敗北の色
「フッ!!!」
その瞬間、ガイアの懐から棒が一気に伸びた。
比喩ではなく、実際にその長さを伸ばしていた。
「その棒、作っていたものか」
「そう。視線はやっぱり先生のものだったんだ」
そう言い、ガイアは間合いを詰める。
棒を後ろに引き、突きを放つ構えだ。
やっぱりばれたか、と考えながらも、少し思案する。そして一つ、教えてやることにした。
「俺が魔法を使えなくなるのは『日が完全に沈んだ時』だ」
そう言った瞬間、ライズは―――否、サンライズはバックステップを踏む。
「『橙の太陽』」
本物には遠く及ばない、サンライズはそうつぶやくがガイアにその声は聞こえない。
空に浮かぶは二つの太陽。
そしてガイアもその瞬間に知覚する。
サンライズの魔力が、踊っている。
溢れるようにして魔力が出てくる彼を見て、ガイアは唇をかんだ。
ガイアの誤算は、正午から時間が経過するにつれて、多少の力の衰えはあるだろう、『橙の太陽』が出てこなければ僥倖、出てこなくても詠唱するようなら、と考えていた。
しかし実際はもう太陽が落ちかけているというのに無詠唱で『橙の太陽』を出現させた。
「その魔法、反則」
「この程度も破れなくて、天星教団は名乗れんぞ」
サンライズは棒を呼び出すと、そのまま大きく振り下ろした。
ガイアはそれを間一髪、棒を横にして耐えた。が、体格差もある。どんどんとガイアが押されていく構図となった。
「あきらめろ。せめて完全オリジナル魔法を三つ、使いこなせるようになってからだ」
「......わかった」
そう言うと、ライズは「よろしい」と言って棒と魔法を直した。
実のところ、ガイアは奇襲をかけるつもりだった。
しかしガイアは「まだ遠い」とつぶやくことしかできなかった。
―――――遠すぎた。
自分のフィールドなら勝てると思った。
相手が弱っていれば勝てると思った。
成長した自分なら何とかなると思った。
―――――全部、慢心だった。
追放させられたとは言え、英雄は英雄。
街を救った、都市を救った、国を救った。数えられないほどの災害を起こして救った、まぎれもない実力者。
そのことを失念していたわけじゃない。けど、いつものライズ先生に英雄サンライズという人物を重ねきれなかったのも原因の一つ。英雄の名が、こんなにも遠かったとは思わなかった。
目の前にいるのに、そこにたどり着くまでに入り乱れた階段がひたすら続いている錯覚。どんどんと視界が霧に包まれるような不安。
全部、想像力の欠如、結果を想像しなかった私の失念。
そして、これが英雄サンライズじゃなかったら、私たちのクラスを担当するライズ先生じゃなければ、実践だったら、私は殺されていた。
そして苦し紛れの奇襲ですら、先生は許してくれなさそうだ。
「まだ遠い」
口からそうこぼれ出る。それしか言えなかった。




