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五周め 裏その十一

とにかくだれを信頼してだれを疑うか、それを見極めるタイミング、であったはずですが……。

 ミナミは護衛だといった男の尻を蹴飛ばしながら森の中に消えていった。たぶんガチンコであのふたりが勝負したら、そんなに身体能力が上がっているようでもないミナミは手も足も出ないだろうから、別の理由でミナミが圧勝していたのだろう。あの男には頑張って欲しいものだ。


 ちなみに彼女には、ぼくがこちらの話を持ち出すまでは、ぼくやユカにそれまでどおりに接して欲しいと頼んでおいた。むこうのぼくがこちらの世界のことを、ぼくが管理者と話す前に知ってしまうと、どんなイレギュラーがむこうで起こるか予想がつかないからだ。できるだけむこうの状況は変えないようにしておきたい。




「で、どうするの、オタッくん? 摩桜まおうから連絡が来るのを待つ?」


「ほかに手がかりもないし、そうすべきだと頭ではわかってるんだけど……」


「はっきりしないなぁ。あれこれ迷っててもしょうがないじゃない。そんなにたくさん手がかりがあるわけじゃないんだし」


 ひとつ気になることがあるのだ。ミナミは約一年前の彼女だから、ここ最近のむこうの世界でのぼくの動きを知らなくても当然だ。だが、むこうの志手川しでがわは、こちらでのぼくを知らない。ぼくの行動がすなおに彼女の好感度、もしくは印象点とやらに反映されたということは、それ以外の隠し要素がないということだ。こちらの彼女は、ぼくとユカがこちらの世界に飛ばされたあとにこちらに来ていると考えて間違いないと思う。


 だが、こう言ってはなんだが、志手川してがわのぼくに対する好感度は、いまの時点では多少上がっているはずだ。それなのに、彼女のぼくに対する態度は、初期と同じ感じで塩だった。もとの世界で彼女の好感度を下げるなにかがあったと考えるしかない。となると、ここで彼女と運命をともにするような選択をするのはリスクを伴う。こちらで死に戻りができるかどうかわからない状況ではなおさらだ。


「彼女から連絡があったら、とりあえずユカだけでコンタクトしてくれる? そのほうがスムーズに話が進むと思う」


「そう思う根拠はあるのかな?」


 どうしよう? ぶっちゃけて話してしまいたいところだが、ゲームにおいて、ヒロイン候補に「好感度」云々の話をするのは最大の御法度ごはっとだ。ぼやかすしかないな。


志手川してがわさんはぼくに対して、そんなにいい感情は持っていないみたいだった。少なくとも、ぼくがいた方が話が進む、ということはないと思う。おもしろい話がきけたら、ぼくに教えてよ」


「オタッくんになにも言わずに、摩桜まおうとわたしがふたりで向こうに帰っちゃったら?」


「……」


「ウソウソ! ここまで一緒に行動して、そんなことしないって!」


 ぼくが言葉を失うほどショックを受けたと思ったのか、ユカはあわてて自分の言葉を打ち消した。うん、いい子だよね。だが、ぼくが反応を返さなかったのは、直観的にそんなことは起きないような気がしたからで、そう思った理由を自分で探していたのだ。


 こちらの世界の志手川しでがわに、ぼくをもとの世界に返してやろうという好意的な姿勢は、おそらく期待できない。ユカには別に悪い感情は持っていないようだったが、だからといってぼくと行動をともにしているユカをすぐに信用はできないだろう。なにか探りを入れてくるはずだ。


「そこはユカの良心におまかせするよ。いずれにせよ、声がじっさいにかかるまでは、ミナミとも相談しながら、自力で手がかりを探そう」


「もうちょっと美海(みなみ)の呼び方、自然にしようよ」


「それいま突っこむところじゃないから!」




 夜も明けて、先ほどまで休んでいたグループが交代にやってきた。ここから最低で四時間くらいはぼくらの休憩時間となる。ユカとぼくは湖畔で朝食のしたくを始めた。ユカは朝練もあるから朝食をしっかり食べるし、ぼくもここしばらくの早起き生活で、朝食をちゃんと食べるようになっている。


 昨夜の夕食用にユカが調達してきた肉の残りをおかずとしてパンと合わせ、紅茶に似たこちらのお茶でいただくと、それなりに豊かな気分の朝となる。ちょっとふくれたお腹を休めながらぼんやりと湖を見ていると、そのさらに向こう側にある別荘から、だれかがひとりで出てくるのが見えた。


「ぼくらが護衛としているとは行っても、お嬢さまがひとりで出てくるのはどうなのかな?」


「静かなところだしね。なにかあったら、すぐにだれかが駆けつけられると思っているんじゃない? 使用人は起きてるだろうし、本当にマズいと思ったら止めるでしょ」


 それもそうか。




「あれ、美麻みまじゃない?」


「え?」


 ユカの言葉に目をこらしてみると、たしかに先ほど別荘から出てきたのはミマお嬢さまのようである。彼女がこちらではどのような子なのか、確認するいい機会ではあるが……勝手に貴族の令嬢に近づいて、そこを見とがめられたりすると面倒なことになりそうな気がするなぁ。志手川してがわやミナミと違って「むこうでの知りあい」という切り口もなさそうだ。というか、たぶんミズキと同じパターンだろう。警戒されるのもうまくない。


「って、ユカ!」


 ユカはすでに、スタスタとミマお嬢さまの方に走り出していた。当然ながら、走り出したユカに追いつくすべなど、ぼくにはない。追いかけて走り出すが、ユカとの距離はどんどん開いていった。




 まだだいぶ距離が残っているというのに、ユカはミマのところにたどりついてしまった。なにやら話しかけているが、予想どおりというか、ミマは怯えてしまっている。詰め寄るユカに後じさるミマ。これはまずいか、と思った矢先、ミマおの背後にうっすらとモヤのようなものが発生してきた。


(あれは!)


 ぼくはすでに痙攣を起こしそうになっている自分の脚に気合いを入れて、走るコースを変えてミマの背後に回るルートを取った。そうしている間に彼女の表情は驚きから恐怖にかわり、背後のモヤはどんどん濃くなっていく。


 ここまで状況が切迫した以上、後はとにかく本能に従って行動するしかない。ミマのうしろから彼女に近づくことに成功したぼくは、もうあとさき考えずに彼女に首トンをかました。ミマは声も出さずにその場に崩れ落ち、モヤだけが残った。だが、ミマが意識を失った以上、そのモヤがいつまで維持されるかわからない。


「ユカ! とにかく行ってみよう!」


「え?」


 ユカはミマに頭を集中させていたせいか、モヤに気づいていないようだ。あまり時間がない。ぼくはユカの手を取って、強引にモヤの中に飛び込んだ。


お読みいただき、ありがとうございました。


急といえばあまりに急な展開ですが、ゆっくり腰を落ち着けるわけにもいきませんからね。とにかく、もとの世界にいちど戻ることが最優先です。

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