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四周め その六

引きこもり寸前の恭也には、辛い毎日です。

 帰宅後夕食を済ませたぼくはPCを立ち上げると、巨大掲示板のゲーム板にひとつのスレを立ち上げた。タイトルは「おまえらリアルが恋愛シミュレーションゲームなら誰を最初に攻略するよ?」。


 本文には攻略対象として、「いじめに立ち向かうために協力を求めて来ているお嬢様生徒会長、最近カレシと倦怠期で妙に好意的に接してくる陸上部長身スレンダー美女、生徒会長にいじめから救ってもらった無口な図書委員、情報通のクール系美女」をあげたあと、少し考えて「いじめられている女生徒が属するグループのドンであり、いじめる側の中心でもある勝ち気系のふつうにかわいい子」をつけ加えた。舞台は「最近いじめが増えている私立進学校」とした。




 ブラウザを閉じてベッドに横になり、天井を見ながらボーッと頭をめぐらしてみる。


 現在、ぼくの少ないメンタルポイントはカラオケ問題と生徒会長関連で空っぽに近い状態になってしまっているが、自分のやるべきことがマイクを持って歌うことでも、いじめ問題に立ち向かうことでもない点を忘れてはいけない。ぼくの使命は闇と戦うためにハーレムを作ることだ。


 いや違った、ハーレムを作って闇と戦うことだ。手段と目的を逆にしてはならない。


 この周回では、なるべく長く、できれば最後まで自分をいじめの外側においたままで世界の終わりを迎えることに決めている。いままで考えるのを忘れていた、なぜ聖峰学院という狭い社会と、世界の終わりという超雄大なテーマが結びつくのか、その辺も見極めていかなければならない。この周回をクリアすればそれで終わりではないのだろうからね。


 メンタルポイントが枯渇しているせいだろうか、すぐに眠気が襲ってきた。




 翌朝は意外とさわやかに目覚めた。自分のスレをチェックしてみると、大半は「妄想乙」」「自分の夢の世界に帰れ」「きみの脳内の人はきみにしか攻略できない」といった、ぼくに対する叩きだ。だが、いちおう回答らしいものもけっこうある。よし、集計してみよう。


○となりのお節介幼なじみ31パーセント

○となりの席のツンデレ21パーセント

○校内のいじめをおさえきれない女教師17パーセント 

○となりのクラスのボクッ子12パーセント

○生徒会長5パーセント

○陸上部4パーセント

○図書委員4パーセント

○情報屋4パーセント

○ボス2パーセント


 ぼくはお節介幼なじみキャラがまったく受けいれられないクチなのだが,その支持率の高さに驚愕した。ブームが去ったかに見えるツンデレもまだまだ人気がある。教師狙いが必ず一定の支持を得るのはわかるとして、ボクッ子はもう少し高くてもいいんじゃないだろうか。


 じゃなくて! 八割が存在しない選択肢じゃないかよ! みんな、いったい何が見えてんだよ!? そして残りはほとんど一桁数字で横一線とか、全然使えねえ!  あまり期待していなかったとはいえ、想像以上の惨状に愕然とする。




 落胆したぼくは、さっさとPCの電源を落として朝食のパンをかじりながら家を出た。別に誰かとぶつかることを期待しているわけではない。


 まだ人影もまばらな校門に続く道をプラプラ歩いていて、ふと頭にひとつの考えが浮かんできた。さきほど存在しない選択肢として片づけた「校内のいじめをおさえきれない女教師」だが、贄田山しだやまに近づいている識原果織しきはらかおりとか、これにあたらないだろうか?


