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少女と青年達

 人々の視線など気にせず、トコトコと少女の元へ歩いてきた清華。

 申し訳無さそうに尻尾を垂らしている彼女に、少女は「どうしたの?」と優しい声で尋ねた。

 物言いたげな顔で、チラリと猪熊ししぐまを見る清華。

 その様子で何があったのか大体の事情を察した少女は、そっと彼女の頭を撫でると森へと向かって歩き出した。


「ちょ、ちょっと待って!」


 そんな彼女の背に、慌てて声を掛けたのは、先程「瑠璃」と呼ばれた少女だった。

 何事かとチラリと彼女を見る少女と清華。

 他の人々も瑠璃が何を言うのか気になったらしく、視線を向けた。


「あ……えっと……」


 一斉に向けられた視線に怯む瑠璃。

 用が無いなら。と言わんばかりに再び背を向けた少女だが、そのローブを瑠璃が掴んだ。


「……何か?」


 離せ。とは言わないものの、鋭い少女の視線に、瑠璃は「えっと……」と言葉を詰まらせた。

 助けを求めるように後ろで驚いている青年を見る彼女に、少女は「用が無いのなら失礼したいのですが?」と手を離すよう促す。


「あ、あの、お礼、させて下さい」

「お礼?」


 瑠璃の言葉に、少女は首を傾げる。

 何か礼を言われるような事をしただろうかと考えるその姿に、青年が「猪熊倒してくれたろ?」と指を差した。

 その先には、協力して猪熊を移動、解体しようとしている兵士や町の人々の姿がある。

 それで合点がいったのか「ああ」と声を漏らした少女は、申し訳なさそうに体を縮めている清華を撫でつつ「向かってきたから倒しただけなので」と感情の読めない声で告げた。


「それはそうかもしれないけど、俺達は助かったからさ。えっと、貴女は旅人、なのかな?」

「……そんなところです。それが何か?」

「礼代わり、と言ったら何だけど、うちに泊まっていかないか? 見たところ、歩きの旅みたいだし……森のなかで日が落ちたら危ないしさ。な?」

「いえ……見ての通り、私には連れがいるので」


 ポンッと清華の頭に手を置いた少女は、いい加減にしろと青年を威嚇する。

 解体を終えたらしい兵士達が、そんな彼女と青年のやり取りにヒソヒソと何かを話し、動き出した。


「……どうしたの? 清華」


 足に何度も弱い体当たりをしてくる清華に、少女は困ったように笑う。

 青年を睨んでいる時とは対象的な柔らかい笑みが、瑠璃の目にチラリと映った。


「……綺麗」


 呟きと共に、瑠璃の手が少女のローブから離れる。

 自由になった事に気づいたのか、少女はそのまま彼女達に背を向けると、迷うこと無く森へと歩き出した。


「あ……!」

「おい……ちょっと……」


 慌てる瑠璃と青年だったが、彼女は振り向くこともしない。

 集まっていた人々も、少女の気に圧され、慌てて道を開ける。

 進む先に余裕が出来たからか、彼女の歩幅が少し大きくなったその時、道を開けた町人の一人が「王鷹だ!」と声を上げた。

 人々の「何処に?」や「見たい!」「早く逃げないと……!」という声と兵士達が剣を掴み、走り出す音に、少女の舌打ちが紛れる。

 清華の体当たりの理由、それは元の大きさから戻れずに困っている雪華に気づいていたからだ。


「……清華、雪華で間違いないよね?」

「はい」


 大きく頷く清華に、少女は「そうだよね」と困ったように返す。

 何故戻れていないのだろうという疑問を頭の片隅に追いやり、「撃ち落とせ」と声を上げている兵士達や好奇心から続々と集まってくる人々をどうするか必死に考える少女。

 だが、名案は浮かばない。

 ローブに隠れている疾風も、隣にいる清華も同じなのか、なんとも言えない雰囲気を纏っている。

 隠れきれてはいなかったが、森で大人しくしていた雪華。

 彼がそのまま居てくれていれば、森の奥深くに移動させ、体を小さくしてやれたのだが、町人が上げた大声と急に向けられた大量の視線に驚き、反射的に空へと飛んでしまった為、それが出来ない。

 少し前に視線を戻せば、兵士達が魔法弾ブレットで彼を狙っているのが見えた。


「……あ~、しょうがない……!」


 唸り、兵士達の脇をすり抜ける少女。

 入り口で対峙した兵士とは違う兵士が、「危ないぞ!」と声を張り上げ、悲鳴が空気を震わせる。

 それを背中で感じながら、思い切り大地を蹴り、風を呼んで空へと舞い上がった少女は、迷うこと無く雪華に手を伸ばした。


「……姫様」


 今にも泣きそうな声で近づいてくる雪華。

 そんな彼の首元を優しく撫でると、壊れてしまったお守りを新しいものに変え、少女はもう一度森へ戻るように告げる。

 体を小さく戻して、何も知らない顔で戻っておいで。と微笑む彼女に、雪華は小さく頷くと、言われた通り再び森へ姿を消した。

 強い風が吹き、少女が被っていたフードが外れ、体が町へと押し戻される。

 人々の悲鳴を聞きながら地上へと降りた少女は、疾風が見つかっていない事を清華に確認しつつ、乱れた髪を些か雑に戻した。


「ん?」


 森の奥深くに姿を消した王鷹を探しに行く兵士達の背を見送り、怪我はないかと自分に伸びてくる手を避けていた少女。

 雪華が戻ってきたら早々に此処から去ろうと思っていると、殺気とは違う、どちらかと言うと雷扶などで向けられる、熱い視線のようなモノに気づいた。

 清華も気づいていたのか、その視線の先らしい場所をジッと見ている。

 それとなく彼女の視線の先を見れば、其処には先程まで話していた青年の姿があった。

 

「まだ用があるのかな」


 小さく呟き、清華の背をそっと押せば、彼女は迷うこと無く青年の元へと向かった。


「え? あ、何か用か?」


 清華と視線を合わせる為か、迷うこと無く片膝をついた青年はヨシヨシと彼女の背や頭を撫で始めた。

 その手の優しさと、時々自分から少女へと視線を移しては、薄っすらと頬を赤らめている青年の姿に、清華は雪華が戻ってきたのを確認すると、彼の少し伸びた袖口をパクンと咥えた。

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