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出会いと契約

 今、僕はパニックに陥っていると言っても過言ではない。いや、意外に冷静さを保てているかも知れない。

 しかし、まるで温泉でも掘り当てたかの如く頭の中では思考が止まらない。


 そういえば、うちの親父が庭を掘っていたら温泉が湧いて、仕方なく温泉宿を始めたのが3年ほど前か。いやだからそれはどうでもいい。


 まずは現状を確認しようか。


 僕は迫り来る高校受験に向けて、苦手な数学の勉強に励んでいた。そして、目が疲れてきたと感じ目を閉じて机から目を離したときだ。 

 目を離したのがいけなかったのか……


 再び目を開けると僕のノートの上に人が転がっていたんだ。


 は?ってなったよ、もちろん。何故か縛られてるし……

 あー、勉強しすぎたな。って思ってもう1回、目を閉じたんだ。

 ちょうど今その状態。幻覚なんて初めて見たし、ポーカーフェイス装っているけど心臓はバックバクだ。


 これから目を開けようと思う。怖い…がいつまでもこの状態では戴けない。


 勇気を振り絞って目を開けてみた。


 はい、間違いなくいます。存在しています。どうしたらいいのでしょうか。

 勉強中に机の上に人が転がっていた時の対処法はまだ習っていません。


 その時、その転がっていた人が声を出したんだ。


「わ、わいに血を分けてくれ……」


 ち?

 ちって言った今?


 縛られてる人が、ちを欲しがっている。

 気づいた時には僕の体は動いていた。


「ちょっと待ってて」


 そう言って部屋を飛び出した。



        ※



 きっかけは小さなことやった。部長に内緒で食べた部長のマカダミアナッツが原因。

 あんな怒るとは思わんかった。


「部長、それ食べたんアイツです」


 一緒に食べた同僚にまさか売られるとはな。


 確かに食べたわいが悪かった。せやけど、あれが下界から取り寄せた最高級のマカダミアナッツだとは誰も思わんやろ。


 まあマカダミアナッツ食べただけで下界に永久追放になったわけやない。

 これまで社員が起こした不祥事、負債を全て背負わされたんや。


 しかもや、しかもボッコボコにされた上に縛ってそのまま落とすってどないなってん。





  「ぐえっ」


 地面に着いてもうたか…

 ここはどこや?見たところ家の中らしいが…

 

 ダメや、頭クラクラしてきた。

 そうやった…わいらが下界で生きていくには人間と契約せなアカンのやったわ。

 

 人間と契約を交わすには人間の血が必要や…早く血を飲まんと…


 だ、誰かおるんか……?


「わ、わいに血を分けてくれ」



        ※


 

 マモルは家中の「ち」を探し回っていた。


-あ、あれ?わい「血」言うたよな……?


 早く契約をしないといけないカルパスは焦っていた。その少年が何故か家の中を動き回っているのはどう考えても謎だ。


 5分ほど経つと守がカルパスの元へ戻ってきた。

 

「お待たせ-」


そう言うと守は新聞紙や書物から切り抜いた「ち」という文字をカルパスの前に置いた。


「いやアホかい!わいが欲してるのは血や血!赤い方のやつや」


はっ…!?とした表情を浮かべる守にカルパスは説教を続ける。


「確かにな、こんな状況でパニクってんのはわからんでもない!せやけどな、それは間違いどころの話やないやろ!」


 関西弁での説教は妙に圧力がある。


 自分のしたことに気がついた守は思った。人間はパニックになると何するかわからないものだと。


「血が欲しいって?」


「そうや、わいは天界族や。天界人はこっちの世界で生きるために自分らの血を飲まなアカンねん!」


 守はそう言ったカルパスの顔をおもむろに殴った。


「ぐほぁ!な、自分なにやっとん!?なにやっとん!?」


「?…血が欲しいんだろ?」


「いやいやいや!自分らの言うたやろ!なにそれ天然か!いや、わざとやったやろ今!」


-ヤバイ奴のとこに来てもうたか!?


