中継に映り込んだ家族。
食卓の団欒が、画面の向こう側へとずれていく。
とある夜のことだった。我が家はいつものようにリビングで食卓を囲んでいた。テレビでは心霊特番が放送されている。
普段なら見向きもしない類の番組だ。
だが、連日の高校野球とクイズ番組に飽き飽きしていた我々は、目新しいものに惹かれたのか、ついチャンネルを合わせていた。
「ただの風だろ」
「そんなもん、見えねえよ」
父や私が軽口を叩き合いながらも、画面から目を離せない。
母も箸を止めて、じっと見つめている。突然、中継に切り替わった。
古びた教団施設らしい場所だった。何年も人が出入りしていないらしく、敷地は雑草に覆われ、木々が生い茂っている。
カメラを抱えたタレントたちが、懐中電灯の光を頼りに、恐る恐る中へ進んでいく。
父がぽつりと呟いた。
「うちの道場も、こんなふうになってるぞ」
母が苦笑する。
「しょうがないじゃないの。免許返してしまったんだもの。誰も運転できないんだし」
「売っちまおうか?」
私が軽い調子で言うと、胸の奥で淡い疑問がかすめた。
なぜ、売らないのだろう?
だが、そんなことはすぐにどうでもよくなった。番組が、どうしても気になって仕方がない。
そのとき、母が突然、大きな声を上げた。
「いやだ…ここ、うちの道場よ」
画面を凝視する。
確かに似ている。いや、似ているどころではない。玄関を入ったあたりで、確信した。まちがいなく、うちの道場だ。
先頭を歩いていた男が、道場の入り口に置かれた剣道の打ち込み台を見て、半狂乱になった。
人が立っているとでも思ったらしい。
竹刀を構えた形で六台ほど放置してあったせいで、他のタレントたちは散り散りに逃げ、その拍子に竹刀に突き刺さり、悲鳴を上げている。
やつらは、俺たちの許可なく、土足で踏み込んできた。
壁に掛けられた写真にカメラが向く。両親と、私の写真。
「教祖夫婦と息子の写真がありました!」
中継の声が甲高く響く。
「ここは集団自殺をした場所です!」
「いいえ」
私は思わず声を上げた。
「ただの剣道の道場です」
そう言って両親の顔を見やった瞬間、言葉が止まった。さっきまで目の前にいたはずの両親が、いない。椅子は空だ。
湯気の立つ茶碗だけが、静かに置かれている。
なにげなくテレビに視線を戻すと、そこに、両親が映り込んでいた。
父が、低い声で言っている。
「おい、おたくさん。誰に許可を取った?」
母は、手に木刀を握りしめ、ゆっくりと近づいていく。誰かが騒ぐ。
「知らない人の声が聞こえた…!」
別の人間が叫ぶ。
「何だか、体が…痛い…!」
ああ、そうだった――
俺たち家族は、母の運転で事故に巻き込まれて、死んだのだった。
画面の向こうで、母の木刀が振り下ろされる。
悲鳴が重なり、カメラが激しく揺れる。
リビングの明かりが、ふっと消えた――
読んで頂き有り難う御座います。




