月明かり
「ん......」
ふと、目を覚ます。
制服に乱れはなく、盗賊というには統率が取れすぎている手際で連れてこられたこの敵拠点。
隙間から月明かりがかすかに漏れている。揺らめくことがなくひたすらに柔らかな光を振りまいている。
少しも変化がないと、どんどんと眠くなってくるのだが、不思議と目が覚めていた。
ほかの人たち......クラスメイトはみんな、同じ部屋に収容されたようだ。
この大人数を収容できる場所を事前に用意してあること自体が盗賊らしくない。
が、そんなことを気にしたところで、どうしようもない。
もう月明かりが漏れているということは深夜、まだここを見つけていないか、それとも足踏みをしているか。どちらにせよ深夜に作戦を決行はしないだろう。
はぁ。家族は心配しているのだろうか......
そんなことを考えているときに、それは起こった。
「―――――」
誰かの美しい声が聞こえる。それは魔法の詠唱だろうが、歌のように聞こえた。
そして数秒後。
天井が、砕けるようにして穴をあける。
そこから入り込んできたのは月光。
が、先ほどまでの光とは全く違う、圧縮された殺意の光。
「咲き誇れ『月華』」
その歌うような音色は、先ほどよりもはっきりと聞こえた。
そして空中に、花を見た。
大きく咲き誇る華を。
空に浮かんでいたのは、月を中心として、月光が集まり、花弁一枚一枚を作っていた。
そして遠くから観測できるほどに魔力が中央に収束していく。
「降り注げ『月光線』」
宙に浮いている女性が手を振り上げる。
その瞬間、中央、月から光の光線がこちらに向かってくる。
いつも世界を白く、淡く、優しく照らしていた月は、その優しい光を集めて破壊を振りまく。
「ぐああああああ!」
監視の一人は直撃を受け悲鳴を上げる前に消滅。
そして近くにいた一人が、光を直接浴びていないのにも関わらず、声を上げだした。
何を感じているのか、何を見ているのか。
月の魔力、と本に書かれていたものをふと、思い出す。
あれはたしか、何かの物語の比喩表現だったか。
ともかく、そんな力があるのだろう、あの光には。
気が付いたころにはもうあの歌っているような彼女の姿はない。
月の光は、僕たちを変わらず優しく照らしているだけだった。




