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中継に映り込んだ家族。

作者: をはち
掲載日:2026/09/30

食卓の団欒が、画面の向こう側へとずれていく。


とある夜のことだった。我が家はいつものようにリビングで食卓を囲んでいた。テレビでは心霊特番が放送されている。


普段なら見向きもしない類の番組だ。


だが、連日の高校野球とクイズ番組に飽き飽きしていた我々は、目新しいものに惹かれたのか、ついチャンネルを合わせていた。


「ただの風だろ」


「そんなもん、見えねえよ」


父や私が軽口を叩き合いながらも、画面から目を離せない。


母も箸を止めて、じっと見つめている。突然、中継に切り替わった。


古びた教団施設らしい場所だった。何年も人が出入りしていないらしく、敷地は雑草に覆われ、木々が生い茂っている。


カメラを抱えたタレントたちが、懐中電灯の光を頼りに、恐る恐る中へ進んでいく。


父がぽつりと呟いた。


「うちの道場も、こんなふうになってるぞ」


母が苦笑する。


「しょうがないじゃないの。免許返してしまったんだもの。誰も運転できないんだし」


「売っちまおうか?」


私が軽い調子で言うと、胸の奥で淡い疑問がかすめた。


なぜ、売らないのだろう?


だが、そんなことはすぐにどうでもよくなった。番組が、どうしても気になって仕方がない。


そのとき、母が突然、大きな声を上げた。


「いやだ…ここ、うちの道場よ」


画面を凝視する。


確かに似ている。いや、似ているどころではない。玄関を入ったあたりで、確信した。まちがいなく、うちの道場だ。


先頭を歩いていた男が、道場の入り口に置かれた剣道の打ち込み台を見て、半狂乱になった。


人が立っているとでも思ったらしい。


竹刀を構えた形で六台ほど放置してあったせいで、他のタレントたちは散り散りに逃げ、その拍子に竹刀に突き刺さり、悲鳴を上げている。


やつらは、俺たちの許可なく、土足で踏み込んできた。


壁に掛けられた写真にカメラが向く。両親と、私の写真。


「教祖夫婦と息子の写真がありました!」


中継の声が甲高く響く。


「ここは集団自殺をした場所です!」


「いいえ」


私は思わず声を上げた。


「ただの剣道の道場です」


そう言って両親の顔を見やった瞬間、言葉が止まった。さっきまで目の前にいたはずの両親が、いない。椅子は空だ。


湯気の立つ茶碗だけが、静かに置かれている。


なにげなくテレビに視線を戻すと、そこに、両親が映り込んでいた。


父が、低い声で言っている。


「おい、おたくさん。誰に許可を取った?」


母は、手に木刀を握りしめ、ゆっくりと近づいていく。誰かが騒ぐ。


「知らない人の声が聞こえた…!」


別の人間が叫ぶ。


「何だか、体が…痛い…!」


ああ、そうだった――


俺たち家族は、母の運転で事故に巻き込まれて、死んだのだった。


画面の向こうで、母の木刀が振り下ろされる。


悲鳴が重なり、カメラが激しく揺れる。


リビングの明かりが、ふっと消えた――


読んで頂き有り難う御座います。

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