五周め 裏その八
今回は難産でした。リズムも悪く感じられるかもしれません。
事前にある程度の情報収集をしておこうということになって、食事を済ませたあと、ミズキくんを訪ねてみた。彼も貴族の家に深く関わっている人間だから、彼なりのつながりでなにか情報を持っているかもしれないからね。
「さっそくやってきてしまってごめんなさい。ちょっとお訊きしたいことができてしまって……」
「気にしないでください。なにをお話しできるでしょうか?」
ぼくは、スズリ男爵家の次女とそのご友人の遠出に、護衛として同行することになって次第を、ミチナガさんとの話の内容も含めて少し詳しめに説明した。
「ご友人というのは、ひとりは間違いなくシデカワ伯爵の長女、マオウさまだと思います。スズリ家のミマさまは身体が弱いのですが、どこにいらっしゃるにも、マオウ様が親身にめんどうを見ていらっしゃるようですから」
ふむ、こちらでも珠洲利のそばには志手川がいる、と。二人の関係は、あちらと少し違うようだが、そのあたりをよく見てみることにしよう。
「スズリ男爵ご自身もですが、ご長男やお嬢さまたちも人格者として有名です。そのせいもあって、ご友人が多いと聞いております」
あちらの珠洲利は、わりととんがったイメージがあるが、こちらではそうでもないらしい。サナエさんに聞けばもっと詳しいことがわかるかもしれないが、ミズキくんとの関係も大事だ。このあたりにしておこう。
「参考になりました。ありがとうございます。またなにかあったら助けを求めてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします」
「いつでもどうぞ」
ミズキくんはニッコリとイケメンスマイルを浮かべた。
二日後の朝、スズリ男爵の屋敷に赴くと、ほかの六名の護衛と顔合わせをさせられた。幸か不幸か、その中には見覚えのある顔はない。さほどクセのありそうな雰囲気の人もいない。ある意味で気楽に情報収集も行えそうである。
今回の一行は、ミマお嬢さまとご友人が三人、それぞれの専属の使用人が四名、馭者兼雑用係が二名、そして護衛がぼくら四名だ。護衛八人が小さめの馬車一台、お嬢さまと使用人が大きめの馬車一台の計二台で移動する。このほかに、スズリ家の執事とメイド二人、料理人二人がすでに先乗りしているらしい。お嬢さまのちょっとした遠出といっても、なかなか大仰な陣容になってしまうものだ。
「ミマさんは、あっちの美麻と違っておとなしい子みたいだよ」
途中の休憩の時、ユカがぼくに言った。基本、まだ護衛組はお嬢さまたちにお目通りがかなっていないが、ユカだけは女性なので、なにかと頼ることもあるかもしれないという理由で出発前に顔合わせをさせられているのだ。
「ホントに病弱みたいでね、顔色もあまりよくないし、守ってあげたくなる感じ。この休憩も、たぶん彼女のためにとってるんじゃないかな」
「ずいぶんむこうの珠洲利とイメージ違うね」
「まあね。でも、オタッくんはいじめに巻きこまれちゃったからそうは思えないかもしれないけど、一年の時の美麻は、ちょっと気まぐれなところはあっても、基本いい子だったんだよ?」
「了解。先入観はなるべく持たないようにするよ」
「そうしてあげてよ」
休憩後、二時間ほどで一行は目的地であるスズリ男爵家の別荘に到着した。いかにも軽井沢の森の中にありそうな、きわめて見てくれのよい立派ななお屋敷である。先乗りしていた使用人チームが、ズラリと並んでお出迎えである。
お嬢さまたちとその使用人が別荘の中に消えると、そこでぼくたち護衛チームも馬車を降りることを許された。基本、護衛は影の存在ということで、あまり雇い主の前にチラチラ姿をあらわすものではないらしい。案内されたのも、本邸よりも門に近いところにある、警備小屋のような建物だった。念のためにいえば、小屋といっても立派な作りで、護衛四人はそれぞれ個室が与えられている。ずっとここにいてもいいと思えるくらいだ。
「珠洲利と志手川がいるなら、見多森が登場してもおかしくないよね」
夜も更けてから、どちらからともなく小屋の共用スペースに出てきたぼくとユカは、自分たちで淹れたお茶をすすりながら話した。共用スペースといっても、リビングになっていて、居心地はきわめてよろしい。
「残りの二人の顔をよく確認するヒマはなかったけど、どっちも咲恵ではなかったね」
「水城と咲菜恵さんのカップルも、どっちかというと咲菜恵さん主導なんだよな。珠洲利と志手川は、志手川が手綱を握っている、というぼくの印象が正しければ、こっちの二人も立ち位置が似てる気がする」
「そうだとすれば、似たような位置づけで咲恵も出てくるってわけ?」
「図書委員の浜喜田さんも、似たようなポジションにいると言えるでしょ?」
「そういえばそうか。ただ、どこが似てるかが問題だね。友人なのか、対立している間柄なのか……」
対立、か。かりに接点は薄くても、ユカはぼくよりも彼女らの事情に詳しいだろう。その彼女から「対立」という言葉が出てくるからには、友人同士だった彼女たちに、亀裂が入るような何かがあったのだろうな。
到着の日、お嬢さまたちはずっと別荘の中で過ごしたため、護衛チームは待機していただけだった。ほかの二人と適当に親睦を深めつつ、敷地の中を適当にブラブラして過ごした。本格的に仕事らしい仕事になったのは、二日目からだ。
到着の翌日、一行は別荘から少し離れたところにある泉に向かうことになった。個人的にはなにもない泉などに行ってなにが楽しいのかと思うのだが、貴族のお嬢さま的にはまた話が違うのだろう。花など愛でて喜ぶのかもしれない。そんなことをユカに言ってみたら、かわいそうなものを見るような目で見られた。どうせ女心なんてわからないよ、フン!
泉のほとりでおしゃべりにうち興じるお嬢さまたちを遠目に見つつ、ぼくらはあたりを警戒していた。そのうちに不思議なことに気づく。お嬢さまたちの方に目をやったときに、しばしば志手川、いや、シデカワ伯爵のご令嬢と目が合うのだ。
「ユカ、なんか、よくマオウお嬢さまと目が合うんだけど」
「あ、オタッくんも? わたしもそう感じていたところ」
ユカも目が合ってたのか。べつに「ぼくが」気になっていたわけではないようだ。妙な思い違いをする前でよかった。でも、気にしていたのが「ぼくたち」だとしても、その理由がわからない。そもそも、急にやとわれた護衛を気にしている時点で変だ。
「ユカ、ちょっと探ってきてよ」
「ちょ、オタッくん、なんでわたしに押しつけるかな?」
「だって、ぼくはきっかけがなにもないもの。ユカはミマお嬢さまとは顔合わせしたでしょ? そのへんからなにか理由をでっち上げてさ」
「オタッくんにも、たまには頼りになるところを見せてほしいんだけど?」
「じゃ、じゃあさ、まわりを警戒しに行くふりで、ふたりで反対側からお嬢さんたちに近づいてみない? 『ぼくたち』が気になるなら、そこでなにかきっかけがあるかもしれない」
「まあ、それでいってみようか。ダメモトだしね」
狙いは思いっきりあたった。思いがけなく近い距離にあらわれたぼくたちに、シデカワ伯爵令嬢は意表を突かれ、ついジッとぼくらを凝視してしまったのだ。きっかけはここだ。ここしかない。無理でも押し通る。
「あの、なにか気になることでも?」
「なんであなたたちが一緒にいるのですか?」
口調は貴族のお嬢さまだ。だが、口にした内容は、ぼくとユカにほとんど接点がないと考えているものにしか言えないことだ。それはすなわち、向こう側の人間だということである。
「きみ、同じクラスの志手川摩桜さん?」
お読みいただき、ありがとうございます。
冒頭も書きましたが、力不足を痛感した回でした。




