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道探し

「随分と変わりましたね」


 少し前までは白紙同然だったのに、と日課になった巻物の内容確認を行いながら微笑む梓火。

 その表情に少し前まであった憂いは無く、実に穏やかな笑みが浮かんでいる。


「そうだな。しかし、疾風が妻を娶るか……早いものだな。保護者役としては寂しいのではないか?」

「寂しいよりも不安の方が……まぁ、姫様以外に大切な方が出来るのは良いことでしょう。あれで面倒見もいいですし」


 そう言いながら、先程よりも口角が上がっている梓火に、紅蓮はフッと笑みを零す。


「紅蓮様?」

「いや……これでいつあの子達が来ても問題は無いと思ってな。既にミレイユ達は動いているし、マルクの所にいた山賊があの子に情報を渡した。終わりは近いな」


 最も、天宮ここには簡単に来られないだろうが。と付け足した紅蓮は、己の最期を記す一文をそっと撫でた。


「梓火」

「はい。ミレイユの味方をするであろう兵士の殆どを第六に移してあります。紅蓮様に気に入られようと彼らを虐げる者はおりません。代わりに此方へ移した兵士達は紅姫を討つと息巻いていますので、いつでも始末できますし、文官達も一部を除き避難させてあります」

「そうか……ミネイの娘は?」

「場所は確認してあります。姫様が此方へ来ると同時に追い、合流させます」

「分かった。ミネイ達には申し訳無いが……ああ、きっとそう思うから天帝達は自分達が死ぬまで、もしくは死んで数年の出来事を天命として書き記し、世界を維持してきたのだな」


 いつからそれが悪しき事になったのだろう。と紅蓮は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。


「……最初から、だろう」

「紅蓮様?」

「いや、なんでもない。それよりも梓火」

「はい」

「散歩にでも行こうか。書類仕事はもう無いし、此処であの子達を待つには時間がありすぎる」

「……そうですね。参りましょうか、紅蓮様」


 きっと何があろうとコレが最後なのだろうと理解した梓火は、浮かんできた言葉も感情も、涙も飲み込み、何年ぶりかに見た彼の笑顔に頷いた。


 *****


 マルクと鋼斗を乗せたルシエラが飛び立つのを見送った翌日、蓮華達は日が昇るとほぼ同時に入れずの森へと向かった。

 鋼斗がいた四日という時間を、鋼夜達ただ家族の団欒の為だけに使えなかった事を申し訳なく思いつつ、蓮華はマルクの助言によって狭まった捜索範囲から更に目ぼしい場所は無いか考え、馬を走らせる。


「姫さん!」


 疾風の声に一つ頷き、蓮華は後ろに居る迅雷達へ合図を送り、馬の速度を緩める。

 自然と横一列に並ぶ馬達。

 蓮華を中心に右に瑠璃と共乗りしている疾風、同じくエアと共乗りしているウィル、アレク、迅雷、左に雪華、鋼夜、清華、万雷。

 九頭の馬が並ぶ様も、騎乗している人々の姿も圧巻だが、それに目を止めるものはいない。


「さて、どうなるか……」


 ウィルの呟きに「成る様にしか成らないわよ」と小さく震えながら答えるエア。

 そんな二人を機に留める事もなく、蓮華は目の前に広がる森へ、馬を近づける。

 何かを感じ取ったのか、馬は一度ギリギリのところで足を止めたが、蓮華に腹を蹴られ渋々といった様子で歩を進めた。


「はい……れた……?」


 蓮華を乗せた馬は、長く人の手が入らず、すっかり気味の悪くなった森の奥へ奥へと進んでいく。

 驚いている瑠璃を見た後、互いに頷きあった疾風達は彼女の背を追うように馬を進める。


「寒い……」

「枝を払う人間も、草を踏んで道を作る人間もいなかったからな。日は遮られるし、風も土も動かないもんだからすっかり冷えちまったんだろう」


 着てろ。と瑠璃に自分の上着を掛けた疾風は、茶化すウィルやその手が……、でも明らかに大きすぎる上着を羽織っている瑠璃ちゃんも可愛くて捨てがたい……と謎の呻き声を発しているエアをちらりと見た後、蓮華と自分達の距離を確認する。

 馬を走らせるには近く、かといって放って置くには遠いその距離に、前に乗っている瑠璃に音魔法で呼んでもらうべきか悩む。

 天界への道が此処にあるならば、天界兵がいる可能性がある。

 単独行動は勿論、大声で彼女を呼び止めるのも好ましくない。

 さて、どうしたものかと考えていると、蓮華が戻って来るのが見えた。

 後ろに続く雪華達に待機の合図を出せば、蹄の音が止み、少し荒い馬の呼吸と一瞬だけ白く染まる息が微かに聞こえるだけになる。


「ねぇ、面倒な事になってるみたい」


 戻ってきた蓮華の言葉に「面倒とは?」と迅雷と万雷が同時に尋ねた。


「里に近い道は入れないみたい」

「「なんと!」」

「私が入れないだけかもしれないけれど、馬も先に進もうとしないから何かあるって事は確実だと思う」

「なるほどな。だから、天界への入口は里の近くになっているって訳か」

「多分ね」

「理を壊し、里と末姫を解放する……その途中結果がこれって訳か」

「ウィル!」


  声を荒げるエアに、ウィルは珍しく真剣な表情で「事実だろう」と言い切り黙らせると、蓮華へと視線を移した。


「どうする? 末姫。印がついている場所が雷供付近だと勝手に思っていたけど、入れない場所があるって事はもしかしたら俺達の国側の可能性もある。一度戻って魔導師達に……」

「大丈夫よ、ウィル。逆にこれで確信が持てたわ」

「蓮華?」

「蓮華お姉さん?」


 不思議がる鋼夜や瑠璃をよそに、蓮華は移動の隊列を変えるとアレク達に指示を出し始めた。

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