№08 『旅立ち』
side ジークフリード
このシンギタイ山で生まれて15年。武の民と共に鍛え、一流の戦士を目指して日々の修行をしてきました。15歳から成人と言われ、この村を出て修行の旅に出ることも出来るようになります。
そして、成人を迎えた今日この日に僕は、村を旅立つ用意をしていた。
「これで全部かな?」
持って行くものは衣類と少ない硬貨、それと大事な招待状。簡単に荷物をまとめた僕は家の扉を開けて門へと向かう。
村の門に集まってくれたのは一緒に修行した知人の方達。しかし、その中に妹のアイリスは居ません。前々から言いつけてはいたのですが、昨日の晩から泣きじゃくって、今日の朝にはぐっすり眠っていたからです。
涙で濡れた枕の上にある可愛らしい寝顔を見て、目に焼き付け、僕も目頭が潤んできながらも優しく頭を撫でると、お返しに「くしゅん」と、くしゃみをされて、顔面よだれだらけになりました。
んーまぁ、唯一無二の妹のならば悪くない。それも可笑しいか
「ジーク兄さん」
そんな朝の思い出に耽っていると、僕のへそを越える辺りから声が聞こえます。村の少年、ウォルカ君が目の前にまで来ていました。
僕の教え子であり、村の人たちからは神童と呼ばれている将来が楽しみな少年です。
僕自身も昔は神童に代わりはなかったはずですが、僕とは違い彼の場合は、精神面でもかなり落ち着きがあり、アイリスの一つ上の五歳とは思えない思考を持っていたり、村の人が知らないような知識もあったりと会うたび毎回驚かされます。
「ウォルカ君、見送りに来てくれたんだ。ありがとう」
「お世話になったんです、当然ですよ。あれ? アイリスは?」
「まだ寝てる、昨日一晩中泣いてたから……」
「そうですか」
こういう時の表情が、やはり同年代のアイリスとは違う気がします。はたして彼は何者なのでしょうか。深く考えても答えは知っています、可愛い僕の後輩であり優秀な弟子、只それだけでしょう。
「ジーク兄さんはいつ帰ってくるんですか?」
「そうだねぇ、僕の実力にもよるけど、合格を貰うのに少なくて三年は掛かるって言ってかな」
「三年、ですか」
ウォルカ君がしょんぼりしている。彼がこういう顔をするのはまぁ珍しい。やはり彼も子供、アイリスと変わらないのかもしれない。
僕は彼を元気つけるため、何か無いかと言葉を選ぶ。
「なるべく早く帰ってくるからさ、そしたら僕が剣の稽古をつけよう」
「本当ですか?」
「ああ、約束だ」
僕は手を差し出し、小さな手を握る。
「そのかわり、アイリスの事を頼んだよ」
「任せてください」
僕が笑うと彼もつられて笑う。うん、いい笑顔だ。
「じゃあ、行くよ。ウォルカ君、また会う時を楽しみにしてるよ」
「はい、行ってらっしゃい」
僕はそうして街を出た。遥か北、この国の王都『セントロアルストン』で剣を習うため、一流の戦士を目指して――――
「さぁ、行こうかな。いざ、アルストン学園へ!」