第一話:さよなら阿部先生
僕はジョセフである。戒名はまだ無い・・・遠くないうちにできそうであるが。
今日は念願の退院日だ。
もう、顔見知りどころか家族と言っても差支えがない程一緒に生活してきた医者や看護婦達が祝ってくれる。
「あの子次は何ヶ月後に来るか賭ける?」
「乗った!2ヵ月後に1万で!」
「あたしは1ヶ月に2万で」
「甘いわね貴方たち、今までの頻度から20日に5万よ」
・・・なんだか縁起でもない事を言われてる気がする。
実際、弟たちと暮らすようになって既に何度も入退院を繰り返してる身としては非常に現実的な話だ。
「ジョセフ君、退院おめでとう」
「ありがとうございます、阿部先生」
長年僕の専属医みたいに連れ添ってきてくれた阿部先生、ガタイの良いちょいワル系なお兄さんで僕のことをいつも親身になって見てくれていた恩人だ。
僕が寂しくて泣いてる夜はいつだって添い寝してくれた優しい人だ。
「君が居なくなると夜が寂しくなるが、どうせ君のことだ、すぐまた逢えると期待して待っているよ」
「先生までそんな事言わないでくださいよ」
「本来なら君は既に何度死んでもおかしくないぐらいの重症を繰り返しているからね、くれぐれも無茶はしないように・・・あぁ、君。私は今日中に再入院に10万だ」
阿部先生は優しく僕のお尻を撫でてくれる。
先生に撫でられていると胸の当たりがぽわーっとして夢見心地になる。
父を早くなくして母親と二人だけの幼児期を過ごしたから優しい大人の男性に父親の姿を見ているのかもしれない。
先生と一緒に寝ると本当に幸せな気持ちになるんだ。
病室のベットで小さいから窮屈で翌朝お尻が痛くなるけど、その幸せを感じたくて週になんども添い寝を頼んでいたんだ。
その先生と離れるのは寂しいけど、家には僕の大切な弟たちがいる。
弟たちは僕に懐いているのできっと寂しい思いをして待っているに違いない。
「先生、僕行くよ。弟たちを幸せにするために」
そうして僕は家へ帰るのだった。