episode1
あたし、島田深月。中学2年生。
11月2日をもちまして、死にました。
自分がドジだということはわかっていたけど、まさかそのドジのせいで死ぬとは思っていなかった。
死因はよく分からないけど、とりあえず車に轢かれてそのまますーっと逝ってしまったらしい。いやー、びっくりびっくり。
いやいや、そんなこと言ってられない。死んだら小説が書けない! それはだめだ!
天国に連れて行かれたあたしは、お偉いさんみたいな人に必死に頼んだ。
「ここ、パソコン使える!? ネットワーク環境ある!? あたし、『小説家になろう』ってサイトで小説更新したいんだけど!」
ちんぷんかんぷんなようだ。それでも頼み続ける。すると、どうやらネットワーク環境があるらしく、パソコンもあるらしい! これなら更新が出来るかも!
「……話は分かった。しかし、更新をここでして下界に配信するということは、こちらとあちらが繋がりを持ってしまうことになる。だから、悪いが島田深月に関する記憶を、すべての人から消すぞ」
お偉いさんの天使がそう言った。よく分からないけど、とりあえず小説の更新をするためにはあたしに関する記憶をお母さんとか友だちの記憶から消さなくちゃいけないらしい。
でも、私のなろうでのペンネームでもある月代うさに関する記憶は残るらしい。あたし=月代うさだと分かっている人はこの世界に一人しかいないんだけど、そこは大丈夫なのかな?
まあ、いいか。不具合があったら直してくれるよね。
「それじゃあ、今日から更新を許可する。下界では今日は2016年2月1日らしいぞ」
「え!」
もう、年越しちゃってるの!? こっちの時間って早いのかな!?
「ねえ、時間を遅くしたりとかできない? そんなにこっちの時間早かったら、どんだけ書いてもあっちではゆっくりしか更新されてないことになっちゃう」
それは困る。ここでは学校も何もないから小説だけを書けるけど、そのくせあっちの時間がぱっぱと進んでしまったら、あたしがいくら書いてもあっちの時間に追いつけない。
……自分でももうなに言ってるのかわからなくなりそうだけど。
「……そうか。それなら時間の進みの遅くなる部屋をお前に貸し出そう」
「やった!」
あたしは飛び跳ねた。でも、何でこの天使さんはこんなにあたしによくしてくれるんだろう?
疑問に思ったので聞いてみると、娘に顔が似ているらしい。そうなんだ。それってどうなの?
まあでも、私は得してるんだからいいかな。小説の更新も出来るらしいし、パソコンが使えるということは他の小説の更新もちゃんと見れる。
続きが気になってたけど時間がなくて読めてなかった小説も、この機会に読もう。パソコンがあればほとんどなんでも出来るね。
でも、天国にパソコンがあるなんて意外だ。そういうことも、あるものなんだね?
すると天使さんが私の心を読んだみたいに疑問に答えてくれた。
「この世界にやってくる死人の中には、お前みたいなわがままなやつもいてな。そこで、ネットワーク環境をこの間整備したばかりなんだ」
「へえ~」
そっか。ヲタクとかネット廃人からすれば、ネットがない世界なんて絶望的だもんね。
私も、小説が書けない世界なんて嫌だ。そんなの、死んじゃう。って、もう死んでるか。
「……なあ、深月?」
「ん?」
やけに深刻そうだ。なんかあったのかな?
「お前のことを覚えているやつが、一人だけいるぞ」
「へ?」
さっき、記憶消したんじゃなかったの? そう尋ねてみると、天使さんは頷いた。
「消した。消したんだが、一人だけ――――」
天使さんが見ているモニターを覗き込む。そこに映っていたのは、私の親友の山中佳奈だった。
「佳奈!」
「知ってるのか?」
あたしは頷く。佳奈だ。あたしの大好きな、佳奈。
月代うさのページを見ている。ああ、そうか。佳奈はうさのことを覚えているから――――。
ってこれ。
「やばいの?」
「やばいな」
やばいらしい、です。