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独りでに散歩者

作者: 犀星ゆき

僕は普段目的が無ければ全く外をぶらつくことはないんだけれど、例えばどうしても買い物に行かなきゃとか、どうしてもバイトしなきゃって時だ。


今日はそういうわけでもなかった。


けど、座ってても寝転んでても、なんだか何にも集中出来ないなと思って、灰色のコートを着た。目的意識がある。


寒いから、外に出る前に何か羽織るという行動を取った。


家のドアに鍵を掛けた。


門を開けて家の前の道路に出る。

大体数百歩くらい歩くと家の前の一本道の道路から、三叉路が現れる。


特に遠くに行く用事がない。


身体を運動のために動かすだけなら、ぐるぐると家の近所をうろつくだけでいい。


けれど、そうすると通報されたりする。


若い男が通学カバンなども持たずに一人で、着の身着のまま住宅街をうろつくと、それだけで胡乱な眼差しを向けられる。


それらの視線は主に年寄りから注がれる。


そういう地域なのか。


それともそれがこの国の人間の普通なのか。


日本は、大体どの都道府県に行っても住宅街の景観というのものに大差はないように思う。


田園風景が広がるど田舎の人家も疎らな地域とか、都会に聳え立つ高層タワーマンションなんかは別として。


普通の、中流家庭が密集する、郊外の住宅地。


どこを歩いても一緒で、何も変わりのない景色で、のっぺりしていて。


なんだか俺はどこを歩いても、なんだか歩いてないみたいな気になったのだよな。


歩いても歩けてないのと一緒なら、俺が歩かなくても良くなったのだと思う。


だから、その時ふと気がつくと俺は独りでに散歩をしていた。


止まれなかった。


足が勝手に左右に動くのかといったら、そうじゃなくて、配信者とかが無言で自分の足元映しながら散歩配信してるのをぼーっと眺めてて、その足に止まれと念じても仕方ないとかそんな感じだった。


けど、俺の足には違いがないから。


止まろうと意識すれば止まれた。


目的意識が作動した。


俺はそういう時、コートを着込んだ時のように、俺の意思が介在して上手くいくのだ。


俺だった。


のっぺりとした住宅街に一人立つ俺はひどく不安だった。


なんだかこのまま、のっぺらぼうになりそうな気がした。


こういう時は音楽を聞いてそれに集中すればいいと思って、まあまあ好きなバンドを聞いた。


一番好きな音楽ものっぺらぼうになってたら嫌だからそれは聞かなかった。


俺の居場所はかろうじて俺の家だけだった。


近所はみんな透明なつるつるとした何かがあって、歩いても意味がなかった。


止まろうと思えば止まれると思った。


けれど、もし止まれなかったら怖いと思って俺は止まれと念じたのだと思う。


結果から言うと足は止まった。


けど、なんだかそのまま別の何かは俺の先ほどの歩行ペースで止まった俺の身体を抜け出して前に歩いていった気がした。


それに引っ張られて、止まってるのに歩いてるイメージが頭からしばらく抜けなかった。


無意識に委ねたのだろうか。


自動筆記という言葉を聞いたことがある。


シュルレアリスムの技法?の1つだった気がする。


自分の努力とか能力とかで底上げした文章力じゃなくて、天とか偶然とか神とかに委ねて自分はそれをその都度筆記するだけ。自分で考えない。そういう文章。


変性意識状態とでも言う状態なのかな…。


個人的にはそんな感じに解釈する時が多いかもしれない。


あなたはノリのいいクラブミュージックを掛けると、勝手に身体が動き出す方だろうか?


僕は全くその感覚が分からない。


自然と身体が動き出すってなんなんだろう。


音楽が身体を動かすことはない。


音楽は脳をガツンと殴ってくることはある。


なんでなんだろう。


EDMで身体が踊り出す人は、独りでに散歩者をやっても怖くなったりしないのだろうか。


俺はつい止まってしまった。


頭が勝手に動き出すのはあまり怖くない。


それは俺にとって特別驚くほどのことではないから慣れてるのだろうか。


今回はこういう文章だったけれど、これは観察と考察の文章だったなと思う。



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