戦略会議
反省会兼今後の展望の検討会です。
「死んだ」
「死んだねえ」
「あのなぁ、他人事だと思って……まあ、他人事なんだろうけどさ」
「油断したね。バッドエンドにばかり気がいってデッドエンドの存在を忘れていた、という感じだね」
「たまらなく耳になじんでしまうその表現はやめろ。確かに、世界の終わりばかり気にしていたからなぁ。即座に殺されるようなヤバいものに、自分が首を突っ込んでいると思ってなかったのは確かだ。誰がやったかは……わからないんだよな?」
管理者は少し考えこんで、質問に答えた。
「うーん、じつをいうと、わからないわけじゃないんだ。でも、きみが見えていないところで何が起きているかを、きみに伝えるのはルール違反なんだよ。きみは振り出しに戻ることで、どんどん自分が見えるものを増やしていけるだろ? 見えなかったはずのものを教えていいことになれば、たとえば、地球の裏側で何が起きているかを教えてもいいことになってしまうじゃないか。そのとき、きみが知り得ないものって何だい?」
そりゃそうか。そんなヘルプがいたら、ゲームバランスがグチャグチャだもんな。それが反則だというのは、理にかなっている。
「納得した」
「今回は、終末までの時間がどれぐらい短くなったかを確認できなかったね。そろそろ、何か別のアクションを起こしたほうがいいんじゃないかな?」
「それはぼくも考えてた。でも、正直いってキツいよ。力になってくれそうな子は何人か心当たりができたけど、年齢イコール彼女いない歴で対人スキル皆無のぼくが、どうやって近づいて仲良くなったものか……」
「前からなんとなく感じてたんだけどさ、きみハーレムとハーレムエンドをゴッチャにしていないかい?」
「どういうこと?」
「きみは女の子の力を借りる必要がある。ともに戦ってくれる意思のある女の子を集めなきゃならない。だけどさ、それは、彼女たちがみんなきみを好きになってなきゃいけない、ってわけじゃないんだぜ?」
「……えーと」
「そりゃ好きになってるに越したことはないんだろうけどさ、その子がきみを蛇蝎のごとく忌み嫌っているのでなければ、同じ目的を持って心をあわせて戦うことはできるんじゃない? きみが戦って、ともに戦ってくれる女の子が何人かいれば、惚れてようがいまいが、人はそれをハーレムと呼ぶと思うよ?」
ごめんなさい、ゴッチャにしてました。でも「蛇蝎のごとく」なんてえげつない表現を使わなくてもいいと思う。「そんなことはあり得ない」と言い切れないから、心が痛いんだよ。
「ということは、自分を好きになってくれそうな子を探すんじゃなくて、ぼくがやろうとしていることに興味を持ちそうな子を探せってことか……」
生徒会長の反応なんかは、それを示すヒントだったのかもしれない。そうなると、現時点では生徒会長、邑端、与澤あたりが第一候補になる。
「今回はきみも頑張ったよね。接点のあった女の子の印象点がのきなみ上昇してる。カラオケにつきあってくれた子たちだけじゃなくて、生徒会長や図書委員の子も上がってるね。あと男の子たちのも上がって……あれ、珠洲利って、きみが二周めに引っかかっちゃった子じゃなかったっけ?」
「そうだけど?」
「その子の印象点も上がってる。心当たりは?」
「心当たりもなにも、今回は珠洲利とはまったく接点がなかったぞ? 好感度が動くはずないと思うんだが。ひょっとして、志手川の好感度に連動しているとか?」
「なんとも言えないね。いまさら無意味かもしれないが、ぼくのほうでも少しよく見てみることにするよ」
「ひとつ訊きたいんだけどさ、ときどきスマホが動作するあれ、分岐が近いことを教えてくれてる、と思っていいの?」
「近いけど違う。あれはマーカーでね、きみのいうとおり分岐が近づくと作動するんだけど、設定しておくと一度だけそこに戻ることが可能になる」