 鼻血を流しながら怒鳴るカルパスに守が聞く。


「天界人ってなに?」


「お前…この状態見ながらよく質問できるな…」


 守がもう一度拳を振り上げる。


「ま、待て待て。悪かった後でちゃんと話す!話すから、ちょっと縄ほどいてくれ」


 カルパスが涙目になってきたので守は縄をほどいてやった。


「よっしゃ、それでなんやったっけ?」


 鼻血を拭きながらカルパスは聞いてきた。


「お前が現れた経緯からして天界人の存在は受け入れよう。それでその天界人がなにしに来た?」


「兄ちゃんは話が早くて助かるわ」


「血はなんで必要なんだ?」


「順番にいこか。まずわいがここに来たのはわいのミスのせいや。訳あって天界を永久追放されてしまったんや」


「天界を…永久追放か、訳は聞かないでおこう」


 守は手を組む仕草をみせる。


「それでな天界人は下界…つまり兄ちゃん達、人間の住む世界では人間の血を飲んで、契約せな生きていけへんのよ」


「それで僕の血が欲しいと」


「そうそう!あっちにはもう戻れんからな、頼む!分けてくれへんか?」


「そうか……断る」


 守がカルパスを見下ろしながら言った。


「そ、そんな殺生なぁ…」


「いいか、僕は受験生なんだ。今が受かるかどうかの大事な瀬戸際で、お前のお遊びに付き合っている暇なんかない!」


「あ、遊びやあらへんて!こちとら死ぬか生きるかの瀬戸際やねんて!」


 腕にすがり付くカルパスを守は容赦なく突き放す。


「そんなに欲しいんだったら他をあたれよ」


「そや!自分受験生やったな。ここだけの話、上手い話があんねん…」


 カルパスが思い出したかのように小声で守に言ってきた。

 守は当然気になった。


「………なんだ」


「人間が…天界人と契約するとな…」


「………早く言えよ」


「頭脳がめっちゃ明晰になんねん。ついでにな身体能力もめっちゃ上がるっつう訳や」


「はぁ?」


「これは契約でな、血貰う代わりに人間側にも何かメリットないとなっていう遥か昔からの習わしや」


 その条件に守は少し頭を抱える。


「…………契約したら受験……受かるか?」


「あんなん幼稚園の問題レベルに感じるでー」


-そんな、好条件での取引なら……


 深呼吸したあと守は口を開いた。


「わかった……契約しよう」


 受験生である守は受験というストレスを回避する事が一番望んでいること、頭が良くなる身体能力もアップする。この年頃の人間にとっては夢のような機会である。


「ほな儀式の準備や」


 カルパスは何も無かった空中から小さいナイフと平たいコップを2つ出した。


「!?……今どっからそれを!?」


「契約すればこの力も使わせてやることもできるっちゅうに」


「それで切るのか?」


「ああ、これは天界製の代物や。全然痛くならへんから心配すんなや」


「ふーん……」


「よし、準備OKや!ほらお前はこれを飲め。中身ほ何でもいいんだが今回は天界製ブドウジュースや。上手いぞ」


 

 手渡されたコップを片手に左手を差し出せと言われ、言われた通り差し出す。

 

 左手の甲にナイフで切れ目を入れる。


-おぉ、痛くない。


 血を適量出すと傷口は勝手に塞がった。


「どや?天界製のはすごいやろ?」


「ああ、早くしろよ。死ぬんだろ」


「そやったそやった。ほな流れは、名前を言い合って同時に飲む。それでだけや」


 カルパスの言葉に守は頷く。


「わいはカルパス、訳あり天界人や」


「僕は石田イシダ守、中3の受験生だ。」


 名前を言い合ったあと2人は同時にコップの中身を飲んだ。


「おし、契約完了や!よろしくな」


「ああ……」




 こうして僕は受験を控えた大事な時期に天界人と契約した。







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