K
それはまるで、宮廷全体が……いえ、世界を押し包む夜全体が笑ったようでした。
「道化めっ!」
謀反に走った親衛隊騎士団の筆頭隊長はそう吐き捨てると、深々と突き刺した剣を引き抜くのです。剣先を滴り落ちる血の雫の先には、いま心臓を貫いたばかりの王の真っ赤な胸板があるだけです。もっとも、替え玉だった道化の胸板でしたが。
「やりおったな、やりおったな。これからは剣の時代じゃ。貨幣は謀り心は乾き、棍棒は猛威を振るうであろう」
「くっ」
舌打ちして親衛隊長は振り向きます。広間の奥にひっそりと佇み不吉な預言をした道化は王の姿に戻り、大きな笑い声と共に闇の霧のように姿が広がって夜にまぎれてしまったのです。
残された者の中で、錯綜した王妃がナイフを自らの胸に突き立て息を引き取るのでした。
「それからどうしたの?」
ベッドで布団に包まる少女はそう言って、添い寝する女性に言った。
「口にはされません。物語はここでお終い」
ただ、親衛隊長は王を追って夜に紛れたと聞きます、と女性。
「それは仕方ないけど、それじゃ貴方は誰?」
少女に聞かれ、寂しそうに微笑する。
「さあ? もともと口にされない存在です」
おしまい
ふらっと、瀨川です。
他サイトのタイトル競作に出展した旧作品です。やや改稿しています。
動と静のコンビネーション、豊かさと喪失感をお楽しみください。