景色と橋げたが見えてくる。


石段に着いたけれど、上からケンゴは見付けられず、もしかしたらどこかに座っているのかもしれないと、あたしは下に駆けおりた。

しかし、辺りにケンゴの物らしき荷物はない。橋げたの後ろに回り込んでみたけれど、やっぱりいない。


(もしかして、今日は来てなかったのかな? あたし都合で突然メールしちゃったしな)


電話をしてみることにした。でも、

《あなたのおかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にあるか―――》

充電切れのようだ。すなわち、メールも確認できてないってことになる。


(仕方ない、今日は諦めるか……)


あたしは家路についた。

なるべくお墓での出来事を考えないように、ケンゴが練習している風景を思い浮かべながら歩いた。



翌日、授業の中休みにケンゴのクラスを訪ねた。

窓際の、前から三番目の席。外を眺める猫背を探したけれど、あったのは主のいない空っぽの机だけ。

カバンはあるから、学校にいるとは思うのだけど。


「あの。今日、上代くんは?」

「えっと、朝はいたけど……二時限目から見てないかな」

「そう。ありがとう」


三年にもなって、と少し心配だったけれど、意外と計算高いというか抜け目がないというか、出席日数や単位などの面は、結構きちんとクリアするケンゴ。

だから、本人の自主性を重んじて、あえて探さないでおいた。


頭がごちゃごちゃなのは、あたしだけじゃない。ケンゴだって、色々と行き詰ってるんだ。

来週には、最終的な進路指導と面談がある。ケンゴはそれに名前が挙がっているらしいし、インハイの開催だって迫っている。

たまには1人がいい時もあるかもしれない。


あたしはそう思うと、自分のクラスへと引き返した。


(もっとしっかりしなきゃ……自分のことくらい、甘えてないで自分で切り開かないと……)



そのまま放課後を迎えた。


急いでグランドに出たけれど、ケンゴはもう自主でアップに入っていた。

いつものことながら、部活やトレーニングのこととなると、疾風のようだ。


「お! ハナ子に温子にまー子にみー子、今日もみんなカワイイねえ」


凌お兄ちゃんがグランドに出てきた。


「あ、高下監督、お疲れ様でーす! ハナ、自分がカワイイのは知ってまーす」

「ははは、俺も自分が男前なの知ってるー」

「きゃははは」

「ちなみにみー子、それつけまつ毛?」

「いえ、自前です」


いつもの凌お兄ちゃんだ。

昨日あんなにシリアスに話していたのに、まるでリセットボタンでも押したかのようだ。


あたしはと言うと、お兄ちゃんの顔を見た途端、昨日のことを思い返してしまった。


そんな時、


「よう温子! なにぼうっとしてんだ? 今日はのっけからバシバシ実戦形式でいくぞぉ」


そう言ってあたしの背中を、笑顔全開でドンとたたいた。


「たた、痛いよもう」

そんなあたしを見て凌お兄ちゃんは再び笑う。


でも、笑ったその目が、「昨日は悪かったな」と、いっていた。


(凌お兄ちゃん……)


昨日の話し。

あたしが尋ねたら、凌お兄ちゃんは真相を、話してくれるかな―――?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