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彼のいない世界で

 

 後日。

 彼の葬式は、簡単に行われた。

 死体が残っておらず、研究室には微量の金と高度に暗号化された研究成果しか残っていなかったからだ。

 顔を並べたのは彼の持っていたクラス、そして少数の大人だけだった。


「ライズ先生......」


 そんな言葉が、彼の墓場に、花が手向けられた小さな墓石に届く前に広がり消えていく。

 空は快晴、当たり前のように太陽が一つ、頭の上に浮かんでいた。


 ふと、寂しくなった彼女は、未だ立入禁止とされている戦闘跡地に足を運ぶのだった。




「あ、ガイ......」


 エアリが声をかけようとするも、その表情を見て言葉を止めた。

 ガイアは鼻をすすり、目をこすってから、その現場を見て、脳裏にあの日を思い出す。


 エアリは会話なんて今はいらない、と判断し、彼女もまたその惨状に目を向けた。


 未だ高濃度に漂っている魔力。魔力を持たない人には毒以外の何でもない土地は、誰の侵入も許さぬ立入禁止区域にされていた。


 というのも、この世界の魔物は魔力をもとにして生まれる、という考えが一般的。この世界の人間たちは、この魔力に下手に触れれば魔物が生まれる、と考えて一切の立ち入りを禁じたのだ。

 星が魔力を吸い取って、大気が魔力を霧散して。手段はともかく、魔力濃度を下げるために、時間しか解決法がなかった。


 しかし、網を潜り抜けて二人は戦闘跡地に足を踏み入れた。


 クレーターが色褪せず、そのままの形で残っている。

 魔物一体、虫の一匹でさえ、この土地には存在しなかった。


「ここで......」


 最後の魔法。あの先生でさえ全文詠唱をして、空に撃ちだしたあの魔法は、魔石の一切を残さずにすべて消し飛ばし、収束して消えた。


「このクレーターが......」


 そのクレーターだけは、あの日から変わっていた。


 綺麗にくりぬかれたような地面は所々崩れており、溶けていた表面はぼこぼことなり、凝縮し固まっていた。

 草の一本でさえ、未だ入り込まないこのクレーターには、二人に理解できるほどの魔力で満ちていた。


「あ、あれ......」


 エアリが何かを見つけた。ガイアが「あぇ」と顔を上げるも、そこに期待したライズの姿は見当たらなかった。


「えあ、り.......」


 ガイアはエアリが意地悪をした、と思いエアリの名を呼んだ。そんなこと、しないでくれと。

 もっと教えてほしかったのに、もっとカッコいい姿を見せてほしかったのに。そう思うだけでどんどんと涙が止まらなくなる。


「違うよ、あそこ」


 しかし、エアリは指を指す。

 そこは地面、やはり、とガイアはエアリを糾弾しようとして......そして気づいた。


「あれ、なに」


 地面に何かがあることに気づいた。

 ここは草原、なにがあっても不思議ではないとはいえ、この魔力濃度にこの警戒具合。もう何かが残っていると考える方が少数だった。


 しかし、そこには確かに存在していた。

 地面に転がっている、魔力のかけらも感じない石を。

 魔力濃度が高く、土も草も空気でさえも魔力を含んだこの場所で、魔力を一切感じない、黄金色で透明の石を。


「これ、なに」


「私もわかんない」


 図書館の本を読み漁ったガイアでも、隔絶した記憶力を持つエアリでさえ、知らない物。


「持って帰ろっか」


「内緒だよ」


 二人はそれを回収し、誰にも見つからないように戦闘跡地を後にした。

 その石が何になるのか、その石が何を起こすのか。

 それは、今現在では誰も知らない。

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