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四周め その一

話のスパンが広がってきました。矛盾を出さないように頑張ってみたいと思います。

 当然の結果とは言え、珠洲利すずり志手川してがわの印象点がマイナスというのは、ぼくの行動の難易度を上げている。この二人はぼくに対する攻撃のトリガーを握っている。これまでよりも些細なきっかけでいじめは始まると考えていい。このままではうかつな行動はとれない。


 そういう事情もあって、今回はこれまでと違うふたつの切り口で攻めてみたいと思う。ひとつは印象点操作。そして、もうひとつは、いじめのもうひとつの核だった加楠宮かなみやの周辺に探りを入れることだ。


 珠洲利すずり志手川してがわの言いなりだというなら、とりあえず珠洲利すずりは放置して少し志手川の印象点を回復する。あとは、浜喜田はまきたと、可能なら生徒会長のポイントを積み上げる。この二人がどのような関わりを持っているのかはわからないが、話は聞いてみたい。


 やばいよ。これホントに恋愛シミュレーションゲームになっちゃったよ。現実でこれをやるのがいかに味気ないか、想像がつきすぎてイヤだ。「難易度が低いキャラから攻める」とか、「戦いに役に立つキャラを攻める」とか、いくらリアルに縁がなかったぼくでも、興ざめだと思えてしまう。




 加楠宮かなみやのおかれた状況を知るには、彼に近い人間に話を聞くしかない。野球部の人間か、同じクラスの人間。どっちも知りあいはいないんだよなぁ。ああ、気が重い。


 例によって早朝に登校したぼくは、野球部の朝練を見に行った。野球部はわりと強いので、加楠宮かなみやだけでなく、いろんな部員にファンがついている。早朝ということでさほど人数は多くないが、それでも何人かの女生徒が部員の一挙手一投足に声援を送っていた。


 ぼくは座って見やすい場所を探すために、野球場をグルッと一周する。見やすい場所とは、練習が見やすいだけでなく、女生徒から遠い、というのも含まれる。でないと、「練習を見に来た女生徒を見に来ている」などといらぬ勘違いをされかねない。非リアはこんな心配もしなきゃいけないのだ。




「おーい、足下のボール頼む」


 驚いて声のした方を見ると、汚れたユニフォームでボールの入ったバケツを持ったヤツがこっちを見ていた。足下を見ると、ボールが一個転がっている。投げ返してみると、二回ほどバウンドしてやっとそいつのところに届いた。我ながら情けない。


「あれ、山瀬やませじゃん。なんでおまえがこんなとこにいんの?」


 同じクラスの橘叢きつむらだった。


「早く目が覚めすぎちゃって。たまには校内をぶらついてみようと思ったんだけど、変かな?」


「変とはいわないけど、おまえみたいなのがこの辺歩いてると、応援の女の子目当てだと思うヤツが多いんじゃね?」


 クソ、やっぱりそうか。不本意だ。女の子は二次元の方がいいぞ?


「朝早いのに、女の子多いね」


「いまのレギュラー、ファン持ちが多いからな」


加楠宮かなみやとか?」


 橘叢きつむらはちょっとおもしろくなさそうな表情を浮かべ、消した。立ち話でサボってると思われると気の毒だから、ぼくはボール拾いを手伝いながら話をつないだ。


「そうだな。あいつのファンが一番多いかな」


「そんな中から彼女を選んだりするのか。かわいい子が選び放題?」


「それがさ、あいつ最近は見多森みたもり以外見向きもしねえんだよ。前はけっこうチャラチャラいろんな子をはべらせてたのによ」


 え? ここで見多森みたもり? だってあいついじめられる側でしょ? 加楠宮かなみや見多森みたもりの件にはタッチしてないってこと?


「み、未貴みたかも見多森(見多森)じゃなかったっけ?」


「なんだよ、おまえ意外とゴシップネタ好きなの? ちょっと加楠宮かなみや相手じゃ分が悪いよな。でも、加楠宮かなみやも苦戦してるみたいだけど」


 そこまで話したところでボールを拾い終わった橘叢きつむらは、立ち上がってぼくに笑いかけた。


「手伝ってくれてサンキュ」


「う、うん。またね」




 ぼくの頭は混乱していたが、それを整理するのは授業中に回すことにした。朝の残りの時間を生かすために、ぼくは図書室に急いだ。中に入ると、これまでは閲覧室に直行していたのだが、その前にカウンターの方を見た。


 浜喜田はまきたはカウンターにはおらず、今朝は中庭を見下ろしている。


「何が見えるの?」


 彼女は、弾かれたようにぼくのほうを見た。


「や、山瀬やませくん……」


 前回よりも、さらに平静さを損なった表情だ。もっとも、このターンでは最初だけど。


 ぼくは、彼女の肩越しに中庭をのぞきこんだ。そこには、カベに追い詰められたようにたっている女子生徒と、一見談笑しているように薄ら笑いを浮かべながらその子を取り囲む四人の女子生徒が見えた。


