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四周め その五

前半カラオケアレンジ苦闘編、後半いじめ問題に斬り込む編です。温度差異常です。

「ふーん」


 ぼくに声をかけた与澤ともざわはすばやくぼくの視線を追って、その先にいる二山ふたやま見多森みたもりをロックオンした。視線を外すスキなど一瞬もなかった。こういう抜け目なさが事情通の彼女を作り上げるのだろう。


山瀬やませくんがこういうネタに興味あるとは思わなかったよ」


 静かにその場から離れながら与澤ともざわがささやくように言った。


「あ、いや、興味とかじゃないけど、不思議な雰囲気だなって。あ、ちょっと待って」


「情報集めの鉄則その一。見られていることに気づかせないこと」


 な、なるほど。でも、それは間違いなくそこになにかあるってことだよね?


「あの二人は見る対象、ってこと?」


「鉄則その二。情報は見返りとともに、信用にたる相手にのみ提供する」


 情報を提供してもメリットも何もない、たいして親しいわけでもないぼくに話す気はないということだ。だが、あまりにあざといタイミングだとはいえ、その情報は気になるのだ。彼女とのパスをつないでおくネタは、今はひとつしかない。


「明日カラオケに行かない?」


「は?」


 さすがに意表を突かれたか、与澤ともざわは立ち止まった。普通に考えれば、タイミングとしても相手としても、出てくるはずのない誘いだからなぁ。


「何それ? ひょっとして山瀬やませくん、わたしに気があるとか?」


「あ、ちがうちがう。明日、六人カラオケなんだけど、バランスとしてもうひとり女子ほしいって声があって」


「ビックリしたぁ。山瀬やませくんとサシかと思ったよ。それはもうちょっと段階踏んでほしいかなだけど、そういうことなら考えてもいいよ。ほかは誰?」


水城みずき橘叢きつむら陵嶋おかじまと、志手川しでがわさんと邑端むらはしさん。邑端むらはしさんは要コンファーム」


 与澤ともざわは目を丸くした。


「そのなにひとつ読み取れないメンツはなんなの? そして山瀬やませくんがメンツ集めしてるのがいちばんイミフ」


「自分自身がいちばんそのことを痛感しております」


「よし、きみの苦労に免じて美海みなみさんがつきあってあげようじゃないの。詳しいこと決まったら教えて。ほい、アド交換」


 与澤ともざわはぼくとナンバーその他を交換すると、軽い足取りで立ち去っていった。またひとつアドレス帳の登録が増えてしまった。


 邑端むらはしに確認をとればミッションコンプリート。ラスボス幼なじみキャラの攻略を完了したくらいの達成感だ。注意しなければいけないのは、この達成感ですべてのモチベーションを失ってしまうことだな。




 放課後、グラウンドで邑端むらはしをつかまえると、了解はあっさり取れた。そして、彼女もまたぼくのやってのけた偉業に驚愕していた。


 その場で全員に必要な連絡を入れると、返信がこれまた賞賛の嵐だ。半分以上は同情か興味本位で参加してくれた気もするが、気にすまい。これでひとまずカラオケネタを頭から離して、生徒会長に集中できる。




 浜喜田はまきたと合流して生徒会長の家に向かった。生徒会長は早めに帰宅してぼくたちを迎え、自分の部屋に迎え入れてまずお茶をいれてくれた。このあたりきっちりした人だ。 


山瀬やませさん、はじめに申しあげておきます。わたしは山瀬やませさんがどのようなことを話そうと、それを途中でさえぎることはいたしません。ですから、ご存じのことを、まずすべて教えていただきたいのです。そのあと、わたしが気になっていることをお話しします。浜喜田はまきたさんもお気づきのことがあれば、いつでも口を挟んでいただいてかまいません。それでよろしいですか?」


 生徒会長の言葉はぼくの気持ちをラクにした。とにかく、話はすべて聞いてもらえるということだ。浜喜田はまきたもこわばっていた表情が少しゆるむ。


 ぼくは、見多森みたもりを中心として、妙ないじめの構造が出来ているように見えることを説明した。


見多森みたもりさんへのいじめは相当激しくなっていますが、そこまで彼女が追い詰められる原因がいまひとつ曖昧です。珠洲利すずりさんの好きな人から告白されたのが原因、と言われていますが、それがここまでエスカレートするものなのか、ちょっとわからないのです。珠洲利すずりさんについても、彼女がリーダーと思われているグループが、実は志手川しでがわさんが実質的なリーダーだという話も聞きました」


