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「黒河の朝」

一方、少し遅めに起きた黒河月道はどうだったのか?

しかも裾野とは昨夜のパーティーが「はじめまして」ではなかった!?


※約3000字です。

※『騅-後醍醐のもう1人の息子-』のスピンオフ第3話です。

一方その頃……

2013年7月15日

???

黒河 月道



 ゆっくりと意識が浮上するにつれて背後からタバコの独特な匂いが鼻をつき、同時に相手の体型からして同性から抱きつかれた状態で寝ているみたい。

とりあえずそのまま動かないことにしよう。

 だけど正直気持ちが悪い。

俺は同性愛が苦手で、”汚れ仕事”のときは自分とは違う人格を作り上げて演じていたから問題なかったのだけど、今はそうではないから。

早く退いてくれないかなぁ。


 そうして数十分も経ってみると、男は俺の首筋に唇を落とし布団から出た。

その瞬間、我慢はしていたけど少し身体が無意識に痙攣した。

どうしても気分が悪くなる。

まず目を開けてみるとすぐに目線の先にあった姿見が目に入り、よく目をこらしてみた。

 え、待って。この顔はもしかして。

俺は布団の中でもぞもぞと動き、服を着ていることを確認し、ほっと息をついた。

 だって服着て寝るなんて面倒だと思わない? ……変わってるよね。

まだ良かったのは、いつも裸で寝てることを元相棒も知らないこと。

ふぅと溜息をつくと、姿見の逆側にあるパーテーションで区切られた先から何か作っているのか、包丁の音などと一緒に、卵が焼ける良い香りが漂ってきた。

美味しそうな香り。目玉焼きかな。

 男の注意が逸れたところで、とりあえず起き上がって姿見で自分の姿を見ると、やっぱりそうだ。

俺は今、菅野になってる。よりによって苦手なタイプの。

でも俺より胴体と足の長さのバランスが良いこの男。

正直体型だけは分けて欲しい、と昨日ちょうど思っていたんだよね。

こいつは光の世界のモデルでもやっていれば良いのに、どうしてこの世界に来たのかな。

 俺はそう思いつつも、どんどん気が良くなっていってポーズをとったりしてしまっている始末。

やっぱりスタイルが良いって大事だよね。

……何言ってるの? 細くて小さくて白い男でないと”汚れ仕事”は出来ないでしょ。

とりあえずそんなことを言って自分に釘を刺してみる。

 よし、そこに槍もあるし、担いで何かやってみようかな。と、

だけど俺の好奇心というモノはぬか床で、あっという間にスルッと抜けて、好奇心に負けてそっと持ち上げようとした時だった。


――カラン……

まずい。何この重い槍。それとこの感じだと……俺の少ない筋力のままだったみたい。

そしてそのまま槍は痙攣している俺の腕を離れ、

――ガターン!!

という耳をつんざくような大きな音を立てて倒れてしまった。

 どうしよう。

とりあえず身を隠す場所を探したけど、どこにもなさそう。

子どもじゃないから、ベッドの下には隠れたくないし。

仕方なくその場に座り込む俺の元に、男は慌てた様子で駆けつけてきた。


「おい菅野。朝から何やってんだ?」

この声は……というよりもこの状況から裾野だろう。

裾野は勿論、菅野だと思っている。

演じてみようか……そうなると、バカで明るい感じ。関西弁。……正反対なんだけど?

「い、いや……」

と、口ごもると後ろから襟首を掴まれ、ひょいとベッドに座らされた。

「……? おいおい、15kgくらい痩せたか? 大分軽いなぁ。」

裾野はまだ気付いていないけど、疑っていることは確かで先程から二の腕、お腹回り、腰を揉まれている。

……揉むほどある時点でまずいことは言わないで欲しい。


 しばらくすると、裾野は口元をゆっくりと歪ませた。

「こんな贅肉、ある筈がない。よって、菅野に成りすました誰かだな? お前は誰だ?」

「……」

もう俺には黙るしか選択肢が無かった。

多分もう分かってる。

「俺は一度抱いた人の体格は忘れたことがない。……お前は絶対俺と関わったことがあるな?」

裾野は黙っている俺の隣に座り、肩をぎゅっと抱いてきた。

その顔は満面の作った笑みだ。

あの目に見つめられると、魅入られると有名だけど……同性も例外ではないみたい。

「まぁ言いたくないなら言うけど、黒河月道だな。あの時はどうも。あ~危うく殺されかけたよ、本当に」

「……それはどうも」

俺はこれ以上こいつと関わりたくなかった。

だからプイッと姿見の方を向いて、それ以上の追求を断った。

 裾野は”汚れ仕事”で初めて失敗した相手で、初めて――あぁ嫌だな。思い出したくもない。

すると裾野はすっと立ち上がり、キッチンの方に向かいながら、

「とりあえず、ご飯でもどうだ?」

と、パーテーション越しに笑顔を向けてきた。

俺は毒を盛られそうだし、断ろうとしたのだけど、

――ぐ~~ぅ?

