今の自分
着替えを済ませ部屋から出ると、やはり見覚えのない場所。
俺は意識だけの存在だった時の事を思い出した。
<転生に成功しました>
俺は新たな存在として転生をしたのだろう。
しかし、転生とは前世の記憶を持っているものなのだろうか?
多くの疑問が残るが、今は食事を済ませ神託の儀というものに向かわなければならないらしい。
見知らぬ場所なので少し時間はかかったが、なんとか食卓につくことが出来た。
「着替えて食事に来るまでどれだけ時間をかけてるの?」
姉が少し怒り気味に声をかけてくる。
「ごめん、とりあえずいただきます。」
俺はそう返してご飯を食べ始める。
前世ではあまり見た事の無い焼き魚の定食のような感じだったが、全く見覚えのない食事というわけではなかったのですんなり手が伸びた。
「ソウマ、今日はホントどうしたの?熱でもあるの?」
姉がなんだか心配そうに声をかけてきた。
「え?」
「魚をスプーンで食べるって、今までお箸で食べてたのに。あと、今日は妙に素直。まるで別人みたい。」
俺は内心ドキッとした。
それは別人みたいと言われた事と、姉が呼ぶソウマは自分である事。
名前が前世と同じ[ソウマ]なのだ。
「なんか、今日はそんな気分なだけだよ。そう、神託の儀の前で緊張してるのかも。」
我ながら上手く切り返したと思う。
神託の儀がどんなものなのか知らないけど。
「まぁ緊張はするよね、自分の役職が決まるわけだし。ソウマの神託の結果を聞いたら私もこの家から出るしね。」
姉の言葉に返す言葉の見つからない俺。
神託で決まる役職もの事も、よく知らないにしろこの世界で一番最初に声をかけてくれた人の宣言。
「まぁ、ソウマの神託が勇者みたいに世界を旅するようなものならソウマと旅をしてもいいけどね?」
姉はイタズラっぽく笑ってそう言うと、ご飯を食べ終えて自室へと戻って行った。
(神託で勇者?神託の儀とは一体どんなものなのだ?)
とりあえず神託の儀がこの世界でかなり重要なものなのはわかった。
しかし詳細はよくわからない。
いろいろ考えていると
「ソウマ、はやく食べてしまいなさい。」
「あまり遅くなると神託が受けれなくなってしまうわよ?」
恐らく両親だろう。
妙齢の男性と女性から声をかけられた。
「うん、すぐに食べてしまうね。」
俺はそう言って急いで食事を平らげひとまず自室に戻る。
「ミレイじゃないが…本当にソウマは大丈夫だろうか…?」
「いつもより少し良い子過ぎますが…まぁ、大丈夫じゃないでしょうか…?」
両親は俺を心配する。
今までの俺、俺が転生するまでの俺と言ったらいいだろうか、一体どんな奴だったんだ?
と、思ったが今は神託の儀が優先だ。
わからないだらけだが、一歩一歩前進する事を心に決めた。