「セーブポイントだったのかよ!?」
「いや、マーカーだから」
「どっちでもいいよ! そういう重要なことは早く教えてくれよ! どうやって戻るんだよ?」
「まだ一度も試してないの? リンクをクリックするとロードボタンが浮き上がるようになってるはずだけど。リンクが出てきたら、とりあえずクリックするものじゃないの?」
こいつ、IT知識がありそうに振る舞ってるけど情弱だ。こういうヤツが架空請求詐欺にやられたり、データを全部抜かれたりするんだ。
「それって、間違えたと思ったら戻れるの?」
「さすがにそんなに便利じゃない。きみが死に戻ったときに、最初から始めるか、途中から始めるかを選べるってだけ。しかも使えるのは一度で、消えてしまうんだ」
それは使いどきを考えないとな。あ、でもロードしてまたすぐセーブすればいいんだ。
「セーブは一ヶ所だけ?」
分岐ごとにセーブしてローラー作戦をやった、ほろ苦い記憶がよみがえる。
「残念ながらひとつだけなんだ。セーブポイントは何回かあるけど、先にセーブした情報は上書きされて消えることになるよ。それから、ロードした場合に、終末までの時間が変わらないかどうかはわからないね。これから調べてみるけど」
ロードが便利な機能である以上、ペナルティがあっても不思議じゃない。それと、完全にセーブ、ロードが会話の中で普通に使われはじめているのが怖い。
「むずかしいな。でも、序盤はもうセーブロードに頼らないほうがいいね。とりあえずなんとか話を先に進めないと、ペナルティの可能性がある以上、知らないうちに詰んじゃいそうだし」
「それがいいだろうね。で、次はどう攻めるつもり? いよいよ個別ルートに入るんだろ? 今回はある程度具体的なアイデアを持ってはじめた方がいいと思うよ」
「ハーレムエンドを目指さなくていいとわかって、すこし気はラクになったんだけどね。それでも、相手に隠しごとをしたまま協力してもらうっていうのは、やっぱり気が引けるよ。いざとなったら足踏みしちゃいそうだ。せめて本当に気になっている相手がいれば、思い切っていけるかもしれないけど」
「えらく腰が引けてるね。画面上だとけっこうガンガンいくほうじゃなかった?」
「う、うるさいな! ゲームだとわかってれば話は別だよ! それに、マジメな話、ここで協力してくれる子が出来たとして、それがどうしてハーレムにつながるのか、全然わからないのが怖い。簡単に動いちゃっていいのか、誰を選んでも問題はないのか、やっぱり考えちゃうよ」
「なにか言ってあげられればいいんだけどね。そういう感情がわからなくなるくらいに、長く存在しすぎちゃってるから」
それはわかる気がする。四周めにして、人との話が機械の操作みたいに感じてきてしまっているところがある。ここを押せばこういう反応が来る、という考えがつい入ってきてしまうのだ。何十年、何百年と人を見つづけていれば、いちいち感情移入していられない。まさに「人がゴミのよう」なのだろう。
「悩み続けてもキリがないよ? そろそろ行くかい? もう一度ぐらいならやり直してもギリギリいけると思うよ?」
「いや、こんどは話を進めるよ。悩むのはそのあとにする。いじめを追っているだけで闇とやらに近づけるだろうと思ってたけど、そんなに単純な話じゃなさそうだしね」
「同感だね。こんなことを言うのは恥ずかしいんだけど、管理者すら知らないなにかが隠れているような気もするんだ」
「頼りないなおい!」
「申し訳ない。頑張ってくれとしか言えないのが、もっと申し訳ないよ」
ちょっと殊勝になった管理者が、なぜかぼくにすこし近づいた気がした。
「じゃ、行ってくる」
「了解」
そしてぼくの意識は、何度目かの深い底に落ちていった。
お読みいただき、ありがとうございます。
いよいよ本格攻略開始か?!




