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‐Other stories‐ 「筒井君がゆく!」

「お、おい迎… なんだ、あれ…」


開いた口が地面に付きそうな顔の、元キャプテンの筒井。

引退した後も後輩たちが気になり、しばしばグランドに足を運ぶのだが、今日は練習よりも気になるものを目にしてしまった。


「なにって、大山と橘がどうかしたんですか?」

「だからあの雰囲気だよ雰囲気っ!なんだあれは〜」


部活前の校舎裏… 水飲み場のへりに腰を掛けた大山にキャッキャとじゃれ付くハナの姿。

誰もいないと思っているのか、くっついたり、つつきあったりしてはしゃいでいる。


「(ああ、そういうことか…)なんだも何も、付き合ってますよ?アイツら」

「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


愕然とする筒井。


(お… 大山… 今度は… 大山…)

そしてワナワナと手指を動かし始めた。


ついこの間のことだ。

ひょんなことから賢悟と温彩のことを知ったばかりだった。

もちろんショックだったが、あの時はあの状況に紛れた。

それに、当事者が賢悟だけに、その意外性に気を取られて落ち込むことも忘れていたが…


「む…迎ぇ〜〜〜…」

「な、なんスか…」

「何でぇ〜〜?」

「何がですかっ」

「なんでマネージャー陣は俺を… 俺を選んでくれなかったのぉぉぉ〜〜」

「って、なんの話しなんスかっ!!(そんなこと俺に言うな〜)」


筒井は迎の肩を掴んだ。

「俺さ…俺ってさ…そんなに悪くないだろっ!?!?」

「は…はいっ??」

「上背だって筋肉だって沖よりもあるし、そりゃぁ顔では負けるよ?アイツにはっ。でもサッカーでは結構俺いいプレーしてたと思うんだけどなぁぁ〜…」


筒井は迎の肩をガクガクと揺すり立て、轟々と語りはじめた。

「俺さっ、ロングキックの精度なんか抜群だろっ?それにっ、大会で決めた数々のスーパーセーブなんかもう痺れるでしょう!? 守れるし走れるし、その上攻撃もできるこのマルチぶり…高品質だと思うんだけどどうですか迎さんっっっ!!!しかもキャプテンという性能保障まで付いているっ!豪華得点満載っ!!!」

「はっ、ちょっ…、離してっ… つ、筒井さっ…」


自分で並べ立て始めた。…まるでジャ○ネットたか○状態。

(やばいなこりゃ…逃げたいけど逃げられないし、止められないし…どうしよう…)

その時、着替えを済ませた賢悟が出てきた。


「おおっ!おい賢悟っ、おいっ…!いいところにっ」

「うス。…筒井さんどーかしたのか」

困り果て憔悴した様子の迎に、なんら抑揚のない声で答える賢悟。


すると、迎に集中していた筒井が顔を上げた。

そして賢悟に気付くと、そうだった!と言わんばかりにとばっちりをよこす。


「あっ!賢悟っ!お前もちょっと来いっ!あっちゃんとの事、俺はお前からまだ何も聞いとらんぞぉっ」

「はあ…」

「瑞樹ちゃんは沖に、あっちゃんはお前に、そしてハナっぴは大山だとぉぉぉ〜〜〜」


筒井は完全にパニック…興奮状態に陥っていた。

RPGの世界なら、現在味方パーティを攻撃中。

「いいかっ!大体お前らはそもそも部活動というものをだなっ…」(筒井の攻撃!!!)


しばらく治まりそうもない錯乱攻撃。

唯一癒し系呪文の使える沖がいないため、過ぎ去る嵐に耐えるしかないようだ。


(な、なんで俺まで怒られるんだよ〜〜)

(知るかよ。んじゃオレ行くから)

(ちょっ…!?賢悟っ…!?!?待てよっ…!)


「お疲れしたぁ…」(賢悟は逃げ出した)

味方の攻撃から逃れ、グランドへ瞬間移動。


「うおい賢悟!きたねェぞぉぉぉ〜! 俺の方が関係ないのに〜〜」


と、その時…

「うぬああああ〜〜っ!!!!!」


筒井は叫ぶと同時に、掴んだ迎の肩を大きく横に振った。


「わたたっ… 今度は何スかっっ!?!?」

「あ… アイツら… アイツら今、チ… チュ〜ーーしたぁーーーーーー!!!」

(うわ…大山、橘っ、…勘弁してくれっ。俺がヤバイっ…)

「しかもなんだあの大山の絞まりのない顔はーーーーっ!迎っ!!お前らの一年の教育がなっとらんのと違うかぁ〜〜〜〜〜〜〜」

(ええっ!何でそうなるわけぇ〜〜!)


「わっ、わかりました!わかりました筒井さんっ…太田呼んできますから!アイツに新キャプテンとしての心得を叩き込んでやってくださいよっ… ねっ?」

「こら待て迎めどこへゆくっ」

「イテテテ…、あ!ほら筒井さんっ、テニス部の女の子が見てますよ、ホラっ」

「なにっ…」


白いスコートに身を包んだ2人組みの女子生徒が通りかかった。

迎の‘振り’が聞こえたのか、こちらに視線を向けた。


筒井は咳払いをすると背筋を伸ばし、肩越しに決め視線を作る…

「一年生かい君たち…?頑張ってる?」


しかし…

手を挙げニヒルに笑ったつもりの筒井の鼻の穴は、コント用のメイクさながらに黒くぽっかりと開いていた。


迎はその隙に逃げ出した。

そして逃げながら、その様子を見て思う。

(ダメだこの人…… 決定的に何か間違ってる……)


案の定、テニス部の女子生徒は失笑しながら、小走りに去って行ってしまった。


「ぬおぉぉぉぉぉぉ…!!!」

…我に返った筒井の雄叫びが、迎の背後に響き渡っていた。



頑張れ、 筒井君…!



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