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五周め 裏その九

主にカゼでヘロヘロになっていたせいで、ずいぶん間があいてしまいました。お読みいただいていた方、申しわけありませんでした。

 ユカが狩ってきたウサギもどきを華麗にさばいて火にかけた。ほどなく肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。凶暴な獣が多いところであれば決してやってはいけないことだが、このあたりは獣も魔獣もさほど問題のないレベルのようだし、池のほとりは見通しもよく、なにかあればすぐに対応が可能だ。ほかの護衛の人たちも、それぞれに食事を楽しんでいる。


 保存の利く食料は雇い主のスズリ伯爵家から支給されているが、余裕があるときはやはりこうした食材がありがたい。ただ、ぼくは依然として手もとで生き物を処理するのは苦手だから、ユカにおんぶにだっこだ。


「ゴブリン切り刻んだり、ウサギ殺してさばいたり、わたしもう女の子としてやっていけない気がする」


 ユカが燃える火を見ながらため息をついて言った。


「オタッくんも早く血に慣れてくれないかな? ゴブリン殺すのは大丈夫で、ウサギさばくのはダメとか、意味わからないよ」


「申し訳なく思っております」


「気持ちは形にしてあらわしてよね」


 まったくその通りで、なんの言い訳もできない。




「しかし、知りあいっぽい人がいてもおかしくないとは、オタッくんが言っていたから心の準備ができていたつもりだけど、まさか本人に出くわすとはね。摩桜まおうがどうしてこちらにきたのかがわかれば、向こうの世界に戻るきっかけがつかめるかもね」


「今より前に進むことは間違いないけど、彼女も戻り方がわからなくてこっちにいるのかもしれない。なんか時間も止まるっぽいし、あっちで志手川が生活しているのは確かだけど、それは今ここにいる彼女が戻り方を知ってるとは限らないよ。どこで彼女の時間が止まったのか、わかってないわけだし」


「ダメでもともとなんだからさぁ、もうちょっといい方に物事を考えようよ。ガッカリするのは、摩桜と話してからでも遅くないじゃん」


 向こうではクラスメートでも、こちらでは貴族のお嬢さまと一介の冒険者二人である。あまり親しげに話しこんでいるところをみられてもどうか、ということで、街に戻って落ちついたら連絡をもらうことになっている。お互いの状況を確認しよう、ということだ。もとの世界に戻るツテを探しているぼくたちからすれば、まさに渡りに船だった。ただ、うまく話が運びすぎる気がするのも事実なのだ。




 二泊三日のお嬢さまがたの遠出は何ごともなく二日目の夜を迎えた。


 今回、護衛のチームは四つ。夜はふたつずつのチームが交代で警護にあたる。裏と表にひとチームずつ、そして、ふたつのチームが休憩である。ぼくとユカは経験の少ない若者のチームということで、早めの時間帯の表の担当になった。表に比べれば、裏はいくぶん林などにも近く、警護の難度が高いと見なされたのだ。


 ただ、ここでトラブルが起きた。ひとつのチームが待遇への不満から職務を放棄し、町に戻ってしまったのだ。警護は三つのチームで回すことになり、早い時間の表の警護にあたっていたぼくたちは、四時間ほどの休憩を挟んで、夜明け前の時間帯の裏の警護にあたることになってしまった。


「まあ、仕事だししょうがないね。オタッくんはどうする? 夜更かしとか得意そうだし、ずっと起きてる?」


「いや、お金もらってる仕事だし、慎重に行くよ。休憩時間はちゃんと寝る」


「わたし、基本は早起きなんだけど、夜明け前とかはいつも起きる直前で、いちばん眠りが深い時間帯なんだよね。ちょっと寝起き悪い方だから、機嫌悪かったらゴメンね」


 みんなそうだと思う。ぼくも起きる直前がいちばん眠りが深い。それが彼女よりもだいぶ遅い時間だというだけだ。


 ちなみに、ユカの寝起きの悪さはちょっとではなかった。交代のチームの人がテントに声をかけてくれたので彼女を揺り起こしたら、とりあえず一発グーでパンチをもらい、そこから二十分ほどはしかめっ面を崩さず、ひとこともしゃべらなかった。




「こういうふうに予定が急に変わった時って、なにか起きるような予感がしない?」


「うん、なにかいいことがありそう」


 ようやく寝起きの状態から復帰したユカが、打って変わった機嫌の良さでニコニコしながら言った。


「そうだといいけど、、ぼくには悪いほうの『なにか』であるような気がしてならないんだ」


「またオタッくんは後ろ向きに物事を考えるぅ! それで人生楽しい? きっといいことが起こるって!」


 ユカはバンバンとぼくの背中を叩きながら言った。そうだといいんだけど……。


「あそこに見えるのは『いいこと』の予兆だと思う?」


 ぼくはユカに一つの方向を指して見せた。その指が向けられた先には、慎重に気配を消しながら屋敷に近づいてくるふたつの人影があった。


「……ごめん。どう見てもやっかいごと」


「二人だけみたいだし、さっさと片づけようか」


「そだね」




「ちょっといいかな、オタッくん」


 ぼくたちはものかげに隠れて二つの影が接近してくるのをギリギリまで引きつけ、そしていきなり襲いかかって瞬時に無力化し、意識を奪った。なんとも便利な身体能力である。向こうの世界でのぼくであれば、襲いかかる前にコケたりして、逆に無力化されているところだ。


 携行品として支給されているロープで片方をグルグル巻きにしていると、もうひとりを拘束していたユカに声をかけられた。彼女をみると、縛り上げたばかりの人間をじっと見つめていた。


 ユカの足もとに目を移すと、彼女が縛り上げたのは女性だった。しかもなにやらとんでもないことになっている。彼女はどこで覚えたのか、それとも本能のなせるワザか、いわゆるところの亀の甲の模様に似た形の縛り方をしてしまっている。なんとも絶妙な形に甲羅型になっていて、なんとも目のやり場に困るくらいだ。


「ユカ、その縛り方はちょっと……」


「オタッくん、ワケのわからないボケはいいから、とにかく見て」


 ボケたわけではなく心からの忠告だったのだが、しつこく言うことでもないのでそれをいったん脇に置いて女の顔を見ると、そこでぼくは固まった。


与澤ともざわさん……」


「どうする?」


 ぼくは瞬時に頭をめぐらせた。ユカが訊いているのは、このままなにもせずに引き渡すか、とりあえずは通報せずに話を聞くか、ということだろう。与澤ともざわそっくりだからと言って、本人でなければ話を聞いても意味はないし、面倒をふやすだけだ。このまま通報というのも、十分に有効な選択肢ではある。だが、今はどんな手がかりでも欲しいときだ。


「起こして話を聞こう。頼むよ」


「了解」


 ユカは与澤ともざわそっくりさんに乱暴にも水をぶっかけた。おかげで濡れた服が身体に絡みつき、ロープも水を吸って縮んだりして、さらに大変なことになってしまった。だが、とにもかくにも彼女は目を覚ました。開いたばかりの目は、自分の真上から見下ろしているユカの顔をとらえたらしい。


由歌奈ゆかな?」


 ビンゴでした。



お読みいただき、どうもありがとうございました。

着実に更新して行くには、体調管理も重要だと思い知りました。マメに来てくださっている方の気持ちに応えられるよう、しっかり更新していきたいと思います。

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