diary38 真相は闇のまま
お墓参りの帰り。
あたしは哲也さんの車に乗せられ、叔母ちゃん達と一緒に帰宅することになった。
結局、話の続きは教えてもらえないまま、追求できる雰囲気でもなく、その場は引き下がるしかなかった。
感情的になっているサト叔母ちゃんは、「とにかく、卒業するまで待ってちょうだい」の一点張りで、その後は口を閉ざした。
どちらかと言うと、あたしが叔母ちゃんを待ってあげなくちゃいけないみたいだ。
行きがけと車は違うけれど、帰りも同じように、窓の外をぼんやりと見た。
そして思う。(あたしの知らない何かが、凌お兄ちゃんとお父さんの間にあるんだ……)
何一つ過去のことを知らないあたし。いくら考えたところで、答えの出ない現実を彷徨うだけ。ただ懊悩とすることしかできない。
こうやって、いつもあたしだけが何も知らないままなのだ。今も、そしてこれからも?
心がざわざわして、不安にかられる。
こんなことなら、中途半端に耳になどしたくなかった。
後部座席でケンゴにメールをした。
着信に気付かなかったことを謝りたかったのはもちろん、すごく心細かったから。
すぐにでもケンゴのところへ、飛んで行きたかったから。
《今日はゴメンね。電話全然気付かなくて、かけなおすタイミングも逃しちゃった。あたしはまだ出先からなんだけど、ケンゴは河原ですか? もしそうだったら七時ごろまで待っててくれるかな。少し遅いけど、顔を見たいので会いに行きます――》
今日ケンゴが河原にいたとして、でもあたしが到着できる頃にはもう、帰ってしまっている時間だ。
このメールを見て、少し延長して待っててくれるといいのだけど。
ケンゴと待ち合わせがあるからと、哲也さんにお願いして、河原近くに下ろしてもらった。
少しお腹が空いていたのでコンビニに立ち寄り、小腹を満たせそうなものと、ケンゴ用にドリンクと牛乳を買った。
そして小走りに河原へと急ぐ。
時計を見ると、七時前十分だった。
遊歩道から、見渡せる範囲で河原に目を配りながら先を急いだ。見なれた風景の中に、お馴染みの景色と橋げたが見えてくる。
石段に着いたけれど、上からケンゴは見付けられず、もしかしたらどこかに座っているのかもしれないと、あたしは下に駆けおりた。
しかし、辺りにケンゴの物らしき荷物はない。橋げたの後ろに回り込んでみたけれど、やっぱりいない。
(もしかして、今日は来てなかったのかな? あたし都合で突然メールしちゃったしな)
電話をしてみることにした。でも、
《あなたのおかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にあるか―――》
充電切れのようだ。すなわち、メールも確認できてないってことになる。
(仕方ない、今日は諦めるか……)
あたしは家路についた。
なるべくお墓での出来事を考えないように、ケンゴが練習している風景を思い浮かべながら歩いた。
翌日、授業の中休みにケンゴのクラスを訪ねた。
窓際の、前から三番目の席。外を眺める猫背を探したけれど、あったのは主のいない空っぽの机だけ。
カバンはあるから、学校にいるとは思うのだけど。
「あの。今日、上代くんは?」
「えっと、朝はいたけど……二時限目から見てないかな」
「そう。ありがとう」
三年にもなって、と少し心配だったけれど、意外と計算高いというか抜け目がないというか、出席日数や単位などの面は、結構きちんとクリアするケンゴ。
だから、本人の自主性を重んじて、あえて探さないでおいた。
頭がごちゃごちゃなのは、あたしだけじゃない。ケンゴだって、色々と行き詰ってるんだ。
来週には、最終的な進路指導と面談がある。ケンゴはそれに名前が挙がっているらしいし、インハイの開催だって迫っている。
たまには1人がいい時もあるかもしれない。
あたしはそう思うと、自分のクラスへと引き返した。
(もっとしっかりしなきゃ……自分のことくらい、甘えてないで自分で切り開かないと……)
そのまま放課後を迎えた。
急いでグランドに出たけれど、ケンゴはもう自主でアップに入っていた。
いつものことながら、部活やトレーニングのこととなると、疾風のようだ。
「お! ハナ子に温子にまー子にみー子、今日もみんなカワイイねえ」
凌お兄ちゃんがグランドに出てきた。
「あ、高下監督、お疲れ様でーす! ハナ、自分がカワイイのは知ってまーす」
「ははは、俺も自分が男前なの知ってるー」
「きゃははは」
「ちなみにみー子、それつけまつ毛?」
「いえ、自前です」
いつもの凌お兄ちゃんだ。
昨日あんなにシリアスに話していたのに、まるでリセットボタンでも押したかのようだ。
あたしはと言うと、お兄ちゃんの顔を見た途端、昨日のことを思い返してしまった。
そんな時、
「よう温子! なにぼうっとしてんだ? 今日はのっけからバシバシ実戦形式でいくぞぉ」
そう言ってあたしの背中を、笑顔全開でドンとたたいた。
「たた、痛いよもう」
そんなあたしを見て凌お兄ちゃんは再び笑う。
でも、笑ったその目が、「昨日は悪かったな」と、いっていた。
(凌お兄ちゃん……)
昨日の話し。
あたしが尋ねたら、凌お兄ちゃんは真相を、話してくれるかな―――?