四周め その三
ハーレム風味を増やしてるつもりなんですが、もとがほとんどゼロなので、なかなか目立って増してこないです。
中庭の、校舎の出入り口が見えるベンチに座っていると、下校時間になって教室にたまっていた生徒が続々と出てくる。そのなかに珠洲利も志手川も、そして見多森もいた。
二周めのぼくは、見多森と一緒に加楠宮を教師に売った、ということになったはずだ。見多森のことが好きだという加楠宮はそのときどういう行動をとったのだろう? ぼくに対するいじめには参加していたが、見多森に対してはどうだったのか。それを確認しなかったのは悔やまれる。
部活組以外の生徒がだいたい出払った感じになったころ、浜喜田が出入り口に姿をあらわした。手を振ってみせると、大きなため息をついてこちらにやってきた。そこまで露骨にイヤそうにしないでもいいじゃないか。
「それで、お話とはなんでしょう?」
一緒に校門を出た後、浜喜田は口を開いた。雰囲気はきわめて重い。女の子と二人で下校とか、パッと見はあこがれのシチュエーションなんだがなぁ。
「昼休みに生徒会長に呼び出されたんだ。浜喜田さん、ぼくのこと生徒会長に話したよね?」
「閑傍さんに、見たものをすべて報告してほしいといわれました。山瀬くんのことも、それに入ると思ったもので」
「責めるつもりで言ったんじゃないんだ。浜喜田さんは、どうして生徒会長に協力することになったの? ぼくのことまで報告するっていうのは、お付き合いだけじゃなくて、本気で協力してるよね?」
少しの間、沈黙が場を支配した。そして、浜喜田が、絞り出すようにして話を始めた。
「わたしもいじめを受けていました。そのときに相談に乗ってくださり、助けてくださったのが閑傍さんだったんです。その閑傍さんが『協力してほしい』とわたしに頭を下げてこられました。わたしは、わたしで力になれることなら、全力でがんばろうと決心したんです」
その浜喜田が受けていたいじめと、いま学校を覆っている影とやらが関係しているかどうかはわからない。だけど、会長の知っていること、浜喜田(浜喜田)の知っていることと、ぼくの知っていることを付き合わせてみる意味はありそうだ。
「ぼくも今日会長に、ぼくの知っていることを教えてほしい、と言われたよ。明日の昼休み、もう一度生徒会室に行くことになってるんだ」
浜喜田はぼくを真正面から見た。実は話している間中、彼女はぼくのほうを一度も見なかった。しかたがないから最低限を話す、という心境だったのだろうが、少し彼女にスタンスを変えさせることが出来ただろうか?
「正直、迷ってたんだ。生徒会長が真剣に頑張ろうと思ってくれているのはわかる。でも、一人で背負い込もうとしすぎている気がしてさ。でも、きみにつきあってくれる気があれば、一緒に会長を助けられるかもしれない」
「どうしたんですか? 山瀬くんは他人に関わるのをいやがる人だと思ってましたが」
やっぱりそう思われていたか。ぼくらみたいな引きこもり一歩手前の人間は、関わるのをいやがるんじゃなくて、関わるのが怖いんだ。微妙な差だけどここ、けっこう重要なんだぜ?
