四周め その四
ハーレム風味を自由自在に加えられる人って、ホントにすごいと思います。
実際のところは、ゴールインしている暇はない。邑端と水城には明日について確約をもらっているわけではないのだ。邑端は火、木おオッケーというガイドラインをもらっているが、水城は手つかずだ。
ぼくのスマホにもWIREはインストールしてあるが,登録してあるグループは一つしかない。水城とその彼女の弓鞍咲菜恵とぼく、以上だ。咲菜恵さんが、ぼくのぼっちを見かねてわざわざ作ってくれたグループである。たまに、二人の会話をわざわざグループでやってみせることもあるが、ぼくに割りこませることができるようなネタを選んでくれている。めったにやらないけどね。アカウント名KYだし。
滅多に起動させないそのアプリを起動し、用件のみ書き込む。
KY「明日放課後のカラオケに水城所望。メンツは橘叢、陵嶋、志手川、邑端、未定女子1」
要するに、水城へのメッセージというよりは、咲菜恵さんへの根回しメッセージなのだ。
YOU「明日、咲菜恵と買い物予定」
やべ! 先約ありか。なんとかならないかな……。
SAN「祐くん行っといで。恭也くんが誰かとカラオケなんて世界の終わり並みの事件」
コメント内容は遠慮ないが、咲菜恵さんの気配りはあいかわらずすごい。足を向けて寝られない。
KY「咲菜恵さん多謝」
SAN 「歌ってる恭也くんの写真所望。ツシマヤマネコ並みに貴重」
容赦ねえな。確かに誰にもみせたことはないが。
YOU「了解。詳細希望」
KY「後刻。オーバー」
アプリを閉じたところで、教室に水城が入ってきた。WIREの流れでそのまま話し始める。
「なんでそんなことになったんだよ?」
「訊かないでくれると嬉しい。黙ってつきあってくれ」
「時間と場所、決まったらよろしく」
水城はそう言って自分の席の方に去っていった。
「お待ちしていました」
昼休み、五分で昼食をすませて生徒会室に行ったぼくを、生徒会長の閑傍さんは紅茶まで用意して出迎えてくれた。この人は昼食をとったのだろうか? いや、そもそも授業に出てるのか? いまだされた紅茶、器の準備からできあがりまでに十五分はかかるぞ?
「お話しする前に、ぼくからもお願いがあります。会長がご存じのことを、ぼくにも教えてほしいのです」
「それは……」
ぼくはストレートに会長にぶつかることに決めていた。
「どうしても差しさわりのあることもあるでしょうから、すべてとは言いません。でも、生徒会長の力だけでは間にあわないんです」
「間に……あわない?」
「意味、わかりませんよね? 当然です。でも、会長の知っていること、ぼくが知っていること、浜喜田さんが見聞きしたことを突きあわせてみれば、たぶんそれがわかってもらえると思います。そしてぼくも、間に合わせるためにどうしたらいいのか、見当がつかない。会長の力が必要なんですよ」
「山瀬さんは、いったいなにを知っているというんですか? いや、正直なにをおっしゃっているのかもわからないのですが?」
ちょっと呆けたように会長がつぶやいた。当然といえば当然の反応だ。
「どうしても、いまは言えないんです。なんの準備もなしにそれを説明すれば、たぶん会長は笑ってすませるでしょう。病院に連れていかれるかもしれません。それほど荒唐無稽な話です」
少しの間、沈黙が場を支配した。
「ふう……、しかたありません。わたしは山瀬さんに話を聞くべきだ、と感じたわたしのカンを信じています。そのあなたが言うことですから、乗ってみるしかなさそうですね」
この人はどこかおかしい。そんなことをぼくが言ってはいけないし、この場合はそれがありがたい。それでも、この話の流れでこの結論に至れる人は、ヘンな人だろう。もちろん口にはしないが。
昼休みが残り十分ほどになってしまっていることもあって、会長と浜喜田の仕事が終わるのを待って合流し、会長のお宅におじゃますることになった。ナンバーとアドを会長と交換して、ぼくは退出した。この二日で、スマホのアドレス帳のエントリーが二倍くらいになってるね。
さて、残るは……邑端さんの確保と女子もうひとりの調達だ。いや、ふたつのミッションの難易度が違いすぎる。おとなしく志手川の好意に甘えちゃった方がいいのかな。生徒会長? いやいや、さすがにみんなから「空気を読め」と言われるだろう。
そんなことを考えながら教室に戻る廊下を歩いていて、途中ふと右手にあたる階段の踊り場の方を何気なく見ると、見多森とうちのクラスの担任の二山だった。
見多森はともかく、なれなれしい雰囲気でネトッとした笑顔を浮かべながら話す二山は見ていても不快になるだけなので、さっさと通り過ぎようとしたが、見多森が笑っていることに強烈な違和感を感じて立ち止まった。
すでに彼女は相当追い込まれている状態のはずだ。二周めで話したときも、三周めで話したときも、精神的にはかなりギリギリのところだった。それが、彼女が純粋にいじめを受ける側だと思ったひとつの根拠でもあるのだ。
一方、二山は笑いをとるためなら、ひとりふたり生徒を踏みにじってもなんとも思わないようなヤツだ。たとえこいつにあわせて笑ってやっていたとしても、学生だってその品性の程度は感じる。いじめられている生徒から笑顔を引き出せるような人間では、絶対にない。
なら、すぐそこで楽しそうに笑っている見多森はなんだ? ぼくにはふたつしか答えが思い浮かばない。実は見多森はそんなに追い込まれていないか、それとも二山と見多森が特別な関係にあるか、だ。いずれにせよ、ぼくのイメージの中で閉じていた人間関係にひとつ新しい要素が加わったことは間違いない。これを忘れないようにしなくては。
二山の出現は、ぼくのやる気を少しかき立てた。適当な人選をすれば、やはり新しい視点が得られるかもしれないからね。
そのとき、ぼくは自分のスマホが振動するのを感じた。見るとメールの着信だ。差出人は……「あどみ」だ。二周めに入ったばかりの時に同じ名前でメールが来ていたが、今回もそのときと同じく、サイトのアドレスが記載されているだけだ。
そういえば、ゲームをしていて時々「ここまでのプレイ内容をセーブしますか?」というのがあるな。セーブができるなんていうのは夢物語だろうが、現在の状態を考えてみると、分岐が近いということを知らせるメール、ぐらいのことはあり得るかもしれない。
うーん、これはまた安易な選択が出来なくなっちゃったな。分岐が近いということは、最低限の関係者が出そろったということだ。一方で、管理者は「ともに戦うのは誰でもいい」というようなことを言っていた。とすると、現在はイベントを進めてもいいが、それをしないでお化け鳥を育ててみてもいい、といった状態なのだろうか?
「なにボーッと突っ立ってるの? なにか面白いものでも見た?」
うしろから不意にかかった声に振り向くと、一年の時に同じクラスだった与澤美海だった。事情通として知られていたな。クールな感じの美貌とのギャップが不思議な子だった。ここでこの子がからんでくるのは、できすぎじゃないかな?
お読みいただき、ありがとうございます。