「あれ、ひょっとしていじめ?」


山瀬やませくん、ここは図書委員の聖域ですよ?」


「あ、ごめん。あんまり窓の外をいっしょうけんめい見てたんで、つい気になって」


山瀬やませくんには関係ない人たちの話です。あまり首を突っこまない方がいいと思いますよ」


 これだけでは、これが脅しか忠告かが判断できない。


「首を突っこもうにも、知らない人のいじめに関わることなんか出来ないよ。大丈夫」


 また少しの沈黙が流れた。そして浜喜田はまきたはまわりを見渡し、誰もいないのを確認した。


「わたしがこうして外を見ていたこと、誰にも言わないでもらえると助かります」


 その言葉で、ここはじゅうぶんだと思う。彼女は観察する側だということだ。首を突っこむな、と言う言葉も忠告だと解釈できる。


「もちろん。話す理由がないし、話す相手もいないし」


「そうでしたね」


 間髪を入れずそれか! そこまで言われるほど親しくないはずだぞ!? 失礼な。




 図書室を出たぼくは教室に向かい、自分の席に座って朝のことを考えはじめた。


 三周めがおわるまで、ぼくは見多森みたもりが純粋に被害者だと信じて疑ってなかった。だが、加楠宮かなみや見多森みたもりひと筋だという橘叢きつむらの話に間違いがないなら、ちょっと話は違ってくる。


 この二人が加害者と被害者に別れるのはいまひとつ納得がいかない。ほとんど交友関係がない相手ではあるが、ぼくは加楠宮かなみやが気性が激しいヤツであることぐらいは知っている。そんなヤツが、自分の好きな相手がいじめられている状況を放置するだろうか? 手ひどく振られた? でも、橘叢きつむらは、現在進行形のような言い方をしている。




 二コマ目の授業が終わり、そろそろ自分のキャパの小さい頭にイライラがつのりはじめたころ、未貴みたかがぼくに声をかけた。


山瀬やませ、生徒会の鞠碕まりさきが呼んでる」


 扉の方を見ると、生徒会書記の鞠碕紀久乃まりさききくのが立っていた。ぼくたち二年生から一人だけ生徒会役員になっている女生徒だ。


「生徒会室までご一緒いただけますか?」


 そばに行ったぼくに、鞠碕まりさきは単刀直入に用件を告げた。


「いいけど、なんの用だろうか?」


「会長がお呼びです。用件は存じませんので、会長にお訊きください」


 断ることもできず、彼女のあとをついて生徒会室に向かう。生徒会室に着くと、彼女はノックして入室の了解を得、そのままぼくに頭を下げて立ち去った。え、一人で会長と話せって? そんな無茶な!




 廊下に立ち尽くしたままでいるわけにもいかないので、「失礼します」と一声かけて生徒会室に入った。会長席に閑傍しずはたさんが座っているきりで、ほかには誰もいない。


「お呼び立てして申し訳ありません。少しお話を伺いたいと思いまして。山瀬やませさんの次の授業は、欠席していただいてよいとのの了解をとっております」


 まてまてまて。あなたと職員室はそれでいいかもしれないけど、ぼくはどうなる? そりゃ用件は想像がつくけど、ただでさえ生徒会から呼び出し、ってことでいらぬ関心をひいているのに、それで次の授業をスキップとか、どんだけ注目されると思ってるんだ?


「あの、会長、大変もうしわありませんが、それではぼくが変にクラスメイトの興味をかき立ててしまいます。場所と時間を決めていただければ改めて参りますので、ここはひとまず教室に戻らせていただけませんか?」


 会長はポカンと口をあけて固まった。完璧超人の会長にはありうべからざる表情だ。どうしたんだろう? 怒らせただろうか?


「も、申し訳ありません。ちょっと気が焦ってしまって、山瀬やませさんのご迷惑をまったく考えておりませんでした」


 会長はあたふたと立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。この人、完璧は外面だけで、意外と抜けたところがあったりする人か?


「いえ、お気になさらず。それで、どうしたらいいですか?」


「そ、それでは、申し訳ないのですが、昼休み、昼食がお済みになり次第、こちらにお越しいただけますか? わたくしはずっとこの部屋におりますので」


「わかりました。それでは失礼します」


 生徒会室の扉を閉めながら、ぼくは久しぶりにほっこりするのを感じた。




お読みいただき、ありがとうございます。


ミステリー風味はさらに増しているのに、ハーレム風味が全然増してこない……。


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