悪魔の優しい贈り物
空には、天界があり、ひとりの神様と、たくさんの天使がいました。
そのなかでも力の強い"クロノス"と"レン"と言う天使がいました。
クロノスは優しく誰からも、愛される天使でした。
対して、レンは狡猾でした。クロノスの力を妬み、神様にこう言いました。
「クロノスが、神の座を狙っております。」
レンは、神様に気に入られていましたから、神様はレンの言葉を疑う事をしませんでした。
怒った神様は、クロノスを悪魔に変え、地上へ追放しました。
クロノスの美しかった純白の翼は黒くなり、黄金色の髪は蒼く変色してしまいました。
クロノスは、地上では居場所がありませんでした。悪魔の姿では、誰もが恐ろしがって近づかないのです。クロノスは寂しい気持ちでいっぱいでした。
ある時、雪の積もった森の中で、子供が泣いていました。
怖がられると思いながらも、子供に話かけると、子供は怖がる様子を全く見せずに、
「お母さんを助けて!」
と、クロノスに助けを求めました。
「私が怖くないのか?」
と聞くと、子供は、不思議な事を言いました。
「僕は心の色が見えるんだよ。あなたの色は白くてキラキラしてる。まるで雪みたいに……だからきっと、"優しい"んだ。」
地上にきて、初めて話をしました。たとえ、子供でも、クロノスは、嬉しかったのです。
クロノスは、子供の話を詳しく聞きました。子供の名は、コアと言い、母親が、訪ねてきた知らない男二人に、無理矢理連れ去られたのだとか……。
クロノスは、コアと共に、母親の手がかりを探しました。
雪の降りしきる中、黒い翼をはばたかせ、彼らが去った方向へ進んで行くと、荷馬車を見つけました。
「あの馬車だ!」
馬車は、小さな町の飲み屋の前で止まると、二人の男は、店の中へ入って行きました。
「今のうちだ!」
クロノスは、素早く荷馬車の後ろへ降りると、中をのぞきこみました。
そこには、手足を縄で結ばれた若い娘が数人よこたわっていました。
「お母さん!」
コアの母親も、その中の一人でした。
クロノスは、中にいた娘を、全員助けだしました。クロノスの変わりに、コアが説明してくれたおかげで、娘たちを怖がらせずに、家へ帰してあげる事ができたのです。
コアと、母親もまた、泣きながら再会を喜びました。
クロノスは、皆から感謝され、寂しさでいっぱいだった心が、温かくなりました。
コアは言いました。
「だから、言ったでしょ、クロノス様は、"優しい"って。見た目だけで人を判断してはいけないんだよ。」
クロノスは、コアのおかげで、地上に来て、初めて目標を見つけました。
「私は、これからも、弱い者の助けとなろう……」
クロノスはその日、森の奥に魔法で大きな城を建てました。地下には巨大な町をつくり、たくさんの人が住めるようにしました。
コアと母親が、その町の初めての住人になりました。
人助けが始まりました。奴隷や虐待、貧困、迫害を受けるものを連れ去っては、行くあてのない彼らを地下の町へ住まわせました。
周囲から見れば、"悪魔が空から降りてきて、人さらいをしている"ようにしか見えませんが、さらわれた人々は、辛く苦しい日々から解放され、とても喜び、クロノスに感謝しました。
何年かたち、周囲から"蒼髪の悪魔"として怖がられるようになった頃、一人の天使がやってきました。
長い金色の髪をした美しい天使は、クロノスのしている事を正しく見抜いていました。
「やはり、あなたは、"人さらい"ではなく、"人助け"をしているのですね。」
彼女は、クロノスを手伝うようになりました。
長年苦しめられてきた住人は、人の"痛み"がわかるので、争うことはしませんでした。みんなが、手をとり合って助けあう、そんな町になっていったのです。
クロノスと彼女は、お互いに惹かれ、次第に恋におちていきました。
クロノスの名が各地で知られはじめると、地上を牛耳る魔王が、クロノスの城へ、配下を連れてやってきました。
クロノスは、地下の人々を守らなければなりません。魔王が、敵意をむき出しにすれば、戦いは避けられないのです。
魔王は言いました。
「"蒼髪の悪魔"などと呼ばれ、怖がられているようだが、気に入らん……。世界で一番強いのは私だ!お前と私、どちらが強いのか確かめようではないか。お前が勝てば、"魔王"の称号はくれてやる。ただし、私が勝てば、この城と配下は、私がいただく。」
やはり、戦いはさけられませんでした。
クロノスは、必死で戦いました。人々を守るために……
魔王はとても強く、クロノスは苦戦を強いられました。
しかし、クロノスには守るものがある。それが、窮地にいたクロノスの更なる強さを引き出したのです。
クロノスは、魔王を倒し、新たなる"魔王クロノス"となりました。
町民は、とても喜びました。そして、ある計画をたてました。
コアを中心として、その計画を進めました。
ある者はご馳走を作り、ある者は花を飾り、また、ある者は、ドレスを縫い……。
みんなは、クロノスと天使の為に、結婚のパーティーを開こうと考えたのです。
悪魔と天使は敵対しているので、本来ならば結婚など有り得ないことです。
しかし、人々は、二人の気持ちをよくわかっていました。
だからこそ、この地下の"秘密の町"だけの"秘密の結婚式"をするのです。
準備を終えると、コアが城にいるクロノスと天使を呼びにいきました。
二人は、とても驚きました。
たくさんの町民集まり、知らない間に、広い部屋は、華やかに飾り付けられ、各テーブルの上にはご馳走とワインが並んでいました。
天使は、町民に、ドレスを着てほしいと促され、天使は純白のドレスを身に纏うと、その姿は、とても美しく、誰もがうっとりしてしまう程でした。
クロノスも、蒼い髪を整え、着替えを済ませると、パーティーが始まりました。
子供達から大人まで、みんなが歌い、踊り、クロノスも天使も、嬉しさで胸がいっぱいでした。
「このパーティーは、クロノス様と天使様に、感謝を込めて、私達からのプレゼントです。」
コアが言うと、
「ありがとう。いままでで、一番最高のプレゼントだよ。」
クロノスは、悪魔でありながら、とても優しい笑顔をみんなに贈りました。
童話ということで、なるべく簡潔に、わかりやすく書くことに苦労しました。自分の中の世界観が、読んでくれた方にうまく伝わったか、少し不安はあります。クロノスの優しさを感じ取っていただけたのであれば幸いです。