ダンジョンのラスボスが、ダンジョンに入る
この物語の主人公 寝子見みずきは、16歳の高校1年生。
関西の地方都市に住む、本人曰く普通の女の子だ。
ねこみ みずきという、その名の通り、ねこみみが大好きである。
可愛い「ねこみみ」を見た時や、小動物をモフモフすると、
「にゃふー!」
以外話せなくなってしまうほど、ねこみみとモフモフが大好きだ。
ねこを2匹飼っている。
ねこの名前は、リュウとニーナ。
ゲームとアニメのオタクである。
アニメのキャラクターの真似して、髪型はツインテールである。
などいくつか特徴もある。
しかし、彼女を説明する場合、忘れてはならないことがある。
彼女は、いつの間にか「ラスボス」になってしまっていたのだ。
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寝子見みずきは、いそいそとお弁当を作っていた。
学校が夏休みに入って、遊びのお誘いをもらったのだ。
これから、同じ学年の仲間と一緒にキャンプに行く。
しかも、高校入学以来初めて出来た友人たちと。
ついこの間仲良くなった、男女2組でだ。
キャンプと言っても、地下の洞窟探検というのが今一だ。
だが、高校生になってから初経験の、リア充イベントである。
小さな頃から凝り性で、好きなことを徹底的にやってしまう。
時々仲良くなる子は確かにいた。
いたのだが、この凝り性に付いてこれず、離れてしまう。
その為、いつも一人で行動していた。
ずっと話し相手は、日本語の通じない、ねこ2匹だった。
※ねこの前は、ウサギだった。
みずきはその日の朝9時から、動物病院に予約していた。
飼いねこ2匹の健康診断を頼んでいたのだ。
洞窟探検は急に決まったので、予約を変更できなかった。
他の3人は、朝一番から洞窟に乗り込んでいる。
彼女だけ、お弁当を作って、昼から参加することにしたのである。
張り切って、色々な中身の入ったおにぎりを作った。
凝り性のみずきは、一時期お料理にも凝っていた。
味よりも、見栄え重視だったが。
アニメのキャラ弁を作ったりしていたが、自分用だった。
家族以外の他人に食べさせるのは、初めてだったりする。
鶏の唐揚げやポテトサラダ、卵焼きなど、お弁当定番のおかずを、プチトマトやブロッコリーの間に入れて、お弁当箱に詰め込んだ。
(見栄えには自信あるけど、味は大丈夫かな?
自分では気付いてないけど、実は味音痴だったとかないよね)
今回は、キャラ弁は封印した。
折角できた友達に、引かれないように。
彼女なりに色々、考えているのである。
そして、昨日買ったばかりのリュックサックに入れた。
あとは水筒を持って、出発だ。
みずきの家から1キロほど自転車をこいで、市役所の駐輪場に停めた。
彼女は、よく一人でアニメの聖地巡礼をしていたので、体力はある。
市役所の芝生の隅の方に、直径50センチほどの穴がある。
この穴は、ひと月ほど前に突然できたものだ。
偶々この穴が開いた日に、みずきは芝生にいた。
何だろうと降りてみたのだが、洞窟の様だった。
彼女の父は、市役所の職員だ。
みずきの通報を受けて、翌日には一緒に見に来た。
誰かがこの穴に落ちたら危ないので、柵で囲われた。
「多分、昔の防空壕の天井が崩れたんだろう」
※みずきの住む街には、旧日本軍の飛行場跡や、防空壕が残っている。
少し前に満 月が、この穴の下の洞窟を調べた。
この洞窟は、階層構造の地下迷宮のようになっていることが分かった。。
ちなみに満月は、寝子見みずきのクラスメイトだ。
苗字が満、名が月である。
この地下迷宮は、別の世界から転移してきたのかもしれない。
満月は、そう言い張った。
そこで夏休みを利用して、みんなで探検しようということになったのだ。
中で一泊位して、行ける所まで冒険する。
それでも最深部に到達できないようなら、再度冒険するつもりで。
(この穴に入るのは、穴が開いた日以来だな)
とか考えながら、穴を降りる、というか飛び降りた。
みずきが降りた穴の中は、光源が無ければ真っ暗だ。
「そう言えば、月君がなんか脅かしていたな。
地下2階辺りからモンスターも徘徊しているとか。
でも、そんなこと現実では、あり得ないよね。
万一本当だったとしたら、女子一人は怖いし。
ましてや、そこで待ち合わせするなんて、おかしいもん」
そう言いながら、地下2階に降りる階段をタタっと一気に降りた。
LEDのランタンで回りを照らして、洞窟内の様子をうかがった。
※みずきの持って来たランタンは、中々の優れものだ。
最大の明るさで3時間、ガスのランタン程度なら2百時間持つ。
「前に来たときは、こんな階段無かったような気がするけどな。
可愛いねこちゃんは、いたけど」
実際、みずきが初めてこの穴に入った日に、ねこが居た。
このねこは、みずきの持っていたキャットフードに誘き寄せられて、自ら仕掛けた罠にかかった、この地下迷宮本来のラスボスだった。
この地下迷宮最強のモンスターに、既に会っていたのだ。
みずきは、知る由もないが。
洞窟内は、茶色い土の壁のトンネルになっていた。
見渡す限り、人っ子一人いそうにない。
ここで、スマホを点けて電話した。
「もしもし、月君?
今、地下2階の階段を降りたところ。
どこに行ったらいいの?」
「ああ、みずき。
やっと来たか。
僕たちは今、地下3階に降りたところだ。
モーグルマップで僕たちの位置は分かるはずだから。
君との距離は500メートルってところか。
30分ほどで会えるな」
みずきは、スマホの画面を見ながら進んでいく。
※モーグルマップとは、GPSで現在位置の分かる地図アプリだ。
地上の地図が表示されるだけだが、自分の位置と方角が分かる。
当然、地下迷宮の地図が表示されるわけは、ない。
それでも、4人の携帯電話の位置がマーカーで表示される。
同じ階層にいるなら、マーカーに向かえば、会えるわけだ。
「みんな、もう4時間も探検しているのに、5百メートル先かあ。
私を待って、ゆっくり進んでくれたんだね。
みんな優しいな」
みずきは、ご機嫌で進んでいく。
果たして、この地下迷宮には、本当にモンスターがいた。
先行の3人(+2匹)は、戦いながら進んだので遅かったのだ。
本人は全く気付いていないが、みずきはラスボスである。
地下迷宮内の弱いモンスターは、ラスボスに近寄らない。
ラスボスを護衛する配下が、みずきを秘密裏に守っている。
中途半端に強いモンスターは、逃げずにこの護衛達に倒される。
そのため、みずきは地下迷宮内では、危険な目に合わないのだ。