「まあ、ぼくにはぼくの事情があるんだけど、それは必要になったら話すよ。でも、いまの状態を変えたい、と思ってることは間違いないから、そこはわかって欲しい」
「ますます山瀬くんっぽくない気がします」
やはり納得はしてくれていないようだ。これまでのぼくの生き方が足かせになっているなぁ。後悔はしていないけどね。
「おいおい納得してくれたら嬉しいな。明日、会長と会ったときに浜喜田さんも協力してくれる、というのをつけ加えてもいいかな?」
「かまいませんけど、実際問題としてわたしにできることなんてほとんどないと思いますよ? 山瀬くんほどじゃないにせよ友だちも少ないですし」
そりゃそうだ。ぼくより友だちが少ないのは真の引きこもりの人だけだろう。
「できる範囲で協力してくれればいいよ。ぼくだって自分がなにができるかわからないしね。でも、ぼくたち三人が知っていることをつきあわせるだけで、少しは前に進めると思う」
「わかりました」
さて、明日の会長との話がどうなるか。会長が乗ってきてくれるといいんだけど。
翌朝、またまた早朝に登校したぼくは、昨日と同じく野球場に足を運び、橘叢を探した。友だちの少ないぼくとしては、数少ないツテは積極的に活用するしかない。
「おはよう」
ぼくは落ちていたボールを一つわたしながら、橘叢に話しかけた。
「お、サンキュ……って、山瀬? 昨日からいったいどうしたんだ?」
「いや、今日は頼みがあってさ。カラオケに行く気ない?」
橘叢のボールを拾う手が止まり、ぼくをまじまじと見つめた。
「おま……大丈夫か? なんでおまえがよりによって声かけ? いや、それよりもさ、そもそもカラオケ行くの?」
失礼だな。ひとりカラオケのキャリアはそれなりだぞ? 選曲はだいぶ片寄ってるけどさ。
「ぼくだから、昨日話したばかりの橘叢くんに頼むんだよ。助けてくれないかな?」
「助けるもなにもさ……そもそもメンツ誰よ?」
「五、六人で考えてるんだ。脳内で確定してるのは水城と志手川さんと邑端さん」
「オタッくんが準備してるにしちゃ、豪華なメンツだな。成立するのか?」
素っ気ない受け答えをしているわりには、けっこう興味ありそうだな。ボールを拾う手が完全に止まってるぞ?
「そこは橘叢くん次第だよ。声かけの気合いが違ってくるから、できれば志手川さんにちょっと興味があるような人を誘ってくれるといいかな」
「そこらへんの理屈はよくわからんが……ああ、陵嶋がいるな。いつよ?」
陵嶋……ああ、やっぱり一年の時に同じクラスだったな。運動部系ではなかった記憶がある。
「早ければ明日の木曜の放課後かな。邑端さんが火曜と木曜だけだって言ってた」
「おれが練習サボれるのが木曜だけだから……明日だな」
すげえ気合い入ってきてるな。決め打ちかよ。まだ志手川にも水城にも声かけてないんだけど。
「それとさ、バランス的にもうひとりくらい女子いたほうがよくね?」
ハードル高いタスクを投げてきやがった! もうネタ切れだよ……と言いたいが、橘叢には協力してもらわなきゃ困る。
「が、がんばってみる」
「期待してるぜ、じゃあな!」
あわててぼくにスマホのメッセを交換させたあと、ボールのバケツを振り回しながら意気揚々と彼は去って行った。おい、まだボール落ちてるぞ。
そのまま教室に向かったが、まだずいぶん早いせいか廊下にも生徒の姿がほとんどない。どうしたものか考えながら教室の扉を開けると、志手川がひとり、窓から外を見ていた。ほほえんだのは幸運の女神か、それとも不幸の女神か?
「志手川さん、おはよう」
「あ、山瀬。おはよ。早いね」
印象点マイナス、ときいていたが、目立って冷淡になってる感じではないな。単刀直入に当たって砕けよう。
「志手川さん、突然だけど明日カラオケ行かない?」
「は?」
彼女は思いっきり顔をしかめた。とにかく押し切るしかない。
「志手川さんとカラオケに行きたいっていうヤツがいてさ。なぜかアレンジがぼくに。人選ミスだよね?」
ハハハ、と力ない笑いを浮かべてみせると、少し彼女の表情が和らいだ。
「ミスというか、見えてる地雷踏んでるようなものだよね。バカじゃないの?」
そこまで言うかい?
「いちおう訊くけど、メンツは?」
「予定は水城と橘叢と陵嶋。女子は邑端さんだけど、あと一人くらい呼んで来いっていわれてる」
志手川は大笑いをはじめた。たぶんぼくの悪戦苦闘を笑ってるんだろうけど、機嫌は良くなってきている感じだ。
「山瀬もムチャ押しつけられて災難だねぇ。明日ならあいてるから、その苦労に免じて行ってあげるよ。女子もうひとり、アテがなかったらだれか連れていこうか?」
かなり好感度アップっぽい申し出があった。だが、女の子にほかの女の子を誘わせるのは、最後の手段にしたい。
「今日いっぱいでダメならお願いしていい?」
「了解。アドかナンバーちょうだい」
志手川とナンバー交換して、ぼくは教室を出た。ミッションほぼコンプリートだ。よくやったぼく! 一刻も早く座りこみたい! もうメンタルポイントが限りなくゼロに近いよ! もうゴールしてもいいよね?
お読みいただき、ありがとうございます。
カラオケミッション、どうにかクリアです。頑張れ恭也!