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--- 続 ・未来ビジョン

突然のことに驚いてしまった。

叔母ちゃんが哲也さんと結婚できると素敵だなとは思っていた。でも、それがこんなにも早く現実になるなんて……

「祝福してくれるかしら?」

「も、もちろんだよっ。もちろんだけど、ちょっと驚いちゃって……」


哲也さんは、脱いだ帽子をお腹の前で握っていた。あたしに気を使ってか、微笑みに少し緊張が見える。

「いつも驚かせてばかりだね。ごめんね温彩ちゃん。でも、すぐにって言うわけじゃないんだ。温彩ちゃんの卒業と行く道を見守りつつ、僕たちの方はゆっくりと話しを進めていくつもりだよ」


「でもまずはおめでとうだねっ。哲也さん、叔母ちゃん、結婚おめでとう!」

「いやだ、まだ早いわよ。取りあえずは婚約ってところよ」

そう言って叔母は笑った。哲也さんもそんな叔母を見て笑っている。

でもあたしはまだどこか呆然としていた。


「それでね温彩、もう一つ話しがあるんだけど……」

妙にドキンとした。何となくサト叔母ちゃんの目が真剣だったのだ。

普段はあまり、こういう顔はしない。

「う、うん。なあに?」

どことなく緊張が走った。背筋がピンとなる。


「あなた、このお店を引き継ぐつもりはある?」

「えっ、叔母ちゃんのお店を……?」

「そうよ。もしもあなたにその気があるのなら、家一軒丸ごとあなたに譲ろうかと思ってるの」

――さらなる展開。

「ええーっ?!」

これは完全に予想外だった。あたしは思わずフリーズしてしまった。

「ち、ちょっと待って叔母ちゃん、叔母ちゃんはお店を辞めちゃうの?」

「ええ。まだ少し先のことだけどね」

「待って、しかも譲るって……家ごとって……あたしがこの家のあるじになるって……こと?」

面食らいながら言うと、「あら、あるじは‘旦那様’でもいいのよ?」と、叔母はいつもの顔に戻って茶化して笑った。


考えてみたらそうだ。結婚すれば、叔母ちゃんは哲也さんの青木家に嫁ぐ形になる。

結婚するって事は、そういうことだ。

「私もね、初めはお店を続けるつもりでいたの。でもね、哲也くんの両親が‘青果のアオキ’を2人でやってくれないかって」

「そっか、そりゃそうだよね……」

商店に嫁ぐのならば、それが通常の事の運び。

「すごいね叔母ちゃん……新しい道だね」

「そうよぉ。新たなる道よ。私も若いあなた達には負けてられないわ!」

へんてこなガッツポーズをするサト叔母ちゃんを見て、哲也さんは目を細めた。


「にしても、お店や家の話しはちょっと急すぎだよ……」

「ああそうそう、なにも小料理屋でなくたっていいんだからね?カフェでもレストランでも、あなたのやりたいお店にしなさいな」

急だと言っているのに、さらに話しが加速した。


しかし叔母曰く、それはあくまでも‘将来の計画として’ということだった。

「進路を決めるこの時期が、提案するタイミングじゃないかと思ったの。あなたがどのくらい先のことを考えるてるかは分からないけど、目標が二転三転しないためにも、ね」


確かにサト叔母ちゃんの言う通りだった。学校を決めるにせよ就職するにせよ、何を軸にして進路を決めるのか、はっきりとさせなければいけない。

もちろん、自分でお店を持つ想像だってしたことはある。あたしはイタリアンに興味があるので、どこかで修行を積み、腕を磨き、そしていつの日かお店が出せるといいな……なんて。


でも何故だろう。妙に心が乱れる。


「あまり無理強いや押し付けをしちゃ駄目だよサト子さん。温彩ちゃんの未来はあくまで温彩ちゃんのものなんだし、最終的にどうするかは温彩ちゃんが考えることだからね。温彩ちゃんも……生活のことは心配しないで。温彩ちゃんがどんな道を選んだとしても、僕らはフォローしていくつもりだから―――」

「うん……ありがとう哲也さん……」


ここにきてあたしは、全てを漠然としか考えていなかったことに思い至った。

進路、目標、叔母ちゃんのこと、そして夢だって。

それらは、ケンゴとの未来を妄想することとは、わけが違う。


あたしはどこかで、叔母ちゃんはこのお店をずっとやるんだと勝手に思っていた。

そしてあたしは今まで通り叔母ちゃんのところから学校に通って、或いは就職して出勤して、帰ったらいつもお店を営む叔母ちゃんがいる風景を想像していた。


突然閉塞感のようなものに襲われた。


何故だろう。

きしきしと、胸が軋む。



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