表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

赤いボタン

作者: 如月 什肋

 赤いボタンがあった。

 御船は背筋がぞっとすると共に、反射的に目を逸らす。

 向くのは下。足元には綺麗に磨かれた大理石があった。

 ここは広いホールだ。

 天井も高く、人が百人は入れそうな清潔な白いホール。

 その白いホールには、大きな窓張りの向こうに見える景色意外には銀色と黒と肌色……そして赤があった。

 赤は、押しボタンの色。

 銀色は大体五十cm四方の観音開きの扉。

 肌色は人の肌の色。

 黒は服の色。

 皆、皆、黒い服を着ている。

 その服が儀式的に必要なのだと御船は誰に訊くことなく知っている。だから、彼自身も同じ黒い服を着ていたが、高校生なので詰襟の学生服である。なので実際は少し青が入った黒色の服を着ていることになる。

「どうぞ、こちらを押してください」

 御船の父が初老の男に事務的に言われると、赤いボタンの前に立ち、そして人差し指を伸ばした。

 御船は、躊躇いもない父の行為にまたもや血の気を失う感覚を味わった。

 ―――どうして、そんなに簡単に。

 そう問い掛けたくなった。

 しかし、御船は口を閉ざしたままだ。訊いてしまったら、臆病者と言われそうで怖かったからだ。

 御船の父が赤いボタンを押す。

 意外にも固いボタンであるらしく、強く押し込んでいた。ぐぐっ、と音を聴いた気がした。

 その音を聴いたとき、御船はもう取り返しの付かないことになった、と全身の力が抜ける虚無感を覚える。

 こうして人は焼かれるのだ。

 銀色の扉の向こう。そこでは今頃火が溢れているのだろう。

 そして火の中には、ただのたんぱく質の塊がある。

 つい二日前までは、ちゃんと動いていたたんぱく質だ。

 人はそれを肉体と言う。

 もっと正確に言うのなら、それは御船の祖父であった肉と骨だ。

 祖父は今、焼かれている。父の手によって。

 肉が焼かれる臭いなど、自分のところへ来るわけではないのだが、何故か御船の鼻には嫌悪感を催す香ばしい臭いを嗅いだ。

 御船はどうにかして臭いを追い払おうと、顔を振り回すが、どうしても臭ってしまう。

 多分、この臭いは幻覚なのだ。

 ただ、今、厚い扉の向こうで祖父が焼かれていることを想像しているから嗅いでしまうのだ。

 聴こうと思えば、悲鳴も聴こえるだろう。

 ホールに集まっていた親族たちが外へと出て行く。ある者は喫煙所へと煙草を吸いに行った。

 御船の父が初老の男に頭を下げ、そして御船の下へと歩いてくる。

「焼き終わるには時間が掛かるから、お茶の席に行くか」

 と、肩を叩いてくる。

 御船は父の手を自然に避けようとしているのに気付き、身体を止める。

 肩に手を置かれた。

 父のその手があの赤いボタンを押し、祖父を焼いたのだ。

 御船は恐怖する。

 それは別に父を恐れていたからではなかった。父のその手を恐れていたのではなかった。

 恐怖を感じたのは自分の未来だ。

 自分のその手だ。その人差し指だ。

 いずれ父は死ぬ。

 今、目の前に立っている父は死ぬ。そして父の横に連れそう母も死ぬ。

 ならば、彼らの肉体を焼くのは誰だろうか。

 勿論、御船しか居ない。

 しかし、御船は思った。自分にそんなことが出来るのか、と。

 果たして、自分は親を焼けるのだろうか?

 こんなにも愛情をそそいでくれた親を焼けるのか。

 御船はいずれやって来る未来が怖くなった。

 怖くて涙が出そうになった。

 何故か、御船の人差し指には何かを押した感覚があった。何か、とても重いものを押した感覚があった。

 多分、それは幻覚だ。そして未来の感覚だ。

 赤いボタン。

 御船はそれを押したのだろう。

久しぶりに小説を書こうとしたら、こんなのが出来ました。

これだから、自分はブラックだとか人に言われるのだ!



そういえば、私は過去にボタン関連で小説書いてましたね。

はてはて? 不思議なことです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