 念のために、他の荒らし回答もチェックしてみる。「ボクッ子」は、となりのクラスではないがひとりいたはずだ。名前は知らん。「ツンデレ」はどうだろう? 隣の席の薬埜くすのエリカが近いが、あれは少なくともボクとの関係では「ツンツン」だ。「お節介幼なじみ」は……水城みずきとか言い出すヤツがいたらぶっ殺す! そんな属性はいっさいない。


 というわけで、未出の攻略対象を示唆しているのでは、という発想はどうやら穿うがち過ぎであったようだ。というか、そんなわけあるはずがない。識原しきはらはいちおうウォッチしていく必要があるのだろうけど、そのほかは忘れることにする。ああ、時間を無駄に使った。




 うわさをすれば影、というやつだろうか? ぼくの横を通って学校の駐車場に入っていった軽のワンボックスから降りてきたのは、識原しきはらだった。あまり意識したことはなかったが、こうやってあらためて観察すると、眼鏡が似合う知的な美人と言えると思う。そしてわりと背が高く、メリハリのきいたボディにスーツがよく似合っている。もっと男生徒に人気が出ても不思議ではないのに、今ひとつそういう声を聞かないのは、言動からにじみ出る生徒への無関心のせいかもしれない。


 識原しきはらが校舎にまっすぐ向かうのを確認して、ぼくはいったん校門から出た。そして学校の外周をブラブラ歩き始める。特に目的はないが、ひょっとして外から見える新しいものがあるかも、という思いつきである。


 二十分後、ぼくは激しく後悔した。野球場やらサッカー場などを含むウチの学校の敷地はかなり広い。目算で三分の一ほどしか来ていないが、あと三十分ほどで始業時間が来てしまう。おまけに、意外と起伏の多い道を歩いたぼくの身体はヘロヘロ状態だった。運動不足をなめてはいけない。思いつきで安易に行動するからこうなるのだ。


 ちょうど目に入った通用口の扉をいじってみると運良く開いていたので、校内に入った。あとはショートカットをするつもりである。


 校内に入ってもまだ道のりは遠い。このルートだとサッカー場を回り込んで校舎に至るはずだが、サッカー場に到達する前に、木がうっそうと茂った小高い丘を越えていかなければならない。ゼイゼイいいながらなんとか登りきると、くだっていくその先に人影が見えた。


なんとなく姿を見せないほうがいい気がして、こっそりとうかがってみると、サッカー場から茂みに少し入ったあたりに三人ほどの姿があった。新たないじめシーンの目撃か、と思ったが、よく見るといずれも生徒ではなく教師だった。見たところ、なにごとか話し合いの最中らしい。


教師なら隠れることもないか、と動きかけてぼくはあわてて身体を戻した。いまは始業二十分前、たしか職員会議が始まる時間だ。部の顧問も出るから、サッカー部もすでに朝練を終えて姿を消している。そんな時間に、この三人はなんだ? こんな誰もいないような場所で、何をヒソヒソと小声で話す必要がある?


五分ほどで、三人の教師は校舎の方に去っていった。ぼくも時間がかなりヤバイので、少したってからあとを追ったが、その、これは怪しい、と主張しているかのようなシーンは頭から離れなかった。



教室に飛び込んだのは始業の一、二分前。ギリギリだった。


「どうしたんだ? 休みかと思ったよ」


席につくと、水城みずきがSMSで聞いてきたので、「あとで話す」とだけ返信した。いつもほどほどの時間に登校するぼくが、こんなギリギリの滑り込みをすることは滅多にないので、心配させてしまったようだ。なんだかんだで、こんなぼくを気にかけてくれるのはありがたいことだ。ついこないだまでは、それがウザくもあったのだが、自分がいかにボッチだったかを改めて思い知っているいまは、少し感謝の気持ちが湧いてくる。




「職員会議って、先生たちは全員参加だよな?」


休み時間になってぼくのところにやって来た水城みずきいてみた。


「当然そうだと思うけど、なんでまた?」


朝、通用口から入ったあたりからのことをざっと説明した。水城みずきは、少し考え込んでから口を開いた。


「ちょっと前から、裏の森は立ち入り禁止になってるじゃん? 警備を置くようなことも言ってたし、それじゃないの?」


そんな感じじゃなかったよな。警備なら、始業まであそこにいるのがふつうだろ?


「こないだ、朝のホームルームでいってたじゃん? 聞いてなかったのかよ?」


はい、完全に初耳でした。申し訳ありません。



お読みいただき、ありがとうございます。


いじめとカラオケだけで話が終わるはずはありません。

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