開幕
一人の王が治める「天上界」
複数の王が共に治める「地上界」
この世界は、「天」と「地」それぞれに王が存在する。
天に在る王――天帝――と人は理を護ることで地上に住む人々を護り、地に在る王達と人は祈りを以ってそれに応えていた。
天と地という決して交わらない二つの世界は、「緋龍族」と呼ばれる一族が繋いでいる。
彼らは、共に生きる龍の力と身に宿る力を用いて、天と地を自由に往来出来る特別な存在であり、地に住む他の龍族達の長でもあった。
天と地、両方の声を聞く為、緋竜族の人々は常に様々な国や人と接するが、決して深くは交わる事なく、ただ平等にあり続ける。
それに倣うように、他の龍族達も特定の国や人々と関わること無く、けれど、決して孤立するような事無く、国や人間達と適度な距離を保ち、生きてきた。
国も人間も、彼らの考えを尊重し、その距離を犯さぬようにしながら助け合い生きて来たのである。
しかし――
それは最早過去のこと。
今を生きる人々は、龍族と共存していたことを覚えていない。
「この世界の何処かに、龍族というモノが存在している」
その言葉は、まるで幼い子供に聞かせる御伽噺のような、歴史や地学を学ぶ上で覚えなければならない単語のような、決して現実だと捉えられないまま語られる。
「見た」と話す者がいても、大半の人々は信じない。
けれど、それは仕方がないことなのだ。
人間という生き物が、忘れる生き物である事は勿論、「共存していた」という事実を、「龍族が身近にいた」という事実を、誰もが抗えない力を持って消し去ったモノが居るのだから……。