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狙い

 カラカラと乾いた音を立てて、袋の中へとしまわれていく骨、骨、骨……。

 その数は数え切れず、空だった袋をあっという間に満たしていく。

 

「……空間魔法、掛けてるはずなんだけど……」

「溢れそうか?」

「多分、大丈夫」


 時折、重なりすぎている骨を動かし、疾風達が運んできた骨を入れていく少女。

 その表情は相変わらず不機嫌そのもので、時折吐かれる溜息すら恐ろしい。


「姫様、恐らくこれで最後かと」

「そっか……」


 お疲れ様。と清華の頭を撫でた少女は、ギュッと固く袋の口を閉じた。


「で、これには何の記憶が封じられていたんだ?」

「何って……寝ていたら屋根が燃え出して、逃げようとしたら見えない壁に阻まれて、生きながらに燃やされる……ただ何もせず、普通に生きていただけなのに、必要以上に苦しめられて殺される、その直前までの記憶」

「……見ない方がいいのか?」

「うん。見ない方が良い」


 疾風の問いにあっさりと頷いた少女の瞳は、よく見ればいつもより潤んでいる。

 今更ながら、彼女が泣くのを耐えているのだと察した彼らはそれ以上言及すること無く、屋敷から森へと移動した。


「さてと、此処から一番近い町は……」

「レホスベルだな。マルク王の意向で、フィラルの国には王都やでかい街だけじゃなく、全ての村や町にも拝み屋があるんだし、其処で良いだろう? 不正している可能性が高すぎる兵士達と一緒というのは、姫さん的に思う所があるだろうが」


 疾風の言葉に、雪華の鋭い目が更に鋭くなる。

 もう少し気を使え。と訴えられていることは理解しているが、理解しているからと言って何かを変えるつもりはない。

 少女と一番付き合いが長く、最も傍にいることが多い彼は、一番の新参であり、彼女に心酔していると言っても過言ではない王鷹には容赦がないのだ。

 険悪とも言える空気を醸し出す二匹を尻目に、少女は清華の体躯を人一人が乗っても余裕のある大きさに変えると、その背に乗った。


「二人共、置いて行くからね」


 行こう。という少女の言葉に、清華は容赦無く大地を蹴った。

 屋敷周辺とは違う、若々しい緑の香りを嗅ぎながら走り続ければ、後を追って来ている同胞達の声が届く。

 このままの速さで行けば、町で少し遅めの昼食を取ることも出来るだろうと思っていたその時、少女の足がそっと腹を叩くのを感じた。

 何事かと走るのを止め、同胞達が追いつくのを待っていると、ガチャガチャと不快な金属音が聞こえてきた。

 猟師か何かだろうかと楽観的な予想半分、自分の主の目的を知ってから考えるようになった、出来れば外れて欲しい予想半分を浮かべながら、清華は自分の背を降りた少女を見る。


「大丈夫だよ、清華。見つかりさえしなければ、戦うことになんてならないんだから」


 小声で告げつつ、清華の頭を優しく撫でる少女の手は、僅かに震えている。

 やっと追いついた二匹も、異変に気づいているのかその表情は先程より険しい。


「……姫さん」


 足音が此方に近づいてくるのを察した疾風が、低く唸る。

 清華と疾風も、何時でも飛び出せるようにと身構え、息を殺す。


「……ああ、囲まれていたの」


 何処からか取り出した紅色の刀を握り締めた少女が、小さく息を吐く。

 その言葉通りに金属音は増え、正面だけでなく、背後からも聞こえてきた。


「……断音シュナイデン気配消滅イレーズか。流石は天界兵……魔術はお手の物、だね」

「言っている場合か? 姫さん」

「場合だよ。ただ囲まれただけだしね」


 少女の言葉に、姿を見せた兵士達から殺気が吹き上がる。

 今の今まで何処にいたのだと問いたくなるその数に、疾風は「姫さん狙いにしちゃ多くないか?」と首をひねった。


「これ、私狙いなの? てっきり、疾風達かと……」

「まぁ、緋龍に翔狼に王鷹だからな……でも、俺達の主は姫さんだ。姫さん狙いで間違いない」

「なんか、間違った連帯責任みたいだね。それ」


 やれやれ。と首を横に振った少女は、この中で唯一、白の腕章を着けた兵士を見つけると「私狙いで間違いない?」と尋ねた。


「……なっ!」

「ほら、(あいて)が間抜けな会話をしていても気を抜かない。実戦経験が無くとも、訓練はきちんとしてるんでしょう? ちゃんとその通りにしないと……それで? 合ってるの? それとも、違うの?」


 驚き、半歩後ろへと下がった兵士に呆れつつも、小首を傾げて尋ねる少女。

 腕章を着けた兵士は軽く咳払いをすると「貴様が紅姫こうきか?」と尋ねた。


「……先に此方の質問に答えるのが筋だと思うんだけど……まぁいいや。そうだよ。おじさんの言う通り、私が紅姫と呼ばれてる人間。それで? おじさん達の目的は?」

「おじ……貴様とその仲間達の抹殺に決まっているだろう!」


 スラリと抜かれる剣。

 よく手入れをされているのか、木々の隙間から漏れる光を反射させ、それは美しく輝いた。


「天界って不殺の教えだか、理が有った気がするんだけど……まぁ、おじさん達兵士だし、そういった細かいことは免除されている……というか、殺す覚悟も、殺される覚悟もあるから抜刀した。ってことで良いんだよね?」


 少女の瞳に、不穏な光が宿る。

 手に持たれた紅色の刀が、それに呼応するように鈍く光った。

 息をすることすら意識しなければならないほど張りつめた空気が、少女達を包む。


「疾風、清華、雪華」

「ん?」

「はっ」

「ご命を」


 少女の呼び掛けに三者三様の反応を返した彼らは、背中合わせになり、各々の正面にいる兵士を睨みつけた。

 ビクリ、と体を震わせた兵士達は、それでも獣に負けてたまるものかと、武器を構え直す。

 剣だけでなく、槍や弓矢もあり、その武装は少女と三匹のお供を屠るには過剰武装にも見える。


「……少し早めのお昼ってことで食べていいよ。ただし、()()にね」


 少女の言葉に、真っ先に目を輝かせたのは意外にも王鷹の雪華ではなく、翔狼の清華だった。

 天界兵にも血の匂いをさせている人間は居るのかと、少女は真っ先に狙われるであろうその人物に心の中で合掌すると、今回のリーダー格である腕章付きの兵士を分かりやすく挑発する。

 

「そんな人を斬ったこともない、飾り同然の剣で私達を討てると本当に思ってるの?」

「小娘が……龍でないお前など俺の敵ではない! 総員かかれ!」


 半ば自棄のように叫ばれた号令。

 兵士達は一瞬遅れて、少女達への攻撃を開始した。

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