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一周め

とてもハーレムになりそうな予感がしないハーレムものです。

 ベッドから飛びおりたぼくは、あたりを見回した。とくに変わったことはない。


 枕元のスマホを見るとメールが着信していた。最近は友人同士のやりとりもコミュニケーションアプリを使うのがほとんどなので、メールはめずらしい。そしてそもそも友人があまりいない。


 ふつうなら見ないで削除なのだが念のために確認してみると、差出人は「あどみ」となっていた。管理者が愛嬌のつもりだろうが、センスがない。開封すると、ただ一行、どこかのサイトのアドレスが記載してあるだけだ。即デリしようとして、いちおう思いとどまった。ひょっとして、なにか用途があるのかもしれないからな。




 朝食を食べて、いつもどおり学校に行った。席について鞄を置くと、夕べのことについてあらためて考えはじめる。なにせ、、あの管理者は自分の言いたいことだけ言って、こちらが知りたいようなことはほとんど教えてくれなかった。


 まず、ハーレムを作って戦え、といわれても、ハーレムを作ればなぜ戦えるのかがさっぱりわからない。それ以上に、どうハーレムを作れというのか?


 だいたい現実にハーレムを作っているヤツなんか、いったいどこにいるというのか? うちのクラスの超リア充野郎だって、つきあってる相手はひとりだ。そいつにあこがれているヤツは多いが、それはハーレムじゃない。そいつだって、ハーレムを作りたいとかは考えていない。なぜ断言するかって? ぼくの数少ない友人だから知っているだけだ。


 それに、ハーレム好きなヤツで、ハーレムを作るような資質を備えているようなヤツがいるなら教えてほしい。現実にハーレムがあり得ないからこそ、本や画面でハーレムネタに惹かれるのだ。




「相変わらず疲れた顔してるな、恭也。夕べも遅かったのか?」


 声をかけてきたのはその超リア充友人、水城裕太みずき ゆうただ。コミュ障とまではいわないが、あまり言葉の多い方ではないぼくが、一線を越えていじめられる側に入っていないのは、こいつと古い友人だという事実に負うところが大きい。


「いや、よく寝られなくてさ。ところでおまえ、ハーレムって作りたいと思ったことある?」


 世の非オタには、ハーレムという言葉を使ったりすると、その意味がわからないと言い張ってオタ迫害のネタにするヤツもいるが、水城はいちおうわかってくれる。だいたい、ハーレムって言葉の意味がわからないはずないよね?


「あまり人前でそれ言うなよ? 困った人だと思われるぞ?」


「だよなぁ。悪い、忘れてくれ」


 水城に手をヒラヒラ振ってみせ、ぼくはまた思索に沈んだ。




 だが、考えたところでハーレムができるわけもない。自慢じゃないが、たったひとりの彼女さえいたためしがないのだ。一週間が無為に過ぎ、ひと月が無為に過ぎ、二ヶ月が無為に過ぎ、そして世界が終わった。





「お試しのつもりで送り出したけど、まさかなにひとつ行動せずに帰ってくるとは思わなかったよ」


 再びあの「間」に戻ってきたぼくに、管理者はちょっと呆れたように言った。


「あ、あれはなに? い、いきなり空が真っ黒になったと思ったら、人がどんどん飲みこまれていって……」


「あれが悪意だよ。この世界にできた小さな空白が、人々の悪意を吸い取りはじめた。そしてどんどん成長した。最後にこの世界自体を吸い取ろうとする。それがきみの見た最後の瞬間だ」


「ムリムリムリ! あんなのとどうやって戦えっていうの!? ハーレムとか、そういう問題じゃないでしょ!」


「でも、きみは最初にここに来る直前、悪意と戦う自分のイメージを見たんじゃないかい? たしかに強大な敵ではあっただろうが、きみがつい最近見たものに比べれば、なんとかなりそうだとは思わなかったかい?」


 ああ、あの十週打ち切り的イメージ。


「あれはそういうことだったんですか」


「きみに自分の使命を伝えようと思って作ってみたんだ。自信作なんだが」


「とりあえず、クリエイターになるのはあきらめたほうがいいと思います」


「きみもなかなか失礼なことをズバッと言うね」


 管理者が少しムッとした感じが,空気として伝わってきた


「まあいい。要するに、だれも悪意に抗わないと、きみが見たような終わりが待っている。もちろん、この先もリクルートはしていくつもりだが、いまのところは戦士はきみだけだ。きみが戦い続けるかぎり、悪意の成長をある程度止められる可能性が出てくる」