 生徒会長は自分の言葉どおり、無言でぼくに先をうながした。


未貴みたか加楠宮かなみやといった、学年の中心に近く、しかも見多森みたもりさんを女性として意識している生徒が彼女を救わないどころか、場合によってはいじめ側に属してしまっていることも納得がいきません。彼らがひとこと発すれば状況は変わるだろうし、そうする理由もあるのに、彼らはむしろ反対の方向の行動をとっているんです」


 そして、少し迷った末にぼくは、今日見たシーンをつけ加えた。


「今日、ぼくは見多森みたもりさんが二山ふたやま先生と校内で話しているところを見ました。楽しそうに笑っていました。とてもギリギリまで精神的に追い詰められている人が見せる笑顔ではないように思えました」


 生徒会長の視線が少し険しくなる。だが口は開かない。


「バカバカしいと思われるかもしれませんが、人の悪意をどこかに集める意思が働いているのではないかと考えています。ぼくの知っていることはこれだけです」




 ぼくの話を聞き終わった生徒会長は、アゴに手を当ててしばらく考えこんでいた。最初に話したことはともかく、二山ふたやまの話はぼくの想像だし、意思云々については、普通に考えればおとぎ話だ。相手にされなくても、それはそれでしょうがない。


浜喜田はまきたさん、図書室からご覧になっていて、いま山瀬やませさんの言われたようなことについて、気づいたことはありませんか?」


 浜喜田はまきたはピクッと身体を震わせたあと、顔を上げた。


未貴みたかくんや加楠宮かなみやくんについては、山瀬やませくんと同じような印象を持っていました。そして、二年生の中に、見多森みたもりさんのほかに数名、いじめられる理由がよくわからないのに、最近急にいじめがエスカレートしてきてしまっている生徒がいます」


 一気に話した浜喜田はまきたは大きくため息をつき、生徒会長は小さく頷いた。


山瀬やませさん、浜喜田はまきたさん、ありがとうございます。約束ですので、わたしが気になっていることをお話ししましょう。まず、いじめについては、一年生や三年生にも同じような問題が確認されています。特に、三年生は進路など、それぞれに考えるべきことが増えますので、普通いじめは急速に減ります。それが今年は減るどころか昨年に比べて増えています。昨年までいじめる側にいた生徒が、今年になっていじめられる側となってしまった例もあります」


 生徒会長はそこでいちど話を切ってぼくと浜喜田はまきたを見た。


「いじめは、先生方に情報が共有されないことで問題がエスカレートしてしまうことがあります。ですが、今のうちの学校では、被害を受けている生徒の何人かは先生方が親身になって相談に乗っておられます」


 二山ふたやまの胸くそ悪い顔が思い浮かんだ。


「わたくしはつい先ほどまで、それが少しでも問題をおさめる助けになるものだと信じておりました。ですが、さきほど山瀬やませさんの話を伺って、本当にそうだったのだろうか、と思いはじめています。こういうのはゲスの勘ぐりと言われるのかもしれませんが……少なくとも、女生徒の相談に乗っているのは男性教師で、男生徒の場合は女性教師です」


「二年の贄田山しだやまくんの場合は……?」


 もうひとり知っている名前を出してみた。


「たぶん識原しきはら先生」


 浜喜田はまきたがボソッと口にした。


 識原果織しきはらかおり。三十代前半の英語の教師だ。一年の時に授業は受けている。特段印象には残っていないが、生徒思いの教師、という感じを受けた記憶は全くない。




 少しの間沈黙が流れ、生徒会長がそれを破った。


山瀬やませさんが説明してくださったことは、わたしが漠然と感じていたことを裏書きしてくれました。最後におっしゃったことだけを否定するのは理がとおりません。わたしは、なにかの意思が働いていることを前提に、明日からまた調べてみようと思います。無理にとは申しませんが、ご協力いただければありがたいと思います」


 生徒会長はぼくと浜喜田はまきたに頭を下げた。浜喜田はまきたは小さく頷いた。


 ぼくも、答えはひとつしか持っていない。


「出来ることはさせてもらいます。でも会長、気をつけてください」


 会長は静かに頷いた。


お読みいただき、ありがとうございます。


ハーレム風味はどこに行った!? ハーレムの話だったのに……。

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