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2.ぶらり海沿い街歩き

〇夏休み明けの私


 波止場から砂浜を横切るように海沿いの道路と並行して歩く。

 午前10時を回った砂浜は太陽に照らされ、照り返しがとても眩しく感じる。

「ハルはさ、夏休みが明けたらどこの高校に通うの?」

 隣を歩くマリンが私に尋ねる。

「私は潮美高校に転校するよ」

 潮美高校は先ほど下見してきた高校だ。私はその2年生に編入することになっている。

「えっ!ホントに!?私も潮美高校なんだよ~。一緒の学校だね!」

 マリンは一瞬驚いた後、嬉しそうにそう告げた。

 その後マリンは、授業や学校行事についてあれこれと教えてくれた。

 色々と話をしているうちに、海沿いにあるマリンの家に着いたらしい。

「ちょっと着替えてくるね。待ってて」

 マリンはそういうと、砂浜から並行していた道路を渡り、道沿いの民家に入っていく。

 

 マリンを待つ間、海を見ながら私はマリンと同じ学校であることに安心していた。

 喜びとはまた違う安心という感覚。

 もう、ひとりじゃないんだ……。

 そんな気持ちが心にあったからだろうか。

 

 私はなぜ、喜びではなく安心しているのだろう。

 その気持ちを確かめる間もなく、マリンが家から出てきた。

 

「お待たせ~。行こっか!」

「うん……」

 どこか気のない返事になってしまったが、マリンは気にせず歩き出した。

 

「私ね、生まれてそれからずっとこの街にいるんだ~。ハルは、前はどこに住んでいたの?」

 マリンが興味深そうに私に尋ねる。私はこの手の質問が苦手だ……。

「私はね――」

 私は、都会の街で生まれ、その後父の転勤により都市部を転々としていた。だから今回のこの街は、私にとっては初めての田舎といえる街だった。

 そんな経緯をマリンに説明する。

「へぇ~ハルは都会っ子なんだね!」

 マリンは憧れのようなまなざしを向ける。

「まぁ、都会っ子ってことになるのかな……」

 

 そんな話をしているうちにマリンは立ち止まり、目の前の小さな商店を指さす。

「ここがシオマート。ここはアイスが安くて潮高生のたまり場なんだ~」

 店先に置いてあるアイスを入れるショーケースには、全品80円と書かれている。

「おぉ、マリンちゃん。今日もアイス買いに来たんかい?」

 店の中から、おじいさんが声をかけてきた。

「りゅうじぃ、おはよう。今日はこの子案内してるの!」

 そういってマリンは私をりゅうじぃに紹介する。

「そうやったんか。見ない顔だと思ってたよ。」

「竹原春乃です。先日この街に引っ越してきました。夏休み明けから潮美高に通います。よろしくお願いします」

 あまり大人の人に自己紹介することがなかったので、少し硬い挨拶になった。

「大泊隆治といいます。ここの子たちにはりゅうじぃと呼ばれとる。いつでも寄って下さいな」

 りゅうじぃは優しい笑顔を見せる。

 その後マリンとりゅうじぃが少し話をして店を離れた。


 次はどこに行くんだろう――。

 シオマートから歩いて10分ほどすると、民家の間に神社が見えてきた。

 マリンは神社の前に着くなり

「とうちゃーく!」

 マリンは両手を上げそう叫んだ。

「この神社は潮美神社っていって、海の神様をお祀してて、夏休みの最後にここで夏祭りがあるんだよ」

 マリンがそう教えてくれる。

 参道は20メートルほどあり、境内は広く、祭りをするにはもってこいの神社だろう。

「この神社にはね、不思議な木があるんだよ!こっちに来て」

 マリンはそのまま境内へと向かう。

 境内の右奥にある木の手前で立ち止まると、砂利が敷き詰められた地面を指さしマリンは告げる。

「ハル、少し砂利を持ってみて」

 私はそれに従い地面の砂利を掴む。

「その砂利を、この木の側面に落としてみて」

 マリンは木の側面を指さす。

 指さされたところに砂利を落とすと……。

 木からコロコロと水の流れのような音が聞こえた。

「水の音が聞こえるでしょ~!これ、ここの子供に伝わってる遊びなんだ~!」

 そういうとマリンも砂利を落とし始める。

「ホントだ。すごいねこれ!」

 私も予想外の出来事に少しテンションが上がった。

 

 その後本殿にお参りをして、境内を出たところで遠くで雷が鳴った。

 そういや、今日昼から天気が悪くなると天気予報が言っていた。

「ありゃ、雷だね……」

 マリンがそう告げる。

「今日昼から天気が悪くなるって天気予報言ってたしね……今日はここまでにしようか?」

「そうだね~ハル、明日は予定ある?」

「私は何もないよ」

「オッケー!じゃあ、明日、街案内の続きをやろう!」

「うん。ありがとう」


 話終えると、ポケットからマリンは携帯を出す。

「ハル。連絡先教えて!」

「あぁ、うんいいよ」

 連絡先の交換なんていつぶりだろうか――。

 そんなことを考えながらお互いの連絡先を交換する。

 

「じゃあ、また連絡するね!また明日!」

「うん。待ってる。また明日ね」

 言い終えると、マリンは家の方へ歩きだした。

 私も早く帰らなければ。

 来た時よりも少し急ぎ足で家へと向かった。

 

 潮美神社からは家まで15分ほどだった。

 自分の部屋に帰ると、そのままベッドに寝転んだ。

 

 そして、今日の出来事を振り返る。

 マリンが突然現れて、一緒に街を巡った。連絡先も交換した。そのマリンとは、夏休み明けから同じ学校で。それを知った私はなぜか安心して……。

 思い起こせば、家族以外の誰かと話すことも、一緒に街を歩くことも、連絡先を交換することも随分久しく感じた。

 夏休みが明ければまた以前までのように自分からは歩み寄らずにいるつもりだった。

 どうせまた、転校してお別れになってしまうから……。

 でも、1日で私の未来は変わった。

 マリンが、私をひとりから連れ出してくれたのだ。

 私はそれで安心した。

 つまりは――。

 自分の気持ちに気づいてしまいそうになったがギリギリのところでこらえる。

 口に出してしまうのが怖くて――。

 今までの自分を否定してしまうような気がして――。

 まだ、ここでの生活は始まったばかりだ。学校にだって行っていない。

 結論づけるには早いだろう。

 

 でも、少しだけ期待したっていいよね……。

 その時、携帯が震えマリンからのメールを受信した――。


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