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終炎~上~

 

 翌日、日も開けぬ時間帯から、ライズは起きていた。

 いつもは使わない最上級の魔法媒体を用意して。いつもはしていない装備のメンテナンスをして。ライズができることを精一杯こなしていた。


 エアリは未だ寝ており、ガイアはもうすぐ朝練を始めようか、というところだった。


 ガランガランガランッ!


 大きな鐘の音が鳴り響く。

 いつもなる穏やかな時を告げる鐘とは違う、けたたましく鳴り響くあわただしい音。


 魔物が、種類の異なる、しかし統率が取れた集団が、一斉に王都に向かってうなりを上げた。


 絨毯のようにあたり一面を覆い隠していた魔物は、あたかもそれが日常だったかのように継続的に、定期的に、そして不定期に。


 地面が揺れる。空気が振動する。魔力が雄たけびを上げる。


 その魔物の前に立ちふさがるのは大きな王都の壁とある男――――ライズだった。

 ドラゴンから聞いていた襲撃情報。だが、その規模が尋常じゃないと知ったライズは準備をせざるを得なかった。

 しかも天星教団が総出で出てきてくれれば良いのだが、この近辺にはルナしかおらず、そのルナは能力こそ高いものの殲滅力だけで言えば教団の中でも下から数えたほうが早い。


 結果として、誰も巻き込まない選択をするためにも、ライズはこの襲撃を誰にも伝えずに今日を迎えた。


「さて、いっちょやりますか」


 覚悟はもう決めてきた。最終兵器も用意してきた。

 俺の全力で、お前を止める。


「魔力水晶、起動。発動『橙の太陽』」


 魔力をため込んだ水晶から魔力を取り出し、太陽を創り出す。

 一つだけで家が買えるくらいの価値がある、使い捨てアイテムをライズは躊躇いもなく使用した。

 ライズの特異体質による関係で、太陽を一つ生み出す魔力をこの早朝に得る必要があったため、躊躇う理由がなかったというのが大きい。


「発動『橙の太陽』」


 どんどんと太陽を増やしていく。それはエンジンがあったまっていくようで。


 そして太陽が宙に合わせて十三、集まったとき。


 ライズと魔物の群れが、ついに接敵しようとしていた。





 ライズが太陽を展開し始めたころ。


「起きて、起きてエアリ!」


「むにゃむにゃ......にゃ?」


 エアリが寝相を悪くしていたところ、ガイアが起こしに来た。


「どうしたの、ガイアちゃん」


「ライズ先生が――――いや、英雄サンライズが戦闘を始めた。それも結構な本気で」


「え! ほんと! ちょっと待って、すぐ準備するから! ってどうやって部屋入ったの!?」


「いつもエアリは暑いからって言って窓を開けて寝るって聞いてたから」


「あ、そっかぁ」


 エアリはもう気にすることなく、準備する。

 とは言っても、制服を着て、杖を持つ。魔法の補助具として、スキルがない人は大抵杖を持っている。

 が、今日はガイアは杖を持っていなかった。


「ガイア、それ」


「そう、私の相棒」


 右手に持っていたのは、長い棒。魔力を通すと、微妙に緑色に発光していた。

 それを見てエアリは、思ったままのことを口にしていた。


「――――ライズ先生とお揃いだね!」


「――――! そうなの」


 珍しく感情を外に出したガイア。そのまま「むふー、準備はいい?」なんて言っている。


「いいよ!」


 エアリがそう返す。


「それじゃあ、英雄サンライズの戦闘を見に行こう!」


「......おー!」


 その瞬間、二人の足元に大きな岩が現れる。二人がそれに飛び乗ると、その岩は速度を上げて戦闘地域に向かっていく。


「やっと見えた!」


「王都は広い......」


 岩に乗って、それを浮かせて移動しているだろう。地上を走るよりははるかに速いものの、どうしても速度としては火や風に見劣りする。

 ガイアがもどかしさを感じてき始めたころ、やっと門の奥を、サンライズの戦闘場所を見ることが出来た。


「どうなってるの......」


 その後、一瞬にして目を疑うこととなった。


 二人が見た光景。頭の上に天使のような輪っかを浮かべた男が、低空飛行で大きな火の翼をはためかせ、光のローブを着て、大きな特殊合金で作られた大砲を片手で、いつも見ていた棒を片手で、振り回していた。

 そして地上はもっと悲惨だった。

 魔物の死体が残り、一番下の層は急所を一撃で貫かれていた。が、途中から部位が消し飛んで、今積もっている死体の層はほとんど骨だけだった。


 これは、絨毯なんてレベルではない。


 無限に続きそうな量の魔物が、今なお進行を進めてくる。


 上空に浮かんだ十二の太陽が、少しずつ昇り始める真の太陽が、どれだけ天変地異を起こそうと、その群れはやまない。


 既に奥にあった森は焼け焦げ、さらに奥の山脈は所々が円形にくりぬかれている。雲が円形に抉られているように見えるのは、流石に偶然だろう。


 まるで英雄サンライズの最終決戦。そう二人が感想を抱いたとき。


「ふたりとも、今すぐそこから離れて!」


「「!!」」


 ガイアがとっさに乗っている岩を後方へと移動させた。

 コンマ数秒後、元居た場所を太い光線が貫いた。


「今はこの周辺はどこも危険地域だ、すぐに王都の奥へと非難してくれ!」


 魔法師団、その一人が警備をしているのか、空を飛んで知らせに来た。


「でも......」


「君たちの命が最優先なんだ! 今すぐ引いてくれ!」


 彼も身を危険に投じて説得を行っていると考え、ガイアはしぶしぶ、その警告に従った。

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