という腹時計に負けて、頷くことにした。

今思ったのだけど、菅野の身体だから毒を盛る筈も無いよね。



 数十分ほど待って所謂ダイニングの方に呼ばれて行くと、そこにあったのは2人用のハイテーブルに広がる豪華な食事。

それは勿論、俺にとって。

 綺麗に盛りつけられたサラダ、卵とじのわかめスープ、

どう見ても近くでは売っていないヨーグルト、目玉焼きにベーコン、

そして……クロワッサン!?

とにかく、久々に目にした豪華な食事に何度もヨダレがでそうになった。

「クロワッサン……?」

と、ゆっくりと呟く俺に裾野はほんのりと目尻を下げる。

 俺がこんなに驚くのも、一度だけ作って欲しいと頼んだ時に、パンを一から作るとしたら1時間くらいかかると永吉が言っていたから、正直信じられなかった。

「あぁ、クロワッサンは30分もあれば作れる。それ以外はいつも作っているから、全く問題ない。もしかして、殺し屋の作った料理は嫌か?」

と言う、黒のエプロン姿の裾野は女の人はかなり好みだと思う。

口調もかなり他人行儀の優しい感じだから。

「いや別に。ありがとう」

と、席につきながら言うと、裾野はぷっと吹き出して、

「お前でも礼は言えるんだな。さて、遅めの朝食でもどうぞ」

とか言うし、食べながら顔を見てはクスクス笑ってくるけど、今はそんなに嫌ではない。

やっぱり裾野は見た目通り、行儀が良いし時事の話もわかりやすく話せる利口な男。



 一通り食べ終わると、何か思い出したかのように台所に立ち、

「りんご、桃、オレンジ、キウイがある。食べるか?」

と、冷蔵庫を探りながら言ってくるが、あいにく果物は昔から苦手だ。

クロワッサンの食べ過ぎで。

「いや、いい」

「ふぅん。そう言えば、――」

と、りんごの皮を剥きながら聞いてくる裾野だが、慣れているせいか手元を全然見ていないので、全く話が入ってこない。

「……うん」

「うん? 悪いが、菅野か妻じゃない限り察せないけど……?」

「あぁ……。えっと」

「聞こえてなかったなら言えよ。どうやって菅野に?」

「わからない。でも、ピンクのドリンクは引っかかってる」

「奇遇だな。それで先程情報屋に連絡したら、からすも探ってるらしい。ということは、菅野も動いてるな」

裾野は100均では到底買えなさそうな高級皿にりんごを芸術的に並べながら言った。

「うん。俺のスマフォに電話、かけてみる?」

「あぁ……じゃあ、番号いいか?」



 スピーカーモードにしてあるスマフォから、何回かの呼び出し音が響き、急いで押したのかプツッという音までご丁寧に聞こえた。

「裾野の番号や!!」

という菅野の声に思わず裾野はボリュームを下げたが、不安なのは俺も一緒。

俺のスマフォに騅から掛かってきたら同じ反応をしたかもしれない。

「裾野の番号だ。俺を追い込んだヤツの身体はどうだ?」

「それや! 裾野ぉ~もう聞いてや~。こいつの下がもうなぁしょうもないねん!」

という菅野の言葉から察するに、どうやら見られたらしい。

……最悪なんだけど。気にしてるし。

「あぁ……悪い、菅野。スピーカーモード」

「え!? わっ……あ……あぁ……。」

「その話は今度聞くから。ここからが本題」

「なんや?」

「お前らが入れ替わっている訳だが、治し方がわかったらしいじゃないか」

「せやせや! でもなぁ……俺、絶対嫌やねん」

「ん?」

「裾野とでも嫌や。これヒント」

という言葉を聞き、裾野はこちらに目を向けてきたが、俺は何も思いつかない。

長年いる相棒とでも嫌なこととは、どんな殺し方?

お互いの首を絞め合って、限界付近で同時に離す。

結構妙案かもしれない。

それか、同時に心臓に……これは死ぬから却下。

ん~……何だ?

俺は足を組み替えながら、思考の世界に飛び立とうとしている。

「ライト? ヘビー?」

という裾野の質問に、俺は離陸を止めて何度もまばたきをしてしまったが、裾野のニヤついた表情から察するに嫌な予感がする。

「ヘビーやな」

「じゃあ、――」

その言葉を聞いた瞬間から、俺の意識はどんどん遠のいていき、

「……残念ながら、正解や」

という言葉を最後に俺の意識は途絶えてしまった。



 まさか、そうでもしないと治らないなんて。

読了いただきまして、ありがとうございます!

次話は何も無ければ、来週の土曜日(7/2)です。

お楽しみに♪


次回は解決に向けて大きく動いていきますが……?

一体どうなってしまうのでしょうか!?


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