表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/77

diary19 続・筒井くんの恋

「【筒井和一つついかずいち18歳、夜のホームで密会・抱擁!】って、ちょっとしたトップ記事だぞこれ!もう決まりでしょ~、その人絶対彼女だって」

迎くんが愉しげに言った。

「はい、童顔で年上の、可憐な短大生のお姉さまです」

三崎探偵が胸を張った。

「いやあ、筒井さんにもとうとう彼女がねぇ…」

太田くんは感嘆する。

「ねね、やっぱり見に行ってみようよぉ~、直~」

ハナちゃんはノリノリ。

「つか、本人に聞いてみたいよなやっぱ。あんだけ愛に飢えてた人が彼女をGETして、どういう風に変貌するか興味ある」

大山くんはニヤケながら腕組みをした。


人の恋路の詮索で大いに盛り上がっていた時、校舎の方から喧騒が沸き、靴を履き替えた三年生がぞろぞろと出てきた。

翌月に迫るセンター試験についての連絡会があったらしく、それが終わって下校するところだった。


校門を目指す生徒の一群の中に、一際目立った体格の男子生徒の姿を捉えた。

「お、渦中の人のお出ましだぞ大山!興味あるんだろ?お前聞いて来いよ」

「えっ、俺?…イヤですよ、迎さん聞いてくださいよ。先輩と仲いいじゃないスか」

「そうだよ、お前が聞いてこいよ迎」

「ええ~、やだよ~。あの人に捉まると面倒なんだもん」

「取り合えずハナ先輩呼んで来ましょうか?!じゃなきゃ帰っちゃいますよぉ」

「そうだ橘、お前が聞け!どさくさに紛れてそのノリでピロピロっと聞いてしまえ」


おかしな譲り合いをしながら、あたしたちは部室の陰から表に出た。

譲り合いが小競り合いに発展しそうになり、再び円陣を結成した我々6名。

その時、

「え…?うわ…、うわうわうわ…!」

突然三崎くんが奇妙な声を上げた。


「どうしたの三崎くん?」

「く、くる…!こっち、くる……」

覗き込んだ三崎くんの顔は、恐怖におののいていた。

「何だよ、ヘンな声出すなよ」

「来るって、筒井さんが?」

おののき顔で後ずさる三崎くんの視線の先に、みんなで一斉に振り返った。


「うおぉ……愛しのお前たちぃ……我が…我が後輩達よぉぉぉぉ…………」


筒井先輩だった。

その先輩が両手を前に突き出し、こちらに向かってドスンドスンと突進してくる。

しかし。

どうにも様子が、おかしい…?


「え、ええっ…!?!?」

「やだ…なに…?!」

「うわあ~!」

あたしたちは騒然とした。

なぜならば、筒井先輩の目が……死んでいる。濁っている。腐った魚の目のようだ。

曇った瞳で突進してくる筒井先輩の顔は、ものすご~く人間離れしていた。


「あはははははは……いの~ち賭けてとぉ~…誓ぁ~った日からぁぁぁぁ…………」


目の下は墨色。

受験勉強で出来たのではないらしい‘クマ’が、表情のおぞましさを増長させていた。

まるでゾンビだ。体格のよさゆえフランケン系。もはや現世の人ではない。

そんな「人」でなくなった筒井先輩が、あたしたちめがけて地鳴りとともに迫ってきている。


「さあ…愛していると、愛していると言ってくれぇぇぇぇぇ…………」

「ひ、……ひいいい~~~~~~~!!!!!」


密会デートについて、問うまでもなかった。

おぞましさと悲壮感あふれるバイオハザードな先輩は、どこから見ても幸せ真直中の人の顔ではない。


「おい…三崎!どういうことだこりゃ?!」

「知りませんよぉ!ひいい~~~」

「愛…愛……ははははははははは………」


これは後から聞いた話しだけど、なんでもその短大生の由希さんという女性は、『沖先輩』の熱狂的ファンだったらしい。

沖くんの姿が見れるのなら地の果てまでも…という筋金入りのファンで、放課後練習のグランド脇や遠征試合などにも追っかけをしていた『超・オキラー』だったとのこと。

極度のあがり症と引っ込み思案な性格の彼女は本人に接触できずにいた。しかし、先輩たちの卒業が迫ってきて、やっとの思いで清水寺からダイブしたのだ。

清水寺からダイブして…そして沖先輩ではなく、駅で一緒になる『チームメイトの筒井くん』に声をかけた。


「沖くん…やっぱり彼女いるんだ…。そ…そうだよね。そうだよね、ううっ…」


残酷な現実に打ちひしがれた由希さんは、耐え難い心痛に懊悩とし、『チームメイトの筒井くん』の胸の中で泣き崩れた…というわけ。

言葉もない…


そういうことで、逃げた。ハートがブロークンした筒井先輩は危険この上ない。

それこそ残酷な現実にうちひしがれ生ける屍となった先輩が、愛してくれよとあたしたちに追ってくる。

とにかく逃げた。


ドタバタやっていると部室の扉が開く音がした。そして扉の向こうにケンゴの姿が見えた。ちょうど外に出てこようとしているところだった。

助かった…!と思い、あたしは部室に逃げ込もうとした。…が、扉は何かを察知したかのようにピタリと途中で開放を止める。

どうやら外の状態を俊敏に察知したようだ。ケンゴは顔色を変えるよりも先に静かに身を返し、バタンと扉を閉めてしまった。そしてガチャリという施錠音が響く。


見事な早業。華麗なる退却。そして取り残されたあたし。

ちょっとたすけてよ、ケンゴ~~!


「あっちゃぁぁぁぁん…さあ…おいで!同じ花を見てきれいと言おう………!」

「ひゃぁ~!」

「心~と心がぁ~……今は…もう…、いや…初めからカヨワナイ……ははははははは」


三日天下ならず、三日恋火みっかれんかに終わった筒井先輩の恋。

平和が訪れるのは、筒井先輩に本当の恋の季節が訪れるのは、一体いつのことだろう。



次回は、賢悟と温彩のクリスマスをお届けします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