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五周め 裏その六

本格的な異世界生活のはじまりですが、そんなにのんびりしていていいのか?

「わたしはここで待っておりますので、用意が済みましたらお越しください」


 紹介してもらった宿につくと、ミズキくんは受付の女性となにやら話したあと、ぼくたちに番号を書いた木の板を渡しながらそう言った。


「これは?」


「部屋のカギです。番号は部屋の番号です。扉の取っ手のところに差し込み口がありますので、そこにこの板を入れると、扉が開くようになっています」


 ぼくが木の板をいじりながら訊くと、ミズキくんが即答してくれた。


 なるほど、そば屋や、座敷の居酒屋なんかにある靴収納スペースの木の錠前だ。なかなかセキュリティに配慮の行き届いたところだな。ちょっとビックリだ。




「わたしはこっちだね」


 ユカが手前の部屋を指して言った。木の棒となにやら大きめの包みを持っていて、カギの操作に手間取っていたので、カギをぼくが開けてあげた。


「その包みはなに?」


「着替え。さすがにこのままずっと、ってわけにいかないからね」


 そういえば、さっきお嬢さまとヒソヒソ話したあと、その包みを侍女から受け取っていたな。


「ああ、下着とか……」


 ぼくはみなまで言えずに床にくずおれた。膝の真後ろにみごとなローキックが炸裂したのだ。


「そういうことは、わかっていても言わない!」


 そう言い捨てて、彼女は部屋に入っていった。




 ユカと一緒に受付前に戻り、ミズキくんと合流する前に、ぼくらはカウンターの女性に頭を下げ、身元だけはユミクラさまに保証してもらうことで、支払いを何日か待ってもらえないかと頼んでみた。すると、なんと十日分はすでに支払われているとのこと。


「すごいお嬢さまだねぇ。ミズキくんもわたしたちの見ていないところで支払いを済ますとか、デキすぎ。現実の二人もこんな感じなの?」


「こっちの二人の方が少し天然入ってるけど、だいたいそんな感じだね」


「なんでそんな二人がオタッくんの友達やってるの?」


「そんな二人だからでしょ……って、ほっといてくれないかな?!」




 ミズキくんに支払いの件を二人で丁寧に礼を言うと、彼は笑って首を振った。


「お嬢さまは、これぐらいではお礼にならないとお考えです。わたしに、できるだけあなた方の力になるようにおっしゃいました。わたしも、さきほどお嬢さまの立場に気を使ってくださったことを感謝しています。ですので、困ったことがあればなんでも言ってください」


 こちらで最初に遭遇したのがこのふたりでよかった。というか、そうでなければどうなっていたのか、いまでは想像もつかない。


「あと、これを」


 彼が差し出した小さな袋を受け取ると、大きさのイメージよりズシッときた。


「これは?」


「お嬢さまがご自分でお買い物をされるようになってから貯まった小銭だそうです。金貨などでまとまった額を渡してしまうよりも、気軽に受け取っていただけるのではないか、とおっしゃっていました」


 なんという気配りだろうか。もしかしたら、お嬢さまがお小遣いとしてもらったような金貨より、よっぽど彼女自身に近いお金だ。


「ありがとうございます。できるだけ残してお返しできるようにします」


 ミズキくんは、あっちの世界の水城みずきそっくりのイケメンスマイルを見せた。




 ミズキくんに案内されて訪れたギルドは、宿からもほど近い繁華街の中心近くにあった。気分的にはこれまで何度も利用しているギルドだが、もちろんリアルで来るのは初めてであり、気分の高揚を押さえるのに苦労した。いや、これもリアルなのかどうかは微妙だけどね。


 特にテンプレが発生することもなく、受付の女性もミズキくんの説明を特に異論を挟むことなく受け入れて、登録はあっという間に完了した。ときどき本で読んだような超高性能の身分証などはなかった。あれは、ぼくもおかしいとは常々思っていたのだ。


 だが、それっぽい部分もある。本人確認を確実にするために、受け取った身分証には魔力を込めるようになっていたのだ。自分に魔力があるとか、本人確認のシステムがあるとか、少しビックリした。しかし、訊いてみると、ギルドでしか使い道はないようだ。見かけ倒しにもほどがある。




 係の女性に案内されて、人手を募集している仕事の一覧を見られる場所に移動した。壁に貼られている求人一覧も当然ながらすべて日本語なので、どんな仕事があるかはすぐにわかった。比率が多いのは、探し物とか修理とかの雑用だが、盗賊退治や素材採集、護衛といった、比較的難度の高そうな仕事もある。そして、そういったものに混じって魔物退治があった。


 ゴブリン退治とか、オーク討伐とか、ものすごく耳と目になじむ。いよいよぼくの時代が来たか、と奮い立ちかけたのだが、考えてみれば不思議だ。日本語が通じると言うだけで世界の作り自体がまったく違うここで、あちらの世界の空想の産物である魔物が同じ名前で生息している。ちなみに、貼ってある中ではゴブリン退治が難度が最も低い。探し物より少し報酬が高い、という感じだ。ゴブリン五匹で銀貨三枚、とある。


 ぼくはミズキくんにそっと質問した。


「ゴブリン退治の報酬って、どれくらいの価値があるんですか?」


「贅沢をしなければ一日の食費と、ご紹介した宿での一泊、というところでしょうか」


 ゴブリン退治を毎日やっても、一人でトントン、二人ではじり貧だ。オーク討伐だと報酬は三倍で拡大再生産ができるが、オークがぼくのイメージどおりの魔物だとすれば、


「ぼくはとりあえずゴブリン退治に挑戦してみようと思うんだけど、ユカはどうする?」


「あのさ、ゴブリンとは、とか、オークってなに、とか、いろいろ訊かなきゃいけないことはあるんだけど、それは置いといて、なんでオタッくんはそんなにここの仕事に前のめりなわけ? まさか、帰る方法を探す、とか、知った顔を探す、とか、そっちの方を忘れて腰を落ち着けちゃってるわけじゃないよね?」


 ……ゴメン、忘れてました。


「で、でもさ、そっちをじっくりやるためにも、まず足下を固めなきゃダメだろ?」


「怪しいけど、そういうことにしといてあげるよ。で、受付のお姉さん、このゴブリン退治って、何匹やっても同じ報酬?」


 ユカさん、あなたの方がこちらの人と自然体で話してますよ。


「いえ、これは常設の依頼で、五匹ごとに報酬が払われます」


「だってさ、オタッくん。一緒に行こう」


「けっこうグロいかもしれないよ? ぼくだけで様子を見てきて、と思ったんだけど」


「今さらだよ。どこかでクリアしなきゃいけないハードルなら、一緒に超えよう。それに森から出てくるとき、いろいろ殺しちゃったじゃん。どっちかというと、オタッくんの方が血にビビってたよ?」


 申しわけありません。その通りでした。


「わかった、ありがとう。お姉さん、これは受けるのに手続きは要りますか?」


「特に必要ありません。退治した証明に右耳を持参いただいてますが、それを退治した数の分だけ提出いただければ、それに応じて報酬が払われます」


 この辺の手続きは大丈夫そうだ。死んだゴブリンから右耳を取るという作業が、血にあまり強くないぼくにはいちばん難度が高そうだ。ん? 耳を取る?


「武器がないよ」


「オタッくん……」


「わたしが訓練に使っていた剣でよければお二人に差し上げますよ。このあと、屋敷にお寄りください」


 何から何まで、世話になりっぱなしだ。この恩はどこかで返さねばなるまい。

 

お読みいただき、ありがとうございます。


宿からギルド。本来テンプレの宝庫ですが、スムーズに行かせすぎたでしょうか?

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