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突拍子もない

 到着早々、桃色の髪をした天界兵に熱烈すぎるウィンクと投げキスを送られた疾風達は、自分達が来るまで一人と一匹でこの空気に耐えていたのかと蓮華と清華を見た。

 気の所為か、分かれる前よりも頬が痩けたように見える二人に、雪華から聞いた事情に間違いがないかを確認する。

 ミレイユとその父を助け、紅蓮を討つ為に手を組む……簡潔に纏めた内容を疾風が口にすれば、蓮華は「手を組むかは保留中」と告げた。


「保留?」

「そう。ひとまず彼女を帰す為にもミレイユ殿達を助けるのは賛成しただけ。での事もあるしね」


『……陛下は、貴女を殺すつもりは無いかもしれません』


 蓮華の脳裏に蘇る声。

 真意を掴めなかったその言葉の意味を再び考える。

 否、考える必要など、本当は無い。

 紅蓮の『天意と理を壊す』という言葉が響き、リューイのいう布石が自分と父の再会を確実にする為のものだと確信すれば、その先に待つ未来は……。

 覚悟しているはずの未来に向けて動かねばならない現実に、蓮華はあの緋見た悪夢を思い出す。


「……大丈夫」


 ボソリと呟き、声に気づいた清華の頭を撫でる。

 温かく、柔らかいその体温と毛並みに息を吐きつつ、ミネハと涙の再会をしているリューイを見た。


「……それで、どうするか決めているの?」

「ええ。一応」


 頷くリューイを、ミネハが「こんな人達を信用するの?」と言いたげな顔で見つめる。

 互いの立場を考えれば正しい反応だろうが、分かりやすく向けられた懐疑的な視線に、鋼夜と瑠璃はなんとも言えない感情を抱く。

 怒りや悲しみ、戸惑いの様なモノがないまぜとなり、ミネハとの距離が開いていくように感じる。

 彼女の父親や兄が自分達の所為で牢獄に連れて行かれたのだから、怒られても、恨まれても仕方が無いとは言える。が、先の疾風の言葉通りなら、本当に怒るべき相手は二人を捕まえさせた天帝なのではないだろうか。

 そんな事を目で話していた鋼夜と瑠璃だが、その天帝は蓮華の父だという事実に深呼吸に見せかけた溜息を吐いた。


「あら、二人してどうしたの? お姉さんが……」

「ふざけてないで説明を」


 両腕を広げたリューイに、鋼夜達が見た事の無い殺気交じりの表情を向ける蓮華。

 その姿にミネハが「リューイさんをいじめないで!」と彼女を睨んだ。


「いいのよん。ミネハちゃん。紅姫ちゃんもそんなピリピリしないの。可愛いお顔が……」

「貴方に『紅姫ちゃん』と呼ばれる筋合いはありません」

「んもう! 手厳しいんだから! いいわ、仲良くなるのはゆっくりと、ね。じゃ、これからの予定なんだけどん。隊長達がいる場所は分かっているの。だから……」


 今から一気に攻め落とすの


 それ以外無い。と言わんばかりのリューイに、鋼夜達は思わず「はぁっ?」と声を上げた。

 彼以外の天界兵も「冗談ですよね?」と口々にリューイや仲間達に確認する。


「分かりやすくていいですが、中の様子は?」

「一応、私の後輩ちゃんが随時中の様子を教えてはくれているわ。ただ、どうなるかがねぇ……」

「情報の正誤を確認していないので?」

「そういう訳じゃないわよ。ただ、移動用の魔法陣があるの。何かあったら天宮から援軍が来るから、どうなるか分からないってこと」

「普通、そういう所も手懐けておくか、陣を使えないようにする策を用意しているものでは?」


 馬鹿なんですか? と真正面から確認する蓮華に「そういう問題じゃないだろ!」と疾風が声を上げた。


「いやん! びっくりしたわ~」

「疾風、うるさい」

「いや、なに平然と話し進めてるんだよ! 姫さん! おかしいだろう!」


 昼飯食いに行く店決めてるんじゃないんだぞ! と吠える疾風に「全くです」と珍しく雪華が同意する。

 そんな二人に「分かっているわ」と返事をする蓮華。その目は冷たく、鋼夜は自分達との初対面時はどうだったかを思い出す。

 自分や瑠璃も睨まれたり、接触を拒まれたりした事はあるが、ここまででは無かったと思う、と結論づけた鋼夜は、そっとその後に「そう思いたいだけかもしれないけれど」と付け足した。


「姫様!」


 言い争いを続けている蓮華達の耳に、清華の慌てた声が届く。

 何事かと人々の視線が彼女に集まる中、鋼夜と瑠璃だけが空を見上げていた。


「あらん? 二人共何を……」

「鋼夜さん、瑠璃さん、数は?」

飛馬シュヴァルが五、六……多分十頭くらいなんだけど……」


 言い淀む瑠璃の代わりか、鋼夜が「黒い龍がいる」と告げた。

 途端に慌てだす天界兵達。リューイは母親のようにミネハを胸に抱き、空を見上げる。


「疾風」


 何も言わずに姿を龍へ変えた疾風は、蓮華を背に乗せ空を昇る。


「綺麗ねん」


 ポツリと呟くリューイ。

 ミネハに抱かれていたコルジァが同意するように頷いた。

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