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diary4 視線の先

授業を聞いているのか聞いていないのか…机に肘をついて傾いた頭を支え、同じ体勢で動かないケンゴ。

さっきからずっとあのままだけど、寝てるのかな?


そしてあたしも、そんな傾いたケンゴを、ずっと見てる。


最近は部活後も遅くまでミーティングが続いててマネージャーと別々なことも多いし、それに時間がずれるから、帰りもずっと…別。

そして教室では話さないあたしたちだから、そんな状況でしばらく会話らしい会話をしていない。

こ〜んな今日この頃…

だからチョットだけ、視線でケンゴをストーキング中なのです。


体、平気?

ちゃんと睡眠取れてる?

無理してない?

故障するような無茶しちゃダメだよ?


大会が終わるまでは、この状態が続くだろうから少し心配になるけれど、

ケンゴたちが頑張ってる分、あたしはあたしでマネージャーとして精一杯頑張らなくっちゃね。


予選が進むにつれ対戦相手も強豪になってくる。


勝ち進んでいるとは言え、三年の抜けた後の新生チームにとって、その試合運びは思ったよりも大変で、得点力の柱であるケンゴもそれだけに課題は山積み。

毎日毎日、体中の水分が全部出ちゃうんじゃないかって言うくらいの汗をかき、たくさんのメニューをこなしている。


荒ぶる獅子の眼光でボールを追うケンゴは本当に真っ直ぐでひたむきで、そして見てて不安になるくらいストイックに打ち込んでいて…

でもそんなサッカーと向き合っているケンゴがすごくかっこよくて、その動きのワンカットワンカットにくらくらきてしまう。

(やばい…ハナちゃんみたいになってる??)


あたしも…負けていられない。全力でサポートしなきゃ。

もちろん、ケンゴたち選手に比例してあたしたちも忙しいし。

選手たちが追い込みに入ればそれだけ、マネージャー業務もかさを増す。

今までやってきた中で一番の忙しさを経験してるけど、でも、それくらいで、今はいい。

心も体も、ビッとなって、シャキッとなって、ちょうどいい。


本音を言うと、ほんの少しだけ寂しかったりするんだけど…

でも頑張ってる選手に向けて、そんな感情を持つわけにはいかないし、思っちゃいけないって分かってるけど。

フィールドのケンゴの姿に凄みが増せば増すほど、かっこいいと思えば思うほど、

その姿を遠くに感じてしまう気持ちも、否めない。


人を好きになると、心が揺れやすくなって、ダメだね。



「菅〜波〜マ〜ネ、うっす!」

1時間目の授業が終わって、隣のクラスからやってきたむかえくんが声をかけてきた。

ケンゴと同じFWの彼は、授業の合い間、たま〜にケンゴを訪ねてくる。


「おはよ迎くん。最近練習ハードだけど平気?」

「しっかり食って寝てるから平気だよ。それより菅マネ…」

「うん?」

「あんまり見すぎると穴が空くぞい?」

「え?」

色の黒い迎くんは、笑うと白い歯が目立つ。

ニッと白い歯を見せた迎くんの顔が意地悪気に変わり…


「賢悟だよ、ずっと見てただろ?まだ試合あるんだから賢悟に風穴空けんなよ?」


み、見てたのを、見られていたらしい…


「ちょっと、やめてよね迎くんっ…」

「ニシシシ」

「ヘンなこと言わないでよ、それに…(聞こえちゃうじゃない〜〜)」


あ…

ケンゴの体が、微妙に固まってる…。

聞こえちゃってるよ…(迎くんのばか〜っ)


ついていた肘の角度が広がって、角張った。

頬から支えていた手を頭に移すと、髪が指の間からワシッとはみ出して、その先がやけに鋭利に見えて…

今どんな顔してるかまで、こっちを振り返らなくても、分かる…


「うーい、お疲れ〜賢悟」

迎くんが、前から三番目のケンゴの席の一つ前に座った。

「………」

「お、お前、教室にいる時の方が人相悪いんじゃないのか…」

あたしに向けるかわりに、迎くんに向けられたケンゴの眼付けビームが直撃中らしい。


でも…

どんなに拒まれたって睨まれたって無理なのです。

グランドの中、教室の席、河川敷…どこにいたって、あたしの視線はケンゴを追うよ。

穴が空いたってなんだって、少しくらいは勘弁してよね。

心の中で、視線の先で、あたしはいつもケンゴを応援してるんだから。



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