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五周め 裏その三

現状確認回です。お嬢様が、頭が固い人でなくて助かってます。

 ぼくとユカは咲菜恵(さなえ)さん似のお嬢様に馬車の中に(いざな)われた。水城(みずき)似の騎士は外で周囲を警戒している。


「ミズキを救っていただいて、本当にありがとうございました」


 咲菜恵さなえさん、いや、彼女にそっくりのお嬢さまが、改めてぼくたちに深々と頭を下げた。


「あ、いや、彼もあなたを護ろうと必死でしたから、その手助けが出来てよかったです」


 率直にいって戸惑っている。水城みずきそっくりの彼もそうだが、咲菜恵さなえさんそっくりのこの人も、赤の他人として接するには、あまりにぼくの数少ない友人たちに似すぎている。他人行儀な話し方をされるのも、少し苦しい。いままで、あのふたりにどれだけ救われてきたのか、今になって気づいてしまった。


「ふたりの護衛はかわいそうなことをしてしまいました。この道は、わたしも何度も通っていて、これまでなんの問題もありませんでしたから、心のゆるみが出たようです。おふたりが通りかかってくださらなかったら、どうなっていたか……」


 あー、正確には通りかかったんじゃなくて、様子を見ていたんですけどね。


「ぜひお礼をさせていただきたいのですが、ここではなにもできません。とりあえず、セイホウの街まで一緒に来ていただけますか? 今夜はうちの屋敷にお泊まりいただいて、何をさせていただけるか、ゆっくりと考えさせていただければ……」


 セイホウ? 学校の名前じゃないか。それが街の名前だと?


 状況は依然として謎だらけだが、街にはぜひ行きたい。テンプレを狙う心が最初からあったとはいえ、この成り行きは渡りに船だ。とりあえず乗らせてもらおう。


「わかりました。じつはぼくたちも、セイホウ、の街に向かっていたところなので、本当に助かります」


 お嬢さまはうなずくと、執事然しつじぜんとした老紳士となにやら話しはじめた。この先のことを相談しているのだろう。




「オタッくん、この女の子もだれかにそっくりだったりするの?」


 おそらくこれを訊きたくてうずうずしていたであろうユカが小声で尋ねてきた。


水城みずきの彼女の弓鞍咲菜恵ゆみくらさなえさん」


「ふわあ、美男美女のカップルだね。水城みずきくんが彼女持ちっていうのはみんな知ってるけど、ここまで出来すぎの組み合わせだと、腹も立たないなぁ」


 実に呑気な感想を述べてくれた。


「それと、街の名前のセイホウって、うちの学校の名前と同じだね」


「ユカも気づいた? ここまでいくと、ぼくらの学校の人たちが勢揃いしてても驚かない気がするよ。でも、すこしおかしい」


「おかしいところだらけのような気がするけど?」


「すぐにわかるおかしいところを脇によけても、まだ引っかかるところがあるんだ。このふたりがここでもこれほど近い関係にあるのに、ぼくのことは知らない感じだよね?」


「学校そのまま、っていうわけじゃないだろうから、そういうこともあるんじゃない?」


「そうかもしれない。でも水城みずき咲菜恵さなえさんがどちらでも近い関係にあることは、偶然にしては出来すぎだよ。でも、それならふたりとぼくが初対面というのは、なんとなくしっくりこない。ぼくと水城みずきのつきあいは、咲菜恵さなえさんの何倍も長いんだ。見覚えくらいはあってもいいと思う」


「それはそうかもしれないけど……」


「ぼくが気にしていることが重要かどうか見極めるだけでも、何かわかるかも。街に行ったら、とりあえず人探しをしてみようよ。ぼくらの知ってる名前がどこでなにをしているか探すんだ。そうすれば、見多森みたもりたちにたどり着けるかもしれない」


「あの……」


「いい考えだね。とりあえず、何かやることが決まっているっていうのは落ちつくし」


「あの、失礼ですが……」


 気がつくと、ぼくたちはお嬢さまをそっちのけでけっこうはなしに熱が入ってしまっていた。いけないいけない。あまり失礼を働いて、この辺で放り出されてしまっても困る。


「あ、すみません。不安から解放されたもので、つい気がゆるんで……」


(オタッくん、意外と口がうまいんだね)


 ユカが囁くような声で突っ込みを入れてきた。やかましい。けっこう緊張してるんだから邪魔しないでくれ。


「いえ、お気になさらず。亡くなった護衛の遺体を積み終わりましたので、そろそろ出発します。狭い馬車ですが、くつろいでください」


 馬車は現代日本感覚ではまったく狭くない。大きめのワンボックスカーよりもずっと広い感じだ。その通りミズキと呼ばれていた生き残りの護衛が乗りこんできても、まだスペースに十分余裕がある。シートも学校のイスより何倍も快適だ。ガチガチの学校のイスで熟睡するぼくは、ほどなく眠りに落ちてしまった。




「オタッくん、オタッくん、起きてよ」


 脇腹に鋭い痛みを覚え、耳元に心地よい響きの声がして目が覚めた。


「ん、もう着いたの?」


「なにリラックスしきったこと言ってるのよ! いろいろ訊かれて困ってるんだから、助けてよ!」


「わかった、わかったよ!」


 ぼくは慌てて顔をお嬢さまの方に向けた。ユカがささやくときに耳にかかる息が、ムズムズするやらゾクゾクするやらで、変な気持ちになりそうだったのだ。


「大変失礼しました! ついうっかり眠ってしまって……」


「それはかまわないのですよ。お連れの方と話していたのですが、彼女もずいぶん混乱されているようでした。あなたがたも厳しい旅の途中だったのですね」


 状況を考えると、最大限に好意的な受け止め方といっていいだろう。ぼくが執事かミズキだったら、たぶん放り出してるな。


「厳しいといいますか……ここがどこかもわからない状態でして」


 さすがにお嬢さまが怪訝そうな顔をした。


「どういうことですか?」


「転移などという術があるのかないのか、ぼくは知らないのですが、そういうものに巻きこまれたとしか思えないのです。気がついたら、見たこともない森の中にふたりで倒れていましたから。ぼくたちは、ここがどこかだけでなく、もといたところからどれだけ離れているのか、それもわからないのです」


「禁術とされる魔法の中に、そのような術があるやにきいていますが……実際に使われたという話は、わたしは聞いたことがありません」


 お、うまい方向に話がそれた。


「禁術……ですか? どのようなモノなのか、耳にされたことはありますか?」


「複雑に魔力を操り、長い呪文を必要とするものだとか。それ以上は、申し訳ありませんが……」


「いえ、とんでもない。それだけでも、ずいぶん助かります」


 魔力という概念がこの世界に存在することはわかった。魔法もだ。転移の話が鼻で笑われなかったのも、こういうバックグラウンドがあったからだろう。


「ところで、お名前をうかがってもよろしいでしょうか? お呼びするにも不便ですので。隠したいとお考えでしたら、通称のようなものでもかまいません」


「これは失礼しました。わたしはヤマセ・キョーヤと申します。こちらは……」


「ムラハシ・ユカナです」


「ヤマセさまとムラハシさまですね。わたしはユミクラ・サナエと申します。よろしくお願いいたします」


 名のられた名前にはもはや驚かなかった。護衛は間違いなくミズキ・ユータだろう。街にはほかにも、ぼくの知っている名前がそこここに出てくるに違いない。その中に、ぼくやユカはいるのだろうか? 


 そのとき馭者ぎょしゃが、馬車が城門に着いたことを告げた。


お読みいただき、ありがとうございます。


いろいろわかっても、やっぱりわからないことだらけですね。

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