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新たな仲間

 音もなく、王鷹が地に伏せる。が、王鷹はまだ戦えると言わんばかりに少女を睨みつけ、起き上がろうと翼をばたつかせた。


「動かないほうがいいよ。まだ痺れてるでしょう?」


 そっと触れる少女の手は淡い光を帯びており、身の危険を感じた王鷹は更にもがく。


「よしよし。元気なのは分かったから」


 少しじっとしていてね。と、少女は王鷹に笑いかける。

 すっぽりと光に包み込まれた王鷹は異変に身を固くしたが、光が己に害をなすモノではないと分かったのか、入りすぎていた力を抜いた。

 大人しく光魔法による治療を受け始めた王鷹に安堵の息を吐いた少女は、今度は傍に控えていた龍に手を伸ばした。

 王鷹との争いで傷ついた巨体は、所々鱗が剥がれ、血が滲んでいる。


「お疲れ様。疾風」


 優しい声と共に触れてきた少女へ、龍――疾風――は、ゆっくりと光に包まれていくのを感じながら「姫さんもな」と目を細めた。


*****


 疾風が目を覚ました時、周囲には沢山の人間がいた。

 王鷹は勿論、自分にも向けられている好奇の目に些か居心地の悪さと不快さを覚えつつ、己の主である少女を探す。

 彼女の傍には、新しく仲間になった白藍色の翔狼が居るはずだ。

 どちらも自分よりも小さいが、あの変わった毛色は目印代わりになるだろうと、目を凝らす。が、どこにもその姿は見つけられない。

 集まっている人間が多すぎるのだろうかと、ゆっくりと体を起こし、首を伸ばすがすぐに見つけられる場所にはいなそうだ。

 さて、どうしたものかと驚く人々の声を聞きながら思案していたその時、真後ろから怒りを爆発させたような声が聞こえてきた。

 真後ろにいたら、それは見つけられないな。と納得しつつ、とぐろを巻くように振り向けば、其処には険しい顔で睨み合っている三人と面倒くさそうな顔をした一匹の姿があった。

 人々も先程の声に驚いたのか、上がっていた歓声のようなモノが消え、「何かあったのか?」と顔を見合わせ、聞き耳を立て始める。


「――ですから、どのように姫様が言われても、我らは……」

「事情も聞かずに殺すのは反対だって言っているだけでしょう?!」

「鳥の言葉は我らにはわかりません。事情とて、民を喰らいに来た一択に決まっております! 民が安心して暮らせるようにする為にも……」

「遠く逃がすって方法もあるじゃない! 何でもかんでも決めつけて、殺しちゃえば良いって訳じゃないでしょう?」

「無論、人を襲わないのであればそう致します。しかし、彼奴きゃつは王鷹。龍すらも喰らう鳥です。再び野に放てば、他の国や民が襲われる可能性は否定出来ません」

「姫様。お優しいことは姫様の美点。なれど、どうか此度は……」

「二人は、私にあの子を見捨てろと言うの?」

「見捨てるのではありません。民の命と安全を優先して頂きたいと願い出ているのです」

「……王鷹は賢き生き物。我らを餌と認識していれば、再び襲ってくるでしょう。現に、此奴は我らの前に数ヶ月置きに姿を見せます。今の所、建物や塀の破損程度で済んでいますが、死人が出てからでは遅いのです。姫様、どうか……」

「嫌。絶対嫌!」

「姫様」


 今にも泣きそうな顔で両腕を広げ、王鷹を庇う少女。

 その姿に、そっくりな顔をした二人の男は困ったように顔を見合わせる。


「姫さん」

「疾風」


 筋骨隆々と言える立派な体躯をした、けれど、少女の言葉や涙に弱すぎる双子の王を助けるべく、疾風はゆっくりと彼女に顔を近づけると「我儘は駄目だ」と真剣な声音で告げた。


「だって……」

「姫さんは大切な人を失う哀しみも、痛みも分かっているだろう? あの王鷹を逃したい気持ちも分かるが、それで死人が出たらどうする? 目先の命を大切にするのはいいことだが、それによって失われる命の数の方が多くなることもある。姫さんは自分の目の前じゃなきゃ、死人が出ても構わないのか?」

「そんな訳無いでしょう!」


 馬鹿な事を言わないで! と少女は眉を吊り上げた。

 

「なら、決断しろ。時と場合によっては、諦めた方が良いこともある」


 断言する疾風に、少女の体がビクリと震える。

 傍でただ事の成り行きを見守っていた清華は、不満げな顔で疾風を見つめた。

 周囲の人々も、複雑な表情で少女や自国の王達を見つめている。

 

「……なら、あの子を私達の仲間にする!」


 少女の言葉に、人々が驚きの声を上げる。

 迅雷と万雷の両王は「姫様!」と悲鳴を上げるように少女を呼び、疾風は「そう来るのか」と小さく呟いた。


「私の仲間にして、私の傍から離さない。それなら此処にも、近くの町や村も、他の国にだって姿を見せない。居場所も分かるし、誰も殺されない。そうでしょう?」

「しかし……」

「なりません! 姫様。相手は……」

「王鷹だからなに? 狩りの為に鷹を飼う者達が居るのに、それに属する王鷹はいけないの?」

「普通の鷹と王鷹を同列に考えるな、姫さん」

「考える! あの子は、ただ体が大きくて、毛色が変わっているだけだもの。一緒に旅に出る時は魔法で大きさ変えれば目立たないし、何も問題無いでしょう?!」


 なんとか説得しようと言葉を尽くす二人と一匹だが、少女は一向に首を縦に振らない。

 その様子に、傍観を決め込んでいた清華が王鷹の目の前に座り、「盛り上がっているけど、あなたはどうしたいの?」と尋ねた。

 己が持つ誇りと矜持を穢さない為、この鳥は死を選ぶだろうと予想しつつ問えば、王鷹はしばし逡巡し二、三度小さな声で鳴いた。

 王鷹の答えに少々驚きつつも、鳴き声に気づき、一時休戦したらしい少女達の元へとその言葉を伝えに行く清華。

 王鷹を仲間にするという少女にも、翔狼が人語を喋るという現実にも驚いていた人々だが、彼女しか知らぬ王鷹の答えがどんなものか、聞き逃さないようにとその口を噤んだ。

 なんとも言えない緊張感を孕んだ空気が満ちていく。

 普通の犬猫ならば怯えそうなその雰囲気に臆すること無く、清華は「同道を希望するそうよ」と告げた。


「……そっか。なら、決まりだね。迅雷、万雷、疾風、これらなら文句はないよね?」


 文句を言っても聞かない。と言いたげな顔で、大人達を見上げる少女。

 その姿に異を唱えられる者は無く、王鷹は「雪華せつが」という名を得ると共に、少女達の仲間となった。

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