本の紹介48『工作者の散歩道(鈴木扇二作品集Ⅲ)』鈴木扇二/著
絵と言葉が織りなす芸術。心のどこかに置き忘れたものを思い出させてくれる珠玉の作品集。
青林堂という出版社から発行されている作品ですが、既に絶版となっているので手に入れるのに苦労しました。色々な古書店を回り、そこそこ良い値段で購入したのですが全く後悔はないです。それほどの価値のある作品だ思います。
十二の物語で構成される作品集なのですが、いずれもタイトルが素晴らしいです。「東京グッドバイ」や「むこうのラムネ庵」が特にキャッチーです。
絵柄は劇画的というか、つげ義春さんに近いタッチの画風ですが、写実的でありながら、どこか温かみというか、愛嬌のある感じが魅力だと思います。
日常的な風景を切り取っていると思わせながら、いつの間にか幻想的な世界に迷い込んでいるような感覚になるのですが、これは絵柄はもちろんのこと、巧みに用いられる詩的な言葉による影響も大きいと感じます。漫画作品で味わう言語感覚としては、かなり特異なものだという印象を受けました。
時代的な背景もあるのかも知れませんが、漫画とはこういうものだという固定概念に囚われることなく、より芸術に近いものを表現しようとしている作品のように思えます。
突飛な展開とか衝撃的な絵面をこれ見よがしに見せつけるのではなく、レイアウトの切り方だとかカメラワークだとかいうものを、物語を生かすために最大限活用しているのです。
決して気を衒ったような作風ではないのですが、絵と言葉が複雑に絡みあい唯一無二の世界を作り出しています。
都会の雑踏を彷徨いながら不思議な光景に出会うといった筋立てがメインですが、なぜかどの作品にも懐かしさというか心に引っかかるものがあるように感じました。
実際に自分の記憶にあるような風景が描かれているわけではないのですが、その景色の中に隠れているのは誰もが一度は感じたことのある気持ちであったり、イメージなのだと思います。
普遍的なものを惹起するために巧みに折り重なった絵と言葉。このような作品と出会うことは、たとえ趣味的な世界であっても大きく人生に影響を及ぼすことになるのではないでしょうか。
漫画は今やとてつもなく大きな市場となり、日々新作が流れ込んでくるような状況ですが、新しく生み出されるものに慌てて手を伸ばすだけでなく、過去に紡がれ今に通じている作品を掘り起こすことも有意義です。
自分も今の作品を楽しく読んでいますが、いかに読者の共感を得るかということに注力するあまり、言葉の使い方がちょっと露骨だなと感じることがあります。説明的というか、心情をそのまま言葉にし過ぎと言いますか。言葉が表す内容だけでなく、言葉自体が持つ美しさのようなものをもっと大切にしても良いのではないかなと。ノータイムで脳に届かずとも、じんわりと良いなと感じる物語が好きなのです。終わり