「そこにハーレムがどう関わってくると?」


「きみだけの力は、正直なところたいした力じゃない。言っただろう? 少女のピュアな心ときみの熱い思いが大事なんだよ」


「意味わかんないよ! だいたい、女の子なら誰でもいいわけじゃないんでしょ? 少なくとも、誰をハーレムに入れれば世界が救えるのか教えてもらわないと、どうしようもないじゃん!?」


「誰でもいいんだよ」


「はい?」


「少女たちはみな、それぞれに悪意と戦うピュアな心を持っている。誰でも戦う力を持っているんだ。誰と心を合わせて戦うのか、それはきみ次第だ。ただ、当然のことだが彼女たちの持つ力は、強さも種類もそれぞれだ。きみはそれを見極めなければならない」


 つまりあれか、ヒロイン候補はすべての女の子で、その中から自分の好みで選べばいい、と? そんな夢のような話があっていいのか? 


 いや待て。自分の好みで選べばいいのはわかるが、選んだところで相手ががこちらを選んでくれなければ話はなにも進まないのだ。そして、その話を進めるスキルを、ぼくは一切持っていない。 


「きれいにまとめてますが、『ぼくは知らないから勝手にやって』ってことですよね?」


「否定はしないな。きみの心が誰を求めるか、それはきみにしかわからないよ」


「非リアになにカッコいいこと言ってんですか!? きれいにまとめるよりもヒントください、ヒント!」


「ヒントと言われてもね。女の子をロックオンして追い回して無理矢理話しかけて、いやがるのをムリにトラウマ暴いて、腕力で強引につじつま合わせて解決したつもりになって、なぜか撃墜マークがつく、というのは、きみたちのあいだでは定番ではないのかい? とりあえずそれをやってみればいいのでは?」


 この管理者とやら、どうしてここまで日本のゲーム事情に詳しいんだ?  


「いや、そういうある種のゲームのありがち攻略パターンをきいてるんじゃないんです。それに現実でそれやるやつがいたら、ヘタしたら通報です。もっと現実的なTIPSが欲しいんですよ」


「TIPSとか……注文の多い男だね、きみは」


「こんだけ無茶な状況に放り込まれたら、注文だって増えるでしょうがぁ!」


 少し息が切れてきた。


「だいたいきみも勝手だよね。いつもゲームディスクを入れたらマニュアルも読まずにいきなりはじめるヤツが、これだけ説明してるのにまだヒントほしいとか。初回から攻略本見て進めてもつまらないだろ?」


 ギクッ! なんでそれを知っている!?


「きみは初回で日常ルートから一歩も動かずに死んじゃったんだよ。死ぬのはつらいしイヤなのはわかるんだけどさ、必ずここに戻ってこれるんだから、少しくらい動いてみてよ。なにもせずに死ぬだけじゃ、それこそつらいだけじゃないか」


「一瞬説得されかけたけど、あんたがぼくを引っ張り出したのがそもそものはじまりじゃないですか!」


 どこからともなく「チッ」という声が聞こえたぞ。あぶない。一瞬まるめ込まれかけてしまった。


「でも、きみは自主的にハーレムイメージを追いかけてきたんだぜ? そのへんはおたがいに突っつかない方がよくない?」


 うむ、悔しいがそこらあたりは認めるしかない。ぼく自身、自分がそこまでハーレムに夢を持ってるとは思わなかったしな。


「正直さ、ぼくも正解は知らないんだよ。きみがどういう力を持っているかすら知らないんだ。その先を教えられるはずもない。でもね、きみが間違ったら、なぜ間違ったかぐらいはたぶん一緒に考えられる。そうすれば次につながるだろ? だから、動いてほしいんだよ」


 しょうがない。もうしばらくつきあってやろう。ぼくは手を突き出して、親指を下に向けた。次の瞬間、ぼくの意識はまた沈み込んでいった。


お読みいただき、ありがとうございます。


